紅葉と渓谷美を観賞。福岡・大分県境の犬ヶ岳へ
稜線を飾る紅葉と渓谷美を満喫できるコースを歩きたいと、福岡県と大分県の県境に位置する犬(いぬ)ヶ岳に向かいました。
文・写真=池田浩伸
犬ヶ岳は、福智(ふくち)山・英彦(ひこ)山・宝満(ほうまん)山・脊振(せふり)山などと同じく山岳修験道で栄え歴史や伝説が多く残っています。西へ延びる主稜線は一ノ岳、野峠を経て鷹ノ巣(たかのす)山、英彦山へ続く古来の山伏道が残ります。東は経読(きょうよみ)岳、雁股(かりまた)山から耶馬渓(やばけい)へ。北には鬼伝説が残る求菩提(くぼて)山があり、英彦山地は総じて熔岩の噴出によってできた鋭い地形です。
山名の由来は、古くは「威奴(いぬ)岳」や「甕(かめ)の尾」とも呼ばれ、求菩提山を開山した卜仙(ぼくせん)が凶暴な鬼の霊を威奴岳山頂の甕に封じ入れたという説があるそうです。
山頂周辺にある国の天然記念物に指定されたツクシシャクナゲの大群落は有名ですが、稜線に残る自然林の紅葉もまたすばらしい景色を見せてくれます。 大竿峠付近にはブナの森が広がり、新緑から紅葉、冬枯れの森を飾る雪景色と、通年楽しめる山です。
説明が長くなってしまいました。バス利用だと求菩提資料館前からのスタートになりますが、車であれば林道の奥の犬ヶ岳登山口に駐車場とトイレがあります。
登山口のすぐ先でウグイス谷コースと恐淵(おそれがふち)コースに道が分れます。どちらから登ってもいいのですが、恐淵コースの後半に徒渉点があることを考えてウグイス谷から周遊するコースをいつも選んでいます。
川の流れの音を聞きながら、まだ緑が残る林道を終点まで進むと登山道に変わり、ジグザグの道からロープがある急坂を登って経読林道に出ます。この付近から森は緑から黄色に変わってきます。
右へ林道を進みベンチのある場所が笈吊(おいづる)峠への分岐点です。この先にはシオジの美しい森が広がります。笈吊峠にもベンチがあり、一休みした後は、難所の笈吊岩に挑戦です。もし雨上がりなど足元が濡れていたら迂回路を利用しましょう。
笈吊峠からは、自然林に変わり錦秋に染まる稜線歩きが楽しめます。
緩やかなアップダウンから、急坂を登りきると石造りの展望台がある山頂に着きます。今は木々が伸びて展望には恵まれませんが、木もれ日に包まれるのも好きです。
いっとき、贅沢な時間を過ごしたら、黄葉したブナの美林越しの展望を楽しみながら大竿峠まで下ります。
ブナの生息域は九州では標高900m以上といわれ、標高が下がるにつれて森は次第にカエデの赤に変わります。錦のように色鮮やかな紅葉を「錦秋」と表しますが、斜光がさらに森を美しく染め、頭の中に「錦秋」の文字が巡ります。やがて一の岳への分岐点になる大竿峠に着き右折して谷を下っていくと経読林道に出ます。
ここからがコースの核心部となり、濡れた岩場に鎖が設置されたスリリングな場所が続き、まるでアドベンチャーコースのように変化に富んだ道になります。
「鈴の中尾」付近の深い谷には美しい滝がかかり、狭い足場や鎖が連続するものの、すばらしい渓流美はこの先の「恐淵」まで続きます。そして最後に待ち受けるのは、右岸から左岸へ鎖を伝っての徒渉です。川の中の大岩を飛び石で渡り、岩壁をトラバースして対岸に上がればほっと一息。大きな木橋を渡って植林帯を抜けて林道に出るとやがて登山口に着きます。
下山後はいつも、近くの卜占の郷(ぼくせんのさと)の湯に浸かって帰ることにしています。
MAP&DATA
コースタイム:求菩提資料館前バス停~犬ヶ岳登山口~笈吊峠~犬ヶ岳~大竿峠~犬ヶ岳登山口~求菩提資料館前バス停 :約5 時間40分
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