訃報・布川欣一さん。登山史研究家として長年活躍

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

登山史研究家として長年活躍した布川欣一(ぬのかわ・きんいち)さんが5月16日に病気のため他界した。91歳だった。

布川さんは1932年生まれ。1955年に北海道大学を卒業し、学習研究社、世界文化社、中央公論社の出版3社に勤務した。25年間に及んだ出版社時代は「世界の名著」全81巻などを担当した。のち、埼玉県私立昌平高校で教壇に立つ傍ら、登山研究活動と登山史・山岳文学研究に情熱を注ぎ、大町山岳博物館や富山県立山博物館などの講師、専門委員としても活躍した。

布川欣一さん

上高地を歩く布川欣一さん(2021年/写真=鈴木千花)

普遍的な史観をもった日本登山史を『山と溪谷』などに執筆したほか、『目で見る日本登山史、日本登山年表』(山と溪谷社)の編纂や『山道具が語る日本登山史』(同)などの編著書を通じて、日本の登山史を広く紹介した。80歳を過ぎてからも精力的な執筆活動を続け、『ヤマケイ新書 明解日本登山史』『ヤマケイ新書 山岳名著読書ノート―山の世界を広げる名著60冊』などを上梓した。

2005年からは、霧ヶ峰のヒュッテジャヴェルで「霧ヶ峰・山の會」の復活に尽力。これは1935年に霧ヶ峰で開催された山にかかわる文化人の集いを復活させたもので、当時の「山の會」には民俗学者の柳田国男や気象学者の藤原咲平(作家・新田次郎の伯父)、詩人の尾崎喜八、文芸評論家の小林秀雄らも参加した。復活した山の會は、彼らにならって秋の霧ヶ峰を歩き、夜は専門家による講演やコンサート、「大放談会」で山への思いを語り合うという集まりで、毎年10月に開催されていた。メンバーや実行委員の高齢化で2023年の第16回で最終回となったが、人と山の関係性をあらためて捉え直す試みだった。

最新ニュース

編集部おすすめ記事