ストロベリーやブルーベリーなど、名前に「ベリー」がつく山の果実はたくさんありますが、皆さんは何種類ご存知ですか?
文・写真=昆野安彦
ストロベリーやブルーベリーなど、ベリーが名前の語尾につく植物は案外多く、日本の山にも野生種のベリー類が数多く自生している。今回の記事では、私が日本の山野で見たことのあるベリー類を中心に栽培種も含めて紹介するが、皆さんは果たしてそのうちのどのくらいをご存じだろうか。
以下のそれぞれのベリー類の紹介では、私の経験談や雑学を一つ程度入れるので、どうぞお気軽な気持ちで読み進んでいただければと思う。
ストロベリー(シロバナノヘビイチゴ、ノウゴウイチゴなど)
スーパーで売られているイチゴは北米原産のバージニアイチゴとチリ原産のチリイチゴを種間交雑して作られた栽培種で、18世紀に作られたのが最初の起源とされる。この栽培種と同じオランダイチゴ属の野生種として、わが国にはシロバナノヘビイチゴやノウゴウイチゴが山の植物として自生している。
上高地には遊歩道沿いにシロバナノヘビイチゴが多いが、私はいつも花の方に目が行き、まだ赤い果実の写真を撮っていない。図鑑で調べると、普通のイチゴを少し小さくした感じで、栽培種のイチゴと近縁なことがよく分かる。
ブルーベリー(クロウスゴ、ヒメクロマメノキなど)
ブルーベリーという名前で流通している果実は北米原産のツツジ科スノキ属の栽培種だが、この栽培種に近縁な野生種として、わが国にはクロウスゴ、ヒメクロマメノキ、クロマメノキなどが高山植物として自生している。
大雪山では標高の高い所の岩礫地にはヒメクロマメノキ、やや低い所の林縁にはクロウスゴと、両種の間で自生環境の違いが認められる。両種の果実は互いによく似ているが、クロウスゴは果実の先端が五角形にへこむ特徴があり、これで区別できる。
なお、ヒメクロマメノキとクロマメノキはよく似ているが、ヒメクロマメノキの花は前年枝の枝先、クロマメノキの花は当年枝の先か葉腋につくという違いがあり、私がよく訪れる大雪山の白雲岳周辺で見られるのはヒメクロマメノキの方である。
クランベリー(ツルコケモモなど)
写真家の星野道夫さんの著作を読むと、秋のアラスカの原野でクランベリーの赤い果実を摘む現地の人々の様子がしばしば描写されている。クランベリーの名前はブルーベリーに比べると日本ではあまり知名度が高くなく、星野さんの本を読んでからずっと気になっていたベリー類のひとつだ。
調べてみると、クランベリーはツツジ科スノキ属ツルコケモモ亜属の常緑小低木のことで、わが国にはツルコケモモやヒメツルコケモモが高山植物として自生している。
ツルコケモモは本州と北海道の寒冷な高層湿原に自生し、花期は7月頃。花冠が四つに裂け、まるでカタクリのような可愛い花を咲かせる。ツツジ科らしくない花なので、初めて見たときは何という種類か、少し戸惑ったことを覚えている。果実はまだ見たことがないが、図鑑で調べると洋ナシ型の球形で、赤色に熟すそうだ。
クランベリーの名前の由来は、鶴(crane)のベリー(berry)の意味で、花の形が鶴の頭部に似ていることとされている。たしかにツルコケモモの花を見てみると、鶴によく似ていることが分かる。
なお、ツルコケモモとヒメツルコケモモはよく似ているが、区別点の一つは花柄の毛の有無で、ツルコケモモには毛があるが、ヒメツルコケモモにはないとされている。写真のツルコケモモの花柄には、毛のあることが分かる。
カウベリー(コケモモ)
コケモモはツツジ科スノキ属スノキ亜属の常緑小低木。英名をカウベリーといい、わが国では高山植物として北海道~九州の山地に見られる。ツルコケモモとよく混同されるが、本種は花冠が反り返らないことや、果実がより球形に近いなどの点で区別できる。
大雪山では高山帯の岩礫地やハイマツの木陰でよく見かける。白い花も綺麗だが、秋に真っ赤に熟す果実の色合いも美しい。なお、コケモモのことをリンゴンベリーと呼ぶ地域もある。
クロウベリー(ガンコウラン)
ガンコウランはツツジ科ガンコウラン属の常緑小低木。果実は黒い球形で、クロウベリーと呼ばれる。わが国では本州中部以北と北海道に分布する高山植物だが、気温の低い北海道では平野部にも自生地があるそうだ。
ツツジ科には珍しい雌雄異株のため、黒い果実がなるのは雌株だけだ。大雪山の高山帯では一般的な高山植物だが、よく探しても果実が見つからないことがある。それはきっと、雄株を見ているからだろうと思う。
なお、クロウベリーの「クロウ(crow)」はカラスのことで、ガンコウランの果実がカラスのように黒く光沢があることから名づけられたと思われる。
ベアベリー(ウラシマツツジなど)
