チェーンスパイクとトレッキングポールで冬山登山を楽しもう! 【後編:スパイクと登山靴、手袋はなにがおすすめ?】

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今年もスタートした冬山シーズン。「冬山」=アイゼンとピッケルで登る「本格的な雪山」と思われがちですが、実は雪が降らない冬山もあるし、雪が積もっていてもアイゼンとピッケルを使わずに登れる冬山もあるんです。今回は本格的な雪山とは違う、チェーンスパイクとトレッキングポールで楽しめる冬山の歩き方を、前後編に分けて紹介します!

文=吉澤英晃

目次

前編に続き教えてくれたのは、東京都三鷹市にある登山用具専門店ハイカーズデポの店主、土屋智哉さん。後編は「チェーンスパイク、登山靴、手袋」について学びます。

チェーンスパイクの注意点&おすすめ

――今回前提としている雪が少ない山域の森林限界以下の冬山を歩くとき、滑りそうな雪面や凍った地面が現れたら、タイトル通りチェーンスパイクを使います。簡単に歩けると思うんですが、注意点はありますか?

前編で説明した森林限界以下の冬山なら、チェーンスパイクを履いてトレッキングポールを持っていれば、基本どの山にも対応できます。ただし“チェーンスパイクがあれば大丈夫”という意味ではありません。登山は“道具があれば山に登れる”というものではなく、身のこなしや歩行技術など“各個人のスキル”が必要不可欠。チェーンスパイクも、使いこなす歩行技術があってこそ森林限界以下の冬山を安全に歩けるようになります

写真=花岡 凌

――“道具は持っているだけではダメ”という話はよく聞きます。歩行技術について具体的に教えてください。

大事なことはチェーンスパイクで安全に下れるか

冬山初心者の方でもチェーンスパイクを履けば、きっとどんな斜面も登れると思うんです。ただし問題は下るとき。以下の3つが最低限必要な歩行技術といえるでしょう。

  • 斜面を下るときに腰を引かない
  • 爪が効いているかきちんと確認できる
  • 足裏でしっかり雪面をつかまえることができる

恐怖を感じて腰が引けてしまうとチェーンスパイクの爪が効かなくなるので、前に進めない、もしくは下山までにすごく時間がかかるといった危険が考えられます。

イラスト=ヨシイアコ

――でも、冬山初心者の方が事前に怖がらずに斜面を下れるか確かめるのは難しいです。

まずはチェーンスパイクを持って森林限界以下の冬山に登ってみましょう。そこで、ちょっとでも急だなと感じる上り坂が現れたら、後ろを振り返って2・3歩でいいので下ってみてください。このとき、異常なほど怖さを感じて腰が引けてしまう、滑りそうでチェーンスパイクを信頼できない場合は、そこがチェーンスパイクで歩ける限界点です。無理をせずに引き返しましょう。雪上の歩行技術が自分に足りないと感じたら、講習会などで学ぶことをおすすめします。

――これなら技術不足でも危険な状況を回避できそうです。次はチェーンスパイクのおすすめモデルについて教えてください!

チェーンスパイクはスタンダードモデルがおすすめ

前足部とかかと側にバランス良く爪が配置されている一般的なモデルがいいですね。注意したいのは前足部だけに爪があるようなモデルで、これは雪上歩行を学んでいる人がさらに軽量化のために選ぶ道具です。

ブラックダイヤモンド/アクセススパイク トラクションデバイス(7300円+税) かかとに指を引っ掛けるループがあり、非常にラクに着脱できる https://www.lostarrow.co.jp/store/
ノルテック/ノルディック(7900円+税) 他のモデルと比べると爪の本数が多く、合計で21本の爪でグリップする https://staticbloomshop.shop-pro.jp/

トレッキングポールは積雪量に応じたモデルも検討

――トレッキングポールについても選ぶポイントがあれば一緒に聞きたいです。

チェーンスパイクで楽しむ冬山なら、なにを使っても大丈夫です。ただし今後、そこそこ積雪が積もっている冬山に登るようになったら、ファストパッキング向きやトレイルランニング向きの軽量モデルはやめましょう。冬山は夏山以上にトレッキングポールに体重をかけることが多いので、折れてしまう可能性があります。スノーバスケットを装着できる丈夫なモデルを選びましょう。

写真=花岡 凌

その他の装備の選び方

登山靴は防水でハイカット&ソールの硬いモデルがいい

――これで服装と足元の装備がわかりました。最後に手袋や靴、そのほかの必要装備について聞かせてください。まずは靴から聞きたいのですが、やはり冬靴は購入するべきでしょうか?

