ここは日本を代表する山岳自然エリア。アウトドアを楽しむ暮らしを実現しよう
小谷村
白馬村
大町市
松川村
池田町

取材・文=大関直樹 構成=ヤマケイオンライン編集部 写真=熊野淳司(インタビュー)、北アルプス広域連合 取材協力=北アルプス広域連合

北アルプス後立山(うしろたてやま)連峰の山並みを仰ぐ「北アルプス広域連合」エリアは、日本でも有数の大自然が残り、多様なアウトドア・アクティビティが楽しめるのが魅力だ。あなたがアウトドア大好き人間で、「一年365日、自然を相手に遊びたい」「大自然の懐で子どもにアウトドア体験をさせたい」と考えているなら、このエリアを移住先の候補の筆頭にリストアップしているに違いない。では、エリア内の5市町村には具体的にどのようなアウトドアフィールドがあり、どんなアクティビティが楽しめるのだろうか。エリア内の自治体に以下の4つの質問を投げてみたので紹介しよう。

*「北アルプス広域連合」=長野県北西部に位置する池田町、大町市、小谷村、白馬村、松川村の5市町村により構成される広域的な行政サービスに取り組む事業組織


小谷村 山々が連なる豊かな自然環境に恵まれた小谷村は、壮大な北アルプスが広がるリゾートエリア、日本百名山のひとつである雨飾山、「日本のふるさと」を想わせる里山エリアなど、多くの魅力が詰まっています
白馬村 3000m級の北アルプスの山々と里山の自然環境が、日常生活に息づいています。そんな自然を舞台に多様な人と人とが交流することで、白馬村だからこそできる暮らしがあります
大町市 一年を通じてダイナミックな自然を楽しめる大町市。子どもから大人まで「アウトドア・アクティビティが日常にある暮らし」が実現できます
松川村 北アルプスの山並みが生活風景となる、安曇野の原風景が残る村。主要な登山口まで約30分。朝、天気を確認したらすぐに北アルプスに登ることができますよ!
池田町 池田町の西側には雄大な景観を誇る北アルプス、東側には里山が身近にあります。主要な生活インフラがコンパクトにまとまった池田町に移住し、登山等のアウトドア・アクティビティを楽しむ方が増えています

各市町村の回答で共通しているのは、北アルプスの大自然が身近にあること。近くにあるからこそ、朝起きて晴れていたら山に登る、風が暖かくなってきたからサイクリングに出かけるなど、日々の暮らしとアウトドア・アクティビティが直結している。都会にいると山に出かけるには休暇のスケジュールを調整し、フィールドに出るために数時間のアクセスを必要とする。しかし、山の近くに住んだら気軽にアウトドアを楽しむ暮らしが満喫できるのだ。



  登山 サイクリング ヒルクライム MTB キャンプ 山菜・きのこ 渓流釣り ボルダリング シャワー パラ スキー
スノボ
BC ラフティング キャニ
小谷村    
白馬村            
大町市        
松川村                    
池田町                      

※シャワー=シャワークライミング パラ=パラグライダー BC=バックカントリースキー・スノボ キャ二=キャニオニング

北アルプスの山麓に位置するだけあって5市町村、どこでも登山やキャンプをエンジョイできることがわかる。ほかにも「北アルプス広域連合」では山麓をダイナミックに楽しむ上級者向けの約140kmと、のんびり楽しむ初中級者向けの約100kmのサイクリングコースを整備。自分の体力に合わせてショートカットをして、無理の無い距離を楽しむのがおすすめとのこと。5市町村のなかでも最も山深い小谷村は、山菜・キノコ狩りや渓流釣りなど、「採って食すアクティビティ」を楽しめるのも魅力だ。



