行程・コース
天候
雨後曇
登山口へのアクセス
マイカー
この登山記録の行程
新冠湖岸/泊(5:20)取付点(600m/6:00)P1,404(8:40)新冠富士(10:15)イドンナップ岳(11:05)湖岸(17:15)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
林道を1km歩き、サツナイ沢を横断して左岸へ上がり沢沿いの林道を行くと、二俣の先で林道が流失している。川原の左岸寄りを進んで流れを渡り、左岸へ渡り返して奥の二俣まで林道を歩き、赤テープに従ってP942m(売山)東方の鞍部へ突上げる奥の右俣へ入る。インターネットの記録にルート図が載っていたので迷うことはないが、下調べをしていなかったら道探しに時間を食うところだ。奥の右俣には適当な間隔で赤布が付いており、流れの際を安心して歩く。「踏跡が薄くなったなあ」と振り返ると左岸に赤布がたくさんぶら下がっており、踏跡がガレの斜面へ上がっている。標高600m地点だ。
売山の斜面に取付くと直ぐに立派な仕事道が現れ、大きくジグザグを切って登って行くと小雨が落ちてくる。登山道に熊の糞が在り、「やっぱり、居るんだ」と笛を吹き鳴らし、声を挙げる。1時間歩いて一本立てながら、「もう1時間だけ歩いて、雨の様子を見よう」と傘を差して先へ進む。
売山の鞍部(6:30)から先は岳樺の優しい緑色に包まれた尾根の背となり、小さい上り下りをこなして行くと一時雨が強さを増す。P1,070mの上(7:30)で2本目を立てながら、「どうせだから、もう1ピッチ登って見よう」と決め、雨具のズボンを着る。捨縄が取付けてある小岩峰を急登すると雨雲が途切れる瞬間もあり、P1,404mやP1,270mと思われるピークが雨雲の中に薄墨色に浮かび上がって見上げられる。
P1,404mの左を巻いて行くと平坦になり、下りになる手前の雪田で3本目を立てる(8:45)。休んでいると肌寒く、雨具の上衣も着る。地図を詳細に眺めるとP1,667mまでは1.5kmで、さらに1.7kmでイドンナップ山頂だ。「標高差は350mだし、距離も大したことは無い。雨は小止み状態で好転方向だから、頂上まで登ろう」と決意する。
尾根の南西面をトラバースして進む。歩き始めから右足のアキレス腱に違和感を覚えていたが、谷側へ傾いた道を歩くうちに、「おかしい」とはっきり感じるようになる。P1,667mまでは遠く、ここでも熊の糞を見付ける。
長いトラバースが終って滑り易い斜面の本格的な登りになる。シラネアオイの大群落に混じってエゾコザクラやコバイケイソウが山肌を覆い、ギョウジャニンニクもたくさん生えている。標高1,550m付近でP1,667mから伸びる北西尾根の上に出ると岳樺の下にはまだ雪が残っており、その脇にはギョウジャニンニクが群生している。ここまで登る途中に生えていても「遅くて、固くなっている」と食指が動かなかったのだが、「しめしめ、これなら軟らかくて美味しそうだ」と喜ぶ。
視界10mの中、イドンナップを目指す。「山頂まで1.7kmだから、1時間で着けるだろう」と、先々週登った奥秩父石塔尾根の1.3kmの楽な藪漕ぎを思い浮かべながら計算するが、這松が踏跡を覆う尾根の背は歩き難く、北面の雪田では道を見失い、南面の緩い這松原では在るか無きかの踏跡を辿って慎重に歩かざるを得ず、なかなか距離を稼げない。
這松の陰のひっそりとした三角点に、ほうほうの体で辿り着く。「遅くても11時には山頂に着くだろう」と楽観していたのだが、「これじゃー、まだ大分掛かるなあ。でも、残りは半分を切ったから、何とか山頂を踏もう」と気を持ち直して前進を続ける。這松一色の稜線には黄花石楠花が多く、イソツツジも目撃して喜ぶ。南面には数箇所にお花畑が在るが、まだ雪が融けて間も無いので花は見られない。視界が無いので地形が判らず、目標も見えない我慢の稜線歩きが続く。顕著な下りの後、黒い影へ向かって期待を込めて登ると、大きな山名板が立つイドンナップの山頂に着く。
三角点(12:20)、新冠富士(13:00)と過ぎ、北西尾根の下降点まで1ピッチで下り、行者大蒜を採りながら一息入れる。トラバース道では思い掛けず筍を採り、P1,404m(13:45)付近からは新冠富士とイドンナップの頂上稜線を垣間見て写真を撮り、喜ぶ。
尾根の下りに移って間も無く再び雨が降り出し、「せっかく上着が乾いてきたのに、ついてないなあ」と恨めしく思いながら雨具を取出して着用する。登りではトラバース道が長いと感じたが、帰途は売山の鞍部までの下りを長く感じ、途中の小さい登り下りがきつい。この尾根上で、登りの時に気付かなかった3つ目の熊の糞を発見する。
加速度的に右足甲の痛みが増す。休むとずいぶん楽になるが、歩くと直ぐに元の痛みに戻る。3年前の小嵩沢山の時と全く同じ状況で、その時は歩行不能になって数日間勤務を休んだが、原因は判らず仕舞いだった事を思い出し、「歩けなくなって、車椅子で飛行機に乗って帰るのだろうか」と心配する。
売山の鞍部(15:55)から仕事道に入ると本降りになり、傘を差し足の痛みに耐えながら黙々と下る。沢が増水しているかも知れない」と心配していた水量は、幾らも増えていない。遡行する時には気付かなかった踏跡が始めは右岸側に、途中から左岸側に付いていて、思ったより苦労しないで歩く。右俣本流も水は澄み、水位は5cm程しか上昇していない。
杖を突きながら、大蕗の覆う林道を通常の半分以下の速度で歩く。「車を終点まで乗り入れて置けば良かった」と思っても、いまさら如何しようも無い。車に戻って、額の脂汗を拭う。雨と汗で濡れた体は半乾き状態だ。何れにしても、風呂に入ってさっぱりして、早く足の手入れをしたいところだ。
右足は完全にいかれている。甲のみでなくアキレス腱も傷めたようで、力を入れることが出来ないのでブレーキを踏込む時は左足を使わざるを得ない。今の足の状態では、明日の登山は不可能だ。神威山荘に泊って中ノ岳と神威岳に登る計画を放棄し、「日曜日に、行動時間の短い楽古岳なら登れるかも知れない」と一縷の望みを繋ぐことにする。
夕・朝食を手に入れようと、コンビニに立ち寄る。車の外に出ても痛くて歩き出せないでいると、通りすがりの主婦が「手を貸しましょうか」と声を掛けてくれる。「大丈夫です」と言うと「遠慮しないで良いのよ」と促すが、何とか自力で買物を済ませる。
国道を東へ進むと『新冠ノ湯』の看板が目に入る。駐車場の玄関口は塞がって身障者用のスペースも無く、入浴をギブアップしたくなる程フロントまでが遠い。浴室まで辿り着くのも大仕事だ。「駐車場の隅にテントを張って泊ろうか」と思うが、追い出される心配がある。「明日になっても足が回復しなければ、キャンプ場だと安心して日中も寝て居られるし、2晩を過ごすことも出来る」と考えて、静内温泉まで行ってテントを張る。


