先輩とのんびり登山をしようと、金草山に向かったが、かなり手前の分岐点で、「通行止め」と書かれた看板に阻まれた。
看板には、道路工事とかなんとかと書かれていたが、もはや行けないと言うショックの方が大きくて内容はどうでも良かった。
久しぶりに金草山のたおやかな稜線を歩いてみたいと思っていたのに、行けないと思うとなおさら残念に思う。
「近くに手頃な山はないか？」と先輩。
加えて、「面白い山がいい」という無茶な注文付き。
ちょっと考えて、幾つか思いついた山の中から、「権現山に行きましょう！」と提案した。
山としては小ぶりで物足りないかもしれないが、剣豪「佐々木小次郎」が修行をしたと言われている山で、なによりとても素敵な滝巡りが個人的にもお勧めだ。なぜ？福井県は権現山の観光に力を入れないのかと不思議に思うくらいポテンシャルのあるポイントだと思う。
車の向きを変えて、早速、権現山へと向かう。
山の入り口で、大きなカモシカが出迎えてくれた。民家の横に堂々と立っていて、車の音にも驚く様子はない。普段から人と近いところで生活しているのだろうか。
細い林道を上って、駐車場へ到着。まだ早朝と言うこともあって我々が初めての車だった。
ザックを背負い、「いざスタート！」と思ったら、入り口の看板に、「モミの木付近で土砂崩れにより通行止め」とある。「おいおい、またか」と思ったが、ここまで来るともはや引き返すこともできないので、行けるところまで行ってみることにした。
歩き始めて直ぐに最初の見どころ、「不動滝」と「お釜滝」が現れる。「なるほど、いいね」と喜ぶ先輩。
でも、個人的に一番のお気に入りはさらに奥の「布滝」。落差36mの滝で、豪快に流れ落ちる滝は珍しくないが、ここの滝は一枚岩の上を滑るように緩やかに滝が流れ落ちていく。まさに滝の名前の通り、一枚布のように波紋を作りながら美しく流れ落ちていく様は、とても珍しくずーっとみていても飽きない癒しの滝だ。
徐々に登山らしくなり、「こもり穴」と「夫婦滝」のポイントまでやって来た。こもり穴は、草が生い茂っていたので、今回、遠目から眺めるだけにした。
その先を進もうとした時、大きな倒木が目に入った。完全に道を塞いでいる。しかし、危険というほどではなく、身を屈めれば通れないことはなかったので、そのまま進むことにした。結果的にこれが登山口の看板にあった土砂崩れのポイントのようだった。かくして問題のモミの木も、無事、先輩に見せてあげることができた。このモミの木も権現山の見どころの一つ。唸るほどの太い幹に子供の頭ほどに大きな瘤がいっぱいついている。どうしたらこんな樹ができるのだろうかと不思議に思ってしまう。ご利益がありそうな大きなこぶに触れ、いっぱいエネルギーをもらってから山頂へ。
頂には、とても古い祠がある。雪の重みで倒れないようにワイヤーで補強されていた。その祠にお参りをして、同じく山頂に設置されていた小さな鐘を鳴らす。思ったよりも大きな音で、山間に澄んだ鐘の音が鳴り響いていった。登って来た者の特権だ。きっと麓の村でも、この音を聞いて、「誰か登っているんだな」と思うことだろう。
少し時間は早かったが、登山者用の休憩テーブルで、カップ麺とコーヒーでランチタイムをとる。先輩のくれたみかんも秋の味覚で美味しかった。
目的の金草山へは行けなかったが、これはこれで楽しい登山だった。
降りは別なルートを使って周遊するように下山する。ただし、こちらは少し荒れているのと、かなりの急登なので注意が必要。現に先輩は頭から滑って大きく回転しながら斜面を転げ落ちた。笑い事では無いがあまりにも見事で笑ってしまった。
先輩、懲りずにまた行きましょう。