実は衣服よりも靴の方が重要だと思っています。冬靴とまでは言わないので、少しでも雪がある冬山を登るなら、防水機能が付いたハイカットで、ソールが硬いシューズを選びましょう。

――雪で濡れることを防ぐ防水性と、雪が靴の中に入ってくるのを防いでくれるハイカットは分かるのですが、ソールの硬さはなぜ必要ですか?

ソールが硬いとつま先に体重をのせやすく、雪上でも滑らずにグリップを効かせることができるんです。それがソールの柔らかい靴だと、グッと踏み込んだときに足裏が簡単に曲がってしまうので、本来つま先に集中させたい力が逃げてしまい、グリップを効かせることができません。歩きづらいだけでなく、余計な力を使うので疲労もたまるし、ふくらはぎの筋肉が張ってしまうこともありえます。

夏山をトレランシューズなどで歩いている人でも、登山を始めたときに買った防水のトレッキングシューズなどがあれば、まずはその靴を履いて冬山に登った方がいいでしょう。

レインスパッツは持っていた方がいい

――靴の中に雪が入るのを防ぐために、雪山用のゲイターも用意した方がいいですか?

これはレインスパッツで代用できます。使わないかもしれませんが、できれば持っていた方がいいですね。ちなみに、雪山用のゲイターは丈が長くて丈夫な生地で作られていることが多く、靴の中に雪が入ってくるのを防ぐ役目のほかに、パンツの裾をまとめてアイゼンで生地を引っ掛けて転倒する危険を減らす目的があります。今回はチェーンスパイクで歩くことが前提なので、ここまでのモデルは必要ないです。

手袋は2セットを必ず準備

――次に手袋について。これも冬山では重要なアイテムです。

手袋は必ず2双以上用意することが重要です。風で飛ばされるなど、何かの拍子に紛失してしまった場合や、雪や手汗で濡れてしまったときに備えてきちんと用意してください。

――種類が多いですが、おすすめのアイテムはありますか?

リスクを分散させるためと、気温や風の有無などさまざまな環境の変化に対応できる柔軟性を持たせるために、保温グローブと防水グローブを分けて用意した方がいいです。おすすめは、ウールの温かいグローブと薄いオーバーグローブの組み合わせ。昔は多くの人がこのセットで冬山に登っていたんですよ。手袋のように種類が多くて道具選びに迷ったときは、過去のスタイルに立返ってみるのもひとつの手です。

マジックマウンテン/ラックナーグラブ(4500円+税) オーストリア産の羊毛100%の手袋。油脂を多く含むので濡れても温かい http://www.magic-mountain.jp/
ブラックダイヤモンド/ウォータープルーフ オーバーミット(9900円+税) 防水性に優れたオーバーグローブ。伸縮性のある防水透湿素材を使用 https://www.lostarrow.co.jp/store/

街でも使う防寒アイテムが冬山でも役に立つ

――ほかにも準備するといい道具があれば教えてください。

首元を温めるネックゲーターがあるといいですが、持っていなければマフラーでも充分です。頭を保温するビーニーも加えたいですね。寒い冬山で冷たい水を飲むのはつらいので、お湯を入れた保温ボトルも用意しましょう

サーモス/山専用ボトルFFX-501(5500円+税) 山での使用を考えて作られた保温ボトル。日帰り登山には500mlの容量がぴったり https://www.thermos.jp/

――冬になったら街中でも欲しくなる防寒アイテムを用意すれば良さそうですね。

最後に、標高が低い冬山では天気が悪いと雪が降らずに雨が降ることがあります。冬の雨で衣類が濡れると乾かないばかりでなく、夏山以上に体温を奪われるので大変危険です。天気が良い日を狙って無理せず楽しんできてください。

――最後まで詳しく話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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プロフィール

土屋智哉

1971年、埼玉県生まれ。古書店で手にした『バックパッキング入門』に魅了され、大学探検部で山を始め、のちに洞窟探検に没頭する。アウトドアショップバイヤー時代にアメリカでウルトラライトハイキングに出会う。このムーブメントに傾倒し、自らの原点でもある「山歩き」のすばらしさを再発見。2008年、John Muir Trailをスルーハイクしたのち、幼少期を過ごした三鷹にウルトラライトハイキングをテーマにしたショップ「ハイカーズデポ」をオープンした。シンプルなハイキングスタイルと奥多摩・奥秩父の魅力を伝えようと奮闘中。著書に『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社)。

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