雪山、困ったり悩んだり(1)無知が招いた危機一髪〜山に叩きのめされた雪山一年生

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人生で2回目の雪山登山。私はひとりで八ヶ岳、赤岳を目指した。

初日は天気がよく、トレースがしっかりつけられた登山道を歩いて行者小屋へ。雪をかぶった木々、下手をしたら夏よりも歩きやすい道。青空、ひんやりとした空気。なんて気持ちがいいんだろう。

初めての雪山はその前の年の2月。雪山初心者向けのガイド登山で北八ヶ岳、天狗岳だった。アイゼンのつけかた、ピッケルの使い方、足の運び方などを丁寧に教えてもらった。無風快晴、何の苦労もなく歩いて、山頂からはすばらしい景色を眺められた。雪山、なんてすばらしい。今シーズンはもう終わりだけど、来年は1月に入ったらすぐに雪山へ行こう、と決めていた。

暖かい山小屋で快適な一夜を過ごし、翌朝。どんよりと曇った空、雪がしんしんと降っている。アイゼンをつけ、ピッケルを手にして地蔵尾根を登り始めた。静かな樹林のなか、先行者のトレースを追って歩く。雪山は2回目だけど、赤岳は無雪期に何度も登っている。ちょっとぐらい天気が悪くても大丈夫。

樹林が切れてきたところで、見慣れたはずの山が見たことのない山に変わっていた。ガスで真っ白。周りも、地面も白くて、よく分からない。それでもうっすらと残るトレースを追って急な登りを詰めていく。困難を乗り越えようとする自分に酔っていたのかもしれない。 しかし、急に強い風に体をあおられて我に返った。周りの山どころか50m先の岩場もぼんやりとしか見えない視界。風で吹き消されそうなトレース。

なんかまずいかもしれない。これ以上行っちゃ駄目なんじゃないか。いや、駄目だ。

自分のトレースを追いながら下山を始めたが、こんなに急な斜面だったっけ。積もったばかりの柔らかい雪、アイゼンが効いているのか自信がない。ここで滑ったらオシマイだ、体がすくむ。怖い、怖い、助けて。でも周りには誰もいない。半泣きで行者小屋まで戻り、ここまで戻れば安心とほっとした。...が、前日に心地よく歩けた道は、前日からの風雪でだいぶ埋まっていた。道はここで合ってるのかな。迷いながら、心底消耗して美濃戸口に到着した。

今振り返ると、ツッコミどころ満載で笑うしかない、私の雪山1年生時代の話です。

「雪山登山は怖い」と理解できたのが、この山行の一番の収穫だったと今は思います。夏山登山なら無知で技術がなくてもなんとかなってしまっても、雪山では知らないことが、大きな事故につながる可能性があります。条件に恵まれればあっさり登れたかもしれない。でも、そうなったら雪山の怖さを知らないままに変な自信をつけてあちこち突っ込み、いずれ大きな事故を起こしていたでしょう。

いきなりひどい昔話ですみません。

でも。山には楽しい面と楽しくない面があり、そのギャップが激しいのが雪山。条件が揃えばただただ快適で美しく、ひとたび悪条件に見舞われれば命の危険にさらされる。雪山は、山のことを正しく理解し、必要なものを身につけて初めて楽しめる世界なのです。

この連載では、これから雪山を始めたい方向けに、安全に雪山を楽しむために必要な知識や情報をお伝えしていきます。お伝えする私も、大人になってから独学で山歩きを始めた登山者。自分が困ったり悩んだりしたことも事例に挙げながら、素敵な雪山の世界へご案内します。どうぞよろしくお願いします。

教えてくれた山センパイ

西野淑子さん(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行うフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。雪山登山歴は10年、好きな雪山は赤岳(笑)