ユーモラスな語り口でしくみを説く『富士山はいつ噴火するのか? 火山のしくみとその不思議』【書評】

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評者=鈴木みき

富士山はいつ噴火するのか? 火山のしくみとその不思議

著:萬年一剛
発行:筑摩書房
価格:924円(税込)

 

こういった専門性の高い本を読んでいて「フムフム」となることはあっても、本書のように「プッ」と噴き出してしまったことがあっただろうか。これでも私は火山を含む、地球の成り立ち系の新書はけっこう読んでいるほうだ。著者は火山地質と降灰シミュレーションが専門の火山研究者。1971年生まれの同世代ということもあるのか、笑いのツボが似ているのかもしれない。……いや、だから「噴火」の本で笑うっていうのがそもそもないのだ。

しかしその笑いのおかげで最後まで飽きずに読了できる。タイトルから「富士山」に特化したものを想像するかもしれないが、大半は「富士山」を引き合いに「火山」や「地球科学」の基礎を積み上げていく。その上で富士山の「今」、世界の火山研究の「今」に至る構成だ。自分の生きている現代の情報という点でも、誰もが知っている富士山と絡めている点でも、内容が身近に感じて想像しやすい。

たいがい専門的なことを専門家が解説すると難しくなりがちで、途中でつまずくものと決まっている。そんなときはとりあえずわかったこととして文字を追いかけるか、「私には時期尚早だった」としおりが途中で永遠に動かなくなるかだ。なんとか読み終わったとして、読み終わった自分を褒めてあげるだけで理解したかといえばそうでもないことが多い。

ところが本書は読了後の納得度が高くて、自分の知識になった手応えがある。それは著者が読者を置いてけぼりにしないからだ。

前段前章で解説したことが後段後章で再登場するとき、入門書であってもほとんどの専門家は読者がすでに覚えている前提で専門用語ひとつにして話が進んでしまう。どういう意味だっけ? 頁をさかのぼるもなかなか見つからず、以下、先に書いた二択のどちらかとなる。そこをこの著者は何度でも簡単にリマインドしてくれるのだ。ちくまプリマー新書がヤングアダルト向けということもあるのかもしれないが、記憶力が乏しくなってきた中年にも優しい。

今までどの本でも「地理学の大前提」としてあまり説明がないようなことに文字数を割いてあったのも助かった。さりげなく、くどくなく、入門者へのフォローが本当にうまい。

そして不思議だが、読了から数日経って得た知識を思い返すとき、私は本を読んだのではなく友人に食事しながらその解説をしてもらったかのような記憶違いが起きる。だからぜひ専門書が苦手な人も、本書を知見とユーモアがある友人だと思って気楽に手にとってみてほしい。無責任にいうが、おそらく火山にさほど興味がない読者が読んでも、「なんか」おもしろいんじゃないだろうか。おもしろい人の話は、理解できなくても「なんか」おもしろいものだ。

 

評者=鈴木みき

すずき・みき/登山指南のコミックエッセイを多数出版。今春、初の小説作品『マウンテンガールズ・フォーエバー』(エイアンドエフ)を上梓。最近ではずっと秘めていたジオ好きを爆裂させ、noteに「間熊田マリ」名義で連載を始めた。

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山と溪谷2022年10月号より転載)

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