多世代・多文化で登山者を受け入れる。東川町大雪山国立公園保護協会
豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、北海道の大雪山旭岳で自然環境保全や山岳遭難防止活動を行なう「東川町大雪山国立公園保護協会」を紹介する。
取材・文=一ノ瀬伸、写提提供=東川町大雪山国立公園保護協会
東川町大雪山国立公園保護協会(2022年度認定)
Area:大雪山旭岳Main activity:自然環境保全
Group profile:
1969年に設立。大雪山旭岳で高山植物保護や登山道整備、外来種駆除、登山者のマナー啓発、中学生を募った清掃登山、自然を考えるワークショップなど活動は多岐にわたる。
1969年に設立。大雪山旭岳で高山植物保護や登山道整備、外来種駆除、登山者のマナー啓発、中学生を募った清掃登山、自然を考えるワークショップなど活動は多岐にわたる。
「旭岳の麓に暮らして日々風景を眺めていると、本当に自然に恵まれているなと感じます。長年守られてきた豊かな資源を未来につなげなければいけないと思うんです」
東川町大雪山国立公園保護協会の宋東憲さんは話す。宋さん自身は韓国出身。スキーが好きで世界各地を巡っていたところ、北海道のパウダースノーに魅せられた。なかでも旭岳周辺の雪は「シルキースノー」と呼ばれ、最高級の雪質。「もっと滑りたい」と、5年前に麓の東川町に移り住んだという。
協会は1969年の設立以降、旭岳周辺の自然保護に取り組む。2019年からはリニューアルした旭岳ビジターセンター内に事務局を置く。夏に多彩な高山植物が咲き、特別保護地区に指定されている姿見池(すがたみのいけ)園地での登山道整備やハイカーへのマナー啓発をはじめ、エコツアーや大雪山の自然に関するフォーラムなど、さまざまなイベントを開いている。
次世代への自然教育も長期にわたって注力してきた。地元の中学生から募った「東川町大雪山愛護少年団」が毎年、旭岳の清掃登山や山麓の天人(てんにん)峡の美化などに参加している。
「東川町は移住者が多い町で幸いにも、子どもの数は増えていて、中学生になったら団員になってほしいですね。一緒に登山道整備も行なっていて、道は残るものなので子どもたちもやりがいを感じてくれているようです」(宋さん)
一方で、課題になっているのが、山のトイレマナーだ。特に近年はインバウンドが急増しているため、外国人登山者への携帯トイレの普及啓発が急務になっているという。
「携帯トイレがすごく不思議なものだと思う海外の方もいます。植物や登山道を守るためにしっかりとその必要性を発信していかなければなりません」
そう語る宋さんは、多言語を駆使してマナーを伝える。山でもインバウンド対応が求められる時代になっている。
★日本山岳遺産認定地 詳細:大雪山旭岳 [ 北海道 ]東川町大雪山国立公園保護協会(2022年)
日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します
日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。
支援団体の条件
- 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
- 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行なっている団体
- 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体
助成対象となる活動費の主な用途
- 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
- 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
- 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費
助成金総額 250万円(予定)
詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html
(『山と溪谷』2024年4月号より転載)
プロフィール
日本山岳遺産基金
日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/
日本山岳遺産の横顔
日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!