小谷村 雨飾高原キャンプ場、石坂森林探検村、眺望の里、塩の道、雨飾山、白馬大池、
風吹岳/風吹大池、鎌池、大渚山
白馬村 北アルプス、4つのスキー場、雪融け水が流れ込む河川
大町市 爺ヶ岳、鹿島槍スキー場、仁科三湖(木崎湖、中綱湖、青木湖)、小熊山
松川村 馬羅尾キャンプ場、馬羅尾高原、雨引山
池田町 東山(北アルプスと対峙する池田町側の低山でのMTB等)、
大峰高原(東山のピークでのハイキング等)、高瀬川河川敷(MTBや蝶などの自然観察等)

アウトドアに関する「わが町自慢」を聞いたところ、それぞれ個性的なスポットの回答が寄せられた。移住先として気になる市町村があったら、そこの自慢スポットをWEBで検索してみるのも楽しいだろう。「北アルプス広域連合」は、北の小谷村から南の池田町・松川村まで約50km、車だと1時間少しの距離だ。もし、このエリアに移住したら、どこに住んだとしても各市町村の人気アウトドアフィールドに気軽に遊びに行くことができるのだ。



小谷村 2022年夏に「TSUGAIKE Outdoor Village」がオープン
白馬村 八方池山荘のリニューアル(予定)
大町市 北アルプス最奥部に位置する三俣山荘の経営者、伊藤圭さんが伊藤新道復活プロジェクトに取り組む。新道の復活によって山と街をつなぐ湯俣山荘の再建も予定
松川村 ランニングサークルが今年発足し、毎週土曜日に松川村を含めた周辺市町村から来たメンバーでウォーキングイベントを実施

それぞれアウトドア・アクティビティが盛んな地域だけあって、新しい話題も目白押しだ。 とくに小谷村では、白馬栂池エリア最大級のアウトドアパークである「TSUGAIKE Outdoor Village」が、今年の夏にオープン。園内では、キャンプやグランピングだけでなく、水上アクティビティやロープウェイでの空中散歩なども楽しめる。また、大町市の湯俣温泉と北アルプスの三俣山荘とをつなぐ登山道、「伊藤新道」の復活プロジェクトは登山界でも話題沸騰で、開通が楽しみだ。


アンケートの回答からも分かるように、豊かな自然に囲まれた5つの市町村は、アウトドアが好きな人にとっては、まさに楽園だ。だからこそ、このエリアに魅力を感じて、移住を決意する人が後を絶たない。もし、あなたがこのエリアへの移住を検討しているなら、季節を変えてこのエリアに滞在し、北アルプスの山麓の豊かな暮らしと数々のアウトドアアクティビティを体験してほしい。多彩なアウトドアフィールドの存在はこのエリアの最大の魅力だが、ほかにも「豊かな暮らし」を実現するたくさんの魅力があふれている。ぜひこの地を訪れ、その目で見て体験してほしい。

2022 移住者インタビュー
自然のめぐみと暮らす/大日方冬樹さん
小谷村在住
大日方冬樹さん (おびなた ふゆき)

1987年、長野県千曲市生まれ。大学卒業後は、NPO法人千葉自然学校で自然活動のインストラクターを務める。2013年に小谷村に移住。現在は、地域の自然を活用した野外活動施設「おたり自然学校」の校長・ネイチャーガイドとして活動中。

「アウトドアの達人たち」が憧れる土地

北アルプス後立山(うしろたてやま)連峰の山並みを仰ぐ長野県の北西部に位置する「北アルプス広域連合」エリアは、国内でも類い稀なる山岳・自然環境を生かして、グリーンシーズンからウインターシーズンまでの一年365日、多様なアウトドア・アクティビティの舞台となっている。とくに山歩きを趣味にする人にとって、北アルプスの玄関口として全国的に知られるこの地を訪れる機会は多く、登山の行き帰りに風光明媚な土地の美しさや豊かさに魅力を感じる人は多い。そしてなにかのきっかけで、北アルプスを望むこの地に移住を決意する人が後を絶たない。それは山を歩く人だけでなく、スキーやスノーボード、フィッシングやキャンプ、ネイチャーウォッチングなど、自然と向き合い無垢のフィールドで遊ぶ多彩な趣味人たちも同じで、移住を成功させて、それぞれの第二第三の人生を豊かに歩んでいる人たちがたくさんいる。今回は、「ありのままの自然が残っている」からという理由で千葉県から長野県・小谷(おたり)村に移住した、ネイチャーガイド・大日方冬樹さんの「移住ストーリー」をお聞きした。

