行程・コース
天候
曇後雨
登山口へのアクセス
タクシー
この登山記録の行程
野麦(6:40)林道(1,385m/7:20)奥二俣(1,545m/11:20)鎌ヶ峰(14:40~15:10)西野川幕営1,525m(17:55/6:50)古街道(8:55)旭ケ丘(10:10)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
山の手線の事故で急行『アルプス号』の出発が1時間遅れ松本電鉄への乗り継ぎを半ば諦めるが、松電の車掌の努力でJRの電車が着くまで発車を待っていて、間一髪で始発電車に乗る。座席がほぼ埋まる程の乗客があり、殆どの人が山姿で上高地から山に登ると思われるので電車が間に合わなかったら相当のクレームが出た事だろう。
ところが、奈川渡ダムで下車しても前日に予約しておいたタクシーが見当らない。左岸の公衆電話で連絡を取ると「もう出ている様です」との返事だが、暫くして遣って来た運転手の話では、「電話で起こしても駄目なので、自分が代わりに来た」と言う。「蕎麦屋の出前だ!」と気分を害する
境峠への道を左に分け、川浦集落を過ぎて岳樺や落葉松の間を上ると、思い掛けず明るい感じの野麦峠に出る。昨夜の雨でアスファルトが濡れ、山の中腹から上は雨雲に包まれて見えないが、梅雨時のそれ程厚くない雲で、今は雨も止んでいる。広く開けた谷を野麦へ下り、飛騨川本谷に架かる橋の際で車を降りる。
チェーンを越えて林道を塩蔵谷沿いに進み、カーブして沢から離れる地点で流れに下降して遡行を開始する。水量はあまり多くなく、小規模な落ち込みで岩魚釣りを始める。川原を手際良く歩いて先行し、2人が疎らな植生の中を歩いて来る間に竿を振って探るが、1か所に立ち止まっている時間が次第に長くなり、つれて2人が下流で待つ時間も長くなる。
渓相からすると魚は棲んでいる筈だが、当りはおろか魚影も全く見えない。下草が踏みしだかれているのに気付き、「先行者が居るんだろう」と考える。沢が大きく曲って暫く行くと、釣りスタイルの2人が下降して来るのに出会う。「2匹の釣果だ。この上は遣っていないから頑張れ」と言われる。
期待しながら遡行し、初めて魚影を見て心が躍る。しかし、警戒心が強くて直ぐに深みへ逃げてしまう。最初イクラで試みるが途中で毛針に変え、川虫が成長しているのに気が付いてからはこれに変えるが、やはり当りは無い。「何とか1匹釣り上げて、生きた岩魚を2人に見せてやりたい」と思って真剣に釣り上がって奥の二俣に到るが、予想以上に時間が経っているのに気付き、残念ながら釣りを切り上げる。3時間程を釣りに喰われた勘定で、ここで一息入れて食事を取り、本業の遡行に専念する。
二俣から左に入ってカイムキ谷を辿り、沢を横断する林道に上がって一息吐き、沢沿いの枝道を暫く歩いて再度沢に道を採って殆ど水の無くなった沢底を忠実に詰める。林班のものと思われる黄色いテープが現われ期待するが、途中から右岸の笹の斜面に進んでいる様だ。笹の中には踏跡が見当たらないのでテープと決別して尚も沢を詰めると残雪が現われ、薄く軟らかいので体重を支え切れずに崩落して歩き難い。やがて詰めのガレとなり、傾斜も次第に増す。踏まれていないので耐え切れずに足元が崩壊して神経を使うが、薮漕ぎと違ってぐんぐん高度を稼ぐ。
遂に標高1,900mでガレが終って笹薮となり、稜線まで100m強をBが先頭に立って登る。胸位の丈でそれ程密生しておらず、直前まで雪の下に押し拉がれていたまだ力の無い笹なので抵抗が小さく比較的楽に進めるが、足元がよく滑る。徐々に高度を上げると野麦峠へ続いている尾根の上の2,020mの高まりが立派なピークとなり、踏跡を期待して左の尾根目指して進み、2,075mの小鞍部に達して一息吐く。
