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山登りで稜線をつないで縦走したり、複数の山行で「赤線」をつないだりするのは楽しい。でも、なかなか実際の登山ができないので、転調や飛躍を挟みながら、年末の都心の点景でいささか強引に紡いで見た。地理的な稜線をつなぐのではなく、いわば心や想いの縦走である(笑)。
ヤマケイオンラインなどでみなさんの記録を拝見すると、たくさんの魅力的なコースや知らなかったことに出会える。そんな出会いの一つがガバオさんのレコで知った「オオカミの護符」(小倉美恵子著 新潮社刊)であった。物語の起点である川崎市土橋には、私も川崎市郊外に育ったことや学生時代のアルバイトで通ったことなどもあり、親近感や郷愁を覚えた。ここで描かれているお百姓さんの暮らしのかすかな気配は、少年時代に自宅近辺の雑木や竹やぶの間を縫うように伸びる里山の道を歩いた記憶や、不意に出会った藁葺き屋根や、土蔵、牛小屋、農耕馬を引いたおじいさんなど、都心から郊外に転居した自分のわずかな体験として思い出すことができた。もういまではすっかり、新興住宅地になって面影を探すことも苦労するけれど・・・
自分が登ってきた奥多摩の御嶽山や秩父の宝登山、雲取山など三峰の山々も、オオカミ信仰の盛んなところという知識はあったが、この本を知ったことで物語として繋がることになった。もう一度これらの山々に登る時には、尾根を歩くだけではなく、山麓の暮らしや古くからの信仰などに思いいたしながら登れれば、とても味わい深いものになりそうだ。
妙法ヶ岳、白岩山、雲取山からなる三峰の麓には三峯神社がある。ヤマトタケル伝説、オオカミ信仰などで彩られた神社だが、少し驚いたのはこの神社の鳥居が「三ツ鳥居」という珍しい形式であったことだ。私は古社寺仏閣を訪ねるのが好きで、奈良の山の辺の道を歩いた時には、ご神体として禁足地になっている三輪山にも登ったことがある(大神(おおみわ)神社の摂社である狭井(さい)神社に登拝を許可していただければ登ることができる)。山中にある巨岩を磐座(いわくら)とし、いにしえから神を祀っている。この大神神社の鳥居が、全国でも例が少ない「三ツ鳥居」なのだが、それと同じものが秩父の三峯神社にあることに驚いたのだ。ヤマトタケル伝説があるのだから、あるいは古代の神の信仰でつながっているのかもしれない。
で、話は家内が一時帰国しているために思う様登山ができず、年の瀬の都心でくすぶっている私に繋がる。家内といわゆる銀ブラで立ち寄った銀座コマツビル西館の屋上に立派な三ツ鳥居があったのだ。なんと奈良の三輪山の神を勧請したらしい。三ツ鳥居に玉垣で守られた聖域の中心には磐座がある。これには驚いた。ちょうど「オオカミの護符」を読んでいた最中だったから何かしら因縁を感じてしまった。
興味を持たれた方は、銀座四丁目交差点から中央通りをユニクロまで南東に進む。道標も良く整備されているが、大人気のコースだけあってすれ違いに大変苦労する。また、行き交う人に「こんにちは」などとあいさつしても、何かに間違われる可能性が大きいので、オススメしない。また、たとえ厳冬期でもアイゼン、ピッケルなどを所持するとこれまたあらぬトラブルを起こしそう。目出帽(バラクラバ)などもってのほかである。
五丁目の交差点を分けてなお直進すると右手にユニクロがみえるので入店し、7階まで一気に高度を上げる。この登山道はボタンを押せば垂直に、そうでなければ登山道自体が斜め上昇するよう整備されているので、体力も特別な技能もいらない。7階まで高度を稼いだら、西館に向かう分岐があり、屋外の渡り廊下の途中で、さらに左手に上がる階段を登れば到着である。神社の他に芝生もあり、一息いれるのに良いが、おそらく火気厳禁だと思われる。コース定数0.0001、主観的なグレードAだが、心を強く持たないと本来の目的を忘れ道迷い遭難(買い物ともいう)の危険性が高いので注意。特に高級店で滑落すると銀行口座残高が一気に低下し、正規の登山道に復帰するのが困難。見栄っ張りな男性登山者が女性と一緒に山行する場合は、この危険性がさらに高まるように思われる。
さて、銀ブラの最中に興味を惹かれたもう一つのものが、活版印刷。出戻り登山者が住んでいるあたりは、製本や印刷、出版関係の事務所や町工場などが多く点在している。かつて都庁が有楽町にあったことや、幕末に遡れば外国人居留地があり、杉田玄白の解体新書が翻訳されたり、佐久間象山が鉄砲の試射を行ったのがこの辺りだとか、キリスト教の宣教師や医師が住み、海外から流れ込んだ最新の知識が集積していたことも関係するのかもしれないなどと妄想したりもする。そんな中で通りがかりで見つけたのが「中村活字」だった。TVなどでも繰り返し紹介されていた店だというのは後から知ったが、中村さん自らグーテンベルクに遡る活版印刷の説明をしていただき、なんとも贅沢な散歩になった。中村さんにご紹介いただいた「活版印刷三日月堂」(ほしおさなえ著 ポプラ文庫)は、心温まる佳作であった。
今年はヤマケイオンラインでコメントを交しあっていた皆さんと、高尾山に集まって親しくお話ができたことも良い思い出だ。西東京猛虎会さん、すーさん、どうもありがとうございました。当日ご都合がつかなかった皆々様ともまた機会を改めてお目にかかる機会があればと思います。
私の拙い記録を読んだり、コメントを下さった方々、本年もありがとうございました。来年も、楽しく登山をし、またお目にかかりましょう。
どうぞ、良い年をお迎えください。
すてぱん拝
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