行程・コース
天候
曇り
登山口へのアクセス
マイカー
この登山記録の行程
林道(7:20)二俣(1,405m/8:45)稜線(2,095m/11:40)丸山(12:10)P2,245(15:05)小瀬戸山(16:15~35)下降点()川原(1,530m/18:00)二俣(18:40)林道(19:25)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
北沢峠から仙丈ヶ岳に登り、馬ノ背に下って三ツ石山へ縦走する計画を立てると、仙丈ヶ岳登頂に惹かれて吉識君と鈴木君が名乗りを挙げる。
吉識君を銀座で拾って長谷村営バス戸台口バス停に深夜到着すると、マイカー用の駐車場入口には「道路事情が悪いために当分の間運休します」との申し訳程度の小さい看板が置いてあり、愕然とする。鈴木君との待合せ場所をここに決めていたので朝まで待たざるを得ず、テントを張って軽く一杯遣った後眠りに就く(2:30~5:30)。
「丸山と小瀬戸山を繋ぐ尾根には道が無くて藪漕ぎになるから、1日で登るのは相当にきついだろう。前夜発で、明るくなったら歩き始める位でないと無理だ」と考えていたのだが、村営バスの運休を天佑として図らずも3人で登る機会とし、藪漕ぎの苦労は3分の一と言わず大幅に減じて、思い掛けなく楽しい山行となった。
夏の朝の6時はこうこうと明るい。寝不足の目を無理に開いてテントの外に出ると、直ぐ隣に鈴木君の車が停まっている。他にも数台の車が居て、“バス運休”に困惑して冴えない表情でうろついている。「小瀬戸山と丸山に登ろう」と鈴木君を促して(昨夜寝る前にあれこれと考えた挙句に決めた)駐車場を後にし、昨年5回通った三峰川沿いの道を上流へ向かい、南俣の二俣付近に車を停める。
渓流靴に替えて沢に下り慌しく竿を出すが、全く当たりが無い。諦めて砂利道に上がって歩き、沢の屈曲部で左岸に渡って再び釣り上がるが手応えは無い。暫く行くと乗用車が止まっており、注意深く観察すると踏み拉かれた雑草の葉裏が白く光って人の通った形跡が窺われ、先行者の存在を知って竿を仕舞う。
二俣を左俣へ入って丸山を目指す。登山道の無い山へは沢を詰めて山頂に達し、尾根筋を下山路に取るのを常套手段にしているが、地形図を眺めると小瀬戸山へ達している沢は非常に急で滝や悪場が予想されるので、最初に丸山に登ってから尾根を縦走して小瀬戸山に至り、ここから尾根を下降する方が困難が少ないだろうと予想する。
今日は晴れて夏の陽射しが暑いものの、梅雨の最中で水量は多く、元気好く流れている澄んだ水に足を踏み入れると冷たさに気分が引き締まる。やがて3段20m程の滝に行く手を阻まれ(上部は見えない)、右岸の泥の急崖を危なげに登って高巻く。
旧い仕事道が尾根の上の方へ向かって続いている様だが、山頂まではまだ随分距離が残っており、途中で仕事道が消失した場合には大変な藪漕ぎを強いられる恐れがあり、沢へ下降して確実に登る事にする。
遡行を続けると数多く存在する枝沢と地形図の標高が一致しない所もあるが、水量の多い方を選んで登る。二俣状の所で一本立て、ここからルンゼ状の急な沢床を岩登り感覚で快適に登ってぐいぐいと高度を上げ、水の涸れた所で山靴に履き替えて登ると、標高2,100mで稜線に出る。高度計の値が低く出ている様だが、丸山を目指して北へ向かう。踏跡は無く、五月蝿い藪を分けてゆっくりと歩く。小鞍部状の草地で一本立て、ザックを置いて山頂を目指す。
天気は好いのだが密生した立木の間では見通しは得られず、磁石を頼りに進む。登りは高い方へと進めば良いので如何と言う事も無いが、下りの事を考えると緩い地形が少々気掛かりだ。「ザックの所へちゃんと帰って来れるか心配だ」と言うので、シラビソやトウヒの枝先を折って帰りの目印とする。途中で3か所程年を経た赤布を発見し「頼りになるかも知れない」と期待するが、それ以後は見当たらず糠喜びに終る。頂上の三角点にタッチして一息入れ、ザックの所へ引き返して食事を摂りながら大休止とする。
踏跡も獣道も無い状況なので、相当のアルバイトを覚悟して小瀬戸山へ向かう。途中に在る2,113mと2,245mの2つの小ピークを越えなければならないのも気が重い。しかし、3人で行動する事を思うと随分と気が楽だ。
従来、登山道の無い山へは殆ど一人で出掛けていたので、この気持ちの楽さ加減には思わず能天気になりそうだ。小木の密生した中を倒木に悩まされながら着実に進む。藪漕ぎに慣れない2人は、時間の経過と進んだ距離が一致せず現在位置の把握が難しい様で、「考えている半分程しか進んでいないよ」と言うとガッカリしている。
最初のP2,113mへは予想より時間を食い、「この調子だと、丸山から小瀬戸山まで3時間は掛かるだろう」と覚悟する。密藪の中に運動靴の片方が落ちているのを見付け、「いったい誰が、如何して?」とあれこれ想像する。
倒木に悩まされ、時に微かな獣道を見出して幾らか楽をするが、中間点付近からは高木が多くなって下生えが消え、疲れて厭き掛けた気持ちが幾分元気を取り戻す。大皿を伏せた様な小瀬戸山の山頂付近の緩い地形に「まだか? もう着くだろう」と痺れを切らせて歩くが、重い足はなかなか早まらない。
待ち焦がれた小瀬戸山の山頂には高木が疎らに生えて下草に光が届き、世俗から離れて我が道を行くかの如きゆったりと落着いた雰囲気がある。三角点の周りに腰を下ろして食事を摂り、「登りの藪漕ぎはもう無いんだ」と安堵しながら英気を養う。
下山路は、頂上から一直線に西南西へ伸びる尾根を2,140mの等高線まで進み、ここから北北西に下っているあまりハッキリしない尾根に入り、右俣の1,500m付近の川原に下りるのが良さそうだ。左俣を遡行しながら遠望した様子では、この尾根より左側(西方)は低木の植生で藪漕ぎを強いられそうだが、右寄りは高木が優勢で下生えが少なくてあまり難儀しなくても済みそうに思われる。
上手く北北西の尾根に入って予想通りの斜面を下るが、(恐らく)道の無い所を歩くのが始めての2人は傾斜の急な事と相俟ってスピードが上がらない。「あまり時間が掛かると川原に下りる前に暗くなってしまうから、急ごう!」と発破を掛けるが、「怪我をしては元も子もない」と、些かじれったい。
それでも明るい内にドンピタリと川原に下り(もう少し下流側に寄ると、崖が現われて川原に降りるのに苦労する羽目になる)、ライトを使う事も無く車へ帰着する。碌に睡眠も取らずに、実に12時間も歩いた勘定だ。
吉識君は鈴木君の車に乗って帰る事になり、2人と別れる。明日は日曜日なので「もう一山稼ぐか、せめて岩魚でも釣ろうか」と欲張った考えを持つものの、流石に疲れており、テントに泊って翌日岩魚釣りをする元気も出ず、高遠のさくら湯に入ってゆっくりと帰途に着く。
