GWの山小屋の惨状。あらためて問われる入山者の良識

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ゴールデンウィークの日本アルプスの山小屋で起きた「事件」。登山の常識からは考えられないような行為にどう対応すればよいのか、山小屋関係者は当惑を隠せない。

文=ヤマケイオンライン編集部

 

GW後半、とある事件がSNSでバズった。多くの良識ある登山者がその事実に嘆き、憤った。北アルプスで三俣山荘と水晶小屋を運営する伊藤圭さんは、インスタグラムに次のように投稿していた。

「三俣山荘は、何者かの手によって侵入され鍵を開け放たれ、それだけでは済まずにこの冬の季節、この地域を楽しむBCや登山客の間で『三俣山荘使えるらしいよ』と口づてで広まり、多くの無法者に無断で利用されていました」

山小屋には大量の雪が吹き込んでいた
(提供=三俣山荘、以下同)

荒らされた三俣山荘の厨房

 

山小屋内には大量の雪とごみが残され・・・

伊藤さんはGWに山小屋のチェックとバックカントリーを兼ねて黒部源流を訪れていたが、そこで目にしたのが三俣小屋の惨状だった。侵入者が開け放ったままの入り口から大量の雪が山小屋内に吹き込んでおり、乾燥室の雪は2mに達していた。雪で建物内部が湿ってしまうと、建材の腐敗が進みやすくなり、耐用年数を縮めてしまう。室内には侵入者が放置した食べ残しや生ごみが残され、野生動物が入り込んだ形跡もあった。テンが荒らしたとみられる砂糖の一斗缶の付近は、散乱した砂糖が溶けてべとべとになってしまっていた。最初の侵入は2月上旬と推測されており、ゴールデンウィークに登山や滑走を目的に入山した人たちが次々に入り込んで、その人数は10人を超えるのではないかと伊藤さんは推測している。

さらに、侵入は水晶小屋でも発生していた。冬季のため閉鎖していたにもかかわらず、雨戸や窓サッシがピッケルでこじ開けられていた。侵入者も良心が傷んだのか、置き手紙があり、吹雪を避けるために2月8日から11日間滞在していたと綴られていた。避難にしては長すぎる。必要な食料などを持参していることを考えれば、テント装備なども持っていたことだろう。手紙は日本語だったが外国人とみられ、海外の連絡先と現金13,000円が添えられていたという。

 

マナー違反は南アルプスでも

このGWには、南アルプスでも登山者のモラルが問われる事例が確認されていた。聖岳に程近い聖平小屋では、山小屋の様子を見に行った管理関係者が冬季小屋で食品の食べ残しや燃料の空き缶など、登山者が置いていったとみられるごみを発見した。ごみは隠すように押し込まれていたほか、積雪対策で締め切っている雨戸を開け放ったまま立ち去っており、大雪などがあれば山小屋の施設そのものが損壊したおそれもあったという。

聖平小屋の冬季小屋に残されていたごみ
(提供=聖平小屋、以下同)


聖平小屋は井川観光協会が管理を行なっている。管理人の伊東昭宏さんは「忘れ物と思われるウェアや靴の中敷もあったが、ごみは間違いなく故意に置いていったものです。から揚げ粉が何袋もあったり、大きなガス缶があったことを考えると、大人数の登山者グループだったのでは」と話す。

「三俣山荘のことも聞いています。あちらはバックカントリーの人が多いようですが、冬の聖岳に来るのは間違いなく本格的な登山者。ここまで登ってくるような登山者のマナーとしてはとても残念です」(伊東さん)

 

「登山の常識」をどう広げるか

山小屋のいちばん重要な役割は緊急避難だ。「悪天候やケガ、病気など命の危険がある状況なら、閉鎖中の山小屋に避難するのも仕方ないと思います」と三俣山荘の伊藤さんはいう。しかし、今回の事例で問題視するのは、次のような点だ。

  1. 必要な装備を持ち、気象条件もわるくないのに快適さを求めて侵入した
  2. 侵入後、戸締まりがなされていなかった
  3. 侵入者が次々に三俣山荘が利用できるという誤った情報を拡散した

これらはマナー違反を通り越して、不法侵入や器物損壊にあたる行為であり、刑法の「緊急避難」には該当しないだろう。伊藤さんは被害届の提出も検討しつつも、登山者の生命を守るという山小屋経営者としての使命感を抱えて逡巡している。

登山は、登山者自身の自発的なマナー順守によって成り立っている。山岳環境への配慮も、山小屋や登山道といったインフラの利用方法も同様だ。しかし、それらは「登山の常識」であり、観光や、ランニング、スキー、スノーボードといった登山者とは異なる属性の入山者が多い山では、そうした「常識」を求めるのが難しいケースもある。パンデミックの終了宣言を受けて、海外からの登山者も再び増加することが見込まれる。山を守るためのマナー周知をどうするのか。環境省や地方自治体が山岳観光の振興に力を入れるなか、こうしたトラブルへの対策も求められている。

 

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