もしものときのビバーク術――最優先すべきは体温の低下を防ぐこと
ケガや道迷いなど山の中で思わぬアクシデントに遭遇し、下山できなくなった場合、緊急避難的に野宿する必要がある。それがビバークだ。書籍『ヤマケイ登山教室 山のリスクマネジメント』(山と溪谷社刊)から、ビバークの心得とツエルトなしでのビバーク術について抜粋して紹介しよう。
監修=木元康晴、写真=矢島慎一
ビバークは日没の30分前には決断を
緊急時にはビバークが最適解となることがある。ビバークは、テントやシュラフを使わずに夜を明かすため、危険な行為だと思われがちだ。しかし正しい知識と技術を身につけておくと、体力を温存できるので、安全に下山できる可能性が高まる。むしろビバークをせずに、夜間に歩きまわることは、体力を消耗し、転・滑落を引き起こすことがあるので、かえって危険だ。
では、ビバークは、どんなタイミングで決断するのがよいのだろうか? 基本はその日のうちの下山や山小屋へたどり着くことができない場合だ。たとえば、病気やケガで歩くのが困難になった場合、ファーストエイドを行なったうえで、状況次第では救助要請をし、ビバークを検討しよう。疲労や道迷いで日没時刻を過ぎてしまったときも同様。悪天候で行動するのが危険な場合は、まず風雨を確実に避けられる場所を見つけることが先決だ。その後、ビバークすべきかを考えてみよう。
そして実際にビバークをするときは、遅くとも日没の30分前には決断すること。暗くなってからでは、条件のよいビバークポイントを探すのが難しく、ビバークのための準備にも苦労する。早めに決断をすることは、ビバークの安全性を高めることにつながるのだ。
また、ビバークを決めたら携帯の電波がつながるかを確認し、通話可能なら家族や友人などに「今日はビバークするので帰れない」ことを伝えよう。下山予定時刻を過ぎても連絡をしないと、心配した家族などが救助要請をしてしまうことがある。
登山者のなかには、ビバークをするときは朝まで起きていたほうがいいのではと考える人もいるかもしれないが、そんなことはない。積極的に睡眠をとることは、体力や気力の回復につながるので、できるだけ体を横たえて眠るようにしよう。