*「北アルプス広域連合」=長野県の池田町、大町市、小谷村、白馬村、松川村により構成される市町村の枠組みを越えた広域的な行政サービスに取り組む事業組織

石坂森林探険村内にある小川は、山菜の宝庫

“女神の横顔”との出会いで移住を決意

後立山連峰と妙高戸隠(みょうこう・とがくし)連山に挟まれた、小さな谷間の村、それが「小谷村」だ。人口は約2700人。夏は白馬三山(しろうまさんざん)や雨飾山(あまかざりやま)などへの登山、冬は良質のパウダースノーでスキー&スノーボードが楽しめ、一年を通してアウトドア・アクティビティを満喫できる。そんな小谷村を南北に貫く幹線道路、国道148号線から舗装された山道に入ること車で約20分。人里離れた緑豊かな森林の奥に、隠れ家的なキャンプ場、「石坂森林探険村」が見えてきた。

「もともとこの辺は、棚田があった場所なんですよ。それをうまく利用して、自然体験ができるキャンプ場として整備しました。沢から水を運ぶ農業用水路を利用してハイキングコースを作ったり、イワナの養殖場を水晶池と名づけてカヌー体験スポットにしています」

石坂森林探険村をプロデュースしているおたり自然学校の校長を務める大日方冬樹さんが、村に移住してきたのは2013年のこと。長野県千曲市の田舎で生まれ育ったこともあり、祖父母に山菜やきのこ狩りに連れて行ってもらうなど、子どもの頃から自然に親しむ生活を送っていた。千葉県の大学を卒業後は、「自然に関わる仕事をしたい」と思い、NPO法人千葉自然学校に就職。子どもたちに釣りやキャンプなどの野外活動を教えるインストラクターを務めた。

「いずれは長野に帰りたいと思って、ありのままの自然が残っているエリアを探していたところ、小谷村を見つけたんです。移住を決めたのは、未開発の自然にポテンシャルを感じたことや“地域おこし協力隊”を募集していたことなどいくつかあるんですが、いちばんの理由は、初めて小谷村に来たときに“雨飾の女神”を見たことです」

日本百名山のひとつ雨飾山は、南側の山頂から見下ろすと笹平と登山路が描く”女神の横顔”のように見えるポイントがある。今でこそ登山者の間でも有名になっているが、大日方さんが登った頃は、それほど知られていなかったという。「本当に感動的な光景でした。なにか運命的なものを感じたんですよね。その瞬間に、深く考えるのはやめて、ここに住もうと思いました(笑)」

1 緑が目に眩しい石坂森林探険村の入り口
2 見ているだけで楽しくなるキャンプ場内のイラストマップ
3 温水シャワーも完備された人気のバンガロー
4 体験メニューには、石窯で焼く本格ピザ作りもある

住んでみて実感した小谷村のすばらしさ

ファーストインプレッションで移住を決めた大日方さんだが、地域おこし協力隊での任期終了後も小谷村での暮らしが気に入り、住み続けることにした。直感は間違っていなかったのだ。

「家を一歩出ると、山も川もいたるところがすべての遊び場なんですよ。しかも、山菜やキノコ、獣肉などの食材の宝庫も兼ねています(笑)」

もともとトレッキングが好きでテントを担いで山を歩いていたが、移住後は狩猟免許を取得。イノシシやシカなどを追いかけて山に入ることも多い。「地元の猟師さんは、自然に対する知識とか野外活動の技術がすごく高いんですよ。一緒