ウラシマツツジはツツジ科ウラシマツツジ属の落葉小低木。果実は黒い球形で、ベアベリーと呼ばれる。わが国では本州中部以北と北海道に分布する高山植物だ。
大雪山では高山帯に広く自生するが、その存在が目立つのは秋の紅葉シーズン。高山帯の地表面が見事なまでに赤く染め上げられるのは、このウラシマツツジの紅葉によるところが大きい。
大雪山での紅葉の見ごろは例年9月上旬頃。層雲峡温泉街の背後にそびえる黒岳の山頂付近もおすすめの鑑賞スポットのひとつだ。紅葉の大雪山を楽しみたい方は、層雲峡温泉に泊まってこの黒岳に登ってみるとよいだろう。
ラズベリー(モミジイチゴ、ニガイチゴなど)
一般にバラ科キイチゴ属の植物をラズベリーと呼び、日本の山野にもモミジイチゴやニガイチゴをはじめ、各種の野生のラズベリーが自生している。果実の色合いはさまざまで、黄色や赤色のほかに、黒色や紫色の種類も知られている。
私が住む仙台の里山ではモミジイチゴとニガイチゴが普通種で、初夏の頃になると、雑木林の林縁でその黄色(モミジイチゴ)や赤色(ニガイチゴ)の果実の姿を見ることができる。
ジューンベリー(アメリカザイフリボク)
アメリカザイフリボクは北米の低地に自生するバラ科ザイフリボク属の小木で、日本にはジューンベリーの名前で、おもに花を楽しむ庭木として広く普及している。英名のジューンベリーは6月に果実が収穫できるからで、その黒紫色の果実は甘酸っぱく、そのまま食べることができる。
私の家にも植えてあるが、果実は野鳥のヒヨドリの好物でもある。気づいたら、ほとんど食べられていた、ということが多い。
マルベリー(ヤマグワ、マグワなど)
クワ科クワ属の木のことを英名ではマルベリーと呼ぶ。日本には野生種としてヤマグワが各地に自生するが、蚕の餌用として中国から渡来したマグワも各地に自生している。
クワの黒く熟した果実は甘く、生食できる。クワの果実を食べると手や口元が赤黒くなるが、子供の時に両手を真っ赤にして食べた経験のある方も多いだろう。
なお、クワは雌雄異株で、果実をつけるのは雌の株だけだ。稀に雌雄同株もあるが、山野や道端にクワの木があっても、果実をつけている木が案外少ないのはそのためと思われる。
ブラックベリー(セイヨウヤブイチゴ)
ラズベリーと同じバラ科キイチゴ属の植物だが、果実は黒色で酸味があり、おもにジャムとして利用されている。落葉半つる性のセイヨウヤブイチゴが栽培種ブラックベリーの起源とされ、日本には明治初期に初めて導入されている。
私の庭にも植えているが、大変強靭な植物で、あまり手をかけなくてもたくさん収穫できるので、庭植えの果樹としてはとてもすぐれている。粒々の種子が多く、やや口当たりが悪いのが難点だが、よく熟した果実はとてもおいしく、私は生食でも大丈夫だ。
私のブラックベリージャムの作り方
生食しない分は、その都度、冷凍保存し、頃合いを見計らってジャムを作っている。私の作り方は次のとおり。
- ①冷凍しておいた果実に、果実の重さの4割程度の砂糖を加え、1時間ほど、鍋の中で寝かせる。
- ②水分がしっかり出てきたら弱火で煮込む。
- ③全体がジャムの感じになったらレモン果汁を少量くわえて酸味を調整する。
- ④別に用意しておいた熱湯消毒済みのガラス瓶に入れ、熱いうちに蓋(こちらも熱湯消毒済み)をすれば完成だ。
なお、ジャムの中の種子の粒々が気になる場合は、③の前に金網のザルで粒々を濾して取り除くが、濾した粒々も甘くて美味しいので、食パンで絡めたりして食べると良いだろう。
瓶が冷えたら冷蔵庫で保存するが、私の経験では3カ月くらいは賞味することができる。私はバニラアイスクリームにトッピングして食べているが、非常に美味しい。なお、作ったジャムを入れるガラス容器は、使い切ったあとの市販品のジャムの瓶を流用している
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以上、ジャムの作り方も含めて、私が知っている10種類のベリー類を紹介した。もし、全種ご存じだった方がおられたら、その方は相当な植物通だろうと思う。いつか、お会いできる機会があれば、是非とも「ベリー、グッド!」と言わせていただければと思っている。
記事に登場した10種のベリーたち
私のおすすめ図書
プロフィール
昆野安彦(こんの・やすひこ)
フリーナチュラリスト。日本の山と里山の自然観察と写真撮影を行なっている。著書に『大雪山自然観察ガイド』『大雪山・知床・阿寒の山』(ともに山と溪谷社)などがある
山のいきものたち
フリーナチュラリストの昆野安彦さんが山で見つけた「旬な生きものたち」を発信するコラム。