見上げる斜面には獣道の痕跡さえ無く、笹の少ない所を狙って直上する。平坦な笹原を少し進むと、笹を刈り取った空間に二等三角点の標石が白く頭を覗かせる。山頂のシラビソの樹の上方に手彫り彩色の『鎌ヶ峰』の山名板が取り付けてある。目標時間より遅れたが、林道(1,645m)から頂上まで少しも弛まないで登ったのに満足して腰を下ろし、ほっとして食事を取ながら半時を過ごして下降の英気を養う。
頂上までは雨に見舞われる事も無かったが、休んでいる間に霧が濃くなり、下山を始める頃にはポツリポツリと雨滴が落ちて来る。「夜は雨」の天気予報通りの情勢となり、増水の懸念から1,530mの林道まで下って幕営せざるを得ないと考える。
頂上から尾根を南に辿って標高2,000mまで下り、把ノ沢川本谷の源頭へ下降して谷を南下すれば林道に出合う筈である。広い尾根を忠実に辿るのに少々挺摺るが、2,050m付近から猛烈な‘竹薮’となってアルバイトを強いられる。茎の直径が1cm以上にもなり丈も2m以上あって枝葉が縺れているので下降と雖も前進するのに難渋する。竹の幹を掻き分けて左右の足をその隙間に稔込んで幹を跨がない様に注意しながら前足に体重を掛けて進路を開くのだが、深雪のラッセルにも匹敵する疲れ方である。
竹の煤と雨対策にオーバーズボンを着用し、斜面に入り込んで最大傾斜線を下る。時間の経過と疲れに気弱になるが、1,880m付近(16:10)から沢状を呈して竹藪から解放され、流れが現れた傾いた岩床の上に覆い被さった竹に掴まって下り、二俣へ出る(1,730m、16:45)。
期待した川原はまだ開けず、両岸には笹が続いている。水量は次第に多くなって渡渉を重ねるうちに靴の中が濡れてくる。沢を合わせると滝が現われて緊張するが、右岸の薄い踏跡から容易に下り、徐々に開けた川原を辿って2つ目の滝を越える。
夕暮が迫る頃、雨に煙る林道に辿り着き、ほっとする間も無くテントを張って夕食の支度に掛かる。雨は大して強くないが、それでも次第に本物の梅雨時の雨となる様だ。「厳しい山行になって悪かったかなあ」と気にしていると、テントから2人の楽しそうな声が聞こえてほっとする。ズボンも上衣もかなり濡れているがシュラフに入ると暖かく、夜行の寝不足と疲れから21時過ぎには心地好い眠りに落ちる。
暫時して、「テントが雨漏りする」と言って起こされる。「防水スプレーを念入りに吹き付けたのに」と当惑しながら、ビニールシートを頂部に被せて急場を凌ぐ。ゴアテックスのテントで1人快適に寝ているのを申し訳無く思うが、翌朝目が醒めるとこちらのテントもエアマットの周りが水浸しになっている。
4時半に起床して山菜雑炊を食べ、小雨の中でテントを畳み、傍らの大きく成長した山独活にさよならを言って7時前に出発する。
雨に気勢を殺がれ、西野部落の南東にある城山へ登って下条の『ペンションJ』へ出る予定を縮小し、砂利道をのんびりと歩いて高度を下げる。本谷沿いの道になると釣り師が目に入るが、川は浅く水量も貧弱なので食指は動かない。豊富な蕗を採りながら下ると舗装道路に出合い、直ぐに最奥の高坪部落へ出る。
この山村は広い河岸段丘の上に在って、農家の庭先には色彩豊かな花が咲いて弾んだ気分になる。古海道の終点バス停に着いて一息吐く。
2人が「下条まで一緒に歩く」と言うので一も二も無く同意し、バス道を行く。民家も多くなり、よく手入れされた庭には庭木や盆栽、色取々の珍しい花が咲いて飽きさせない。
御嶽山との結節点となる下条・旭ヶ丘まで歩いてからバスで木曽福島駅に出て、山代温泉でゆっくりと汗を流して山行の余韻に浸る。温泉のオーナーは猟師で、「カモシカの毛皮を買わないか。許可票も付いてるよ」と勧めるが、結構な値段で食指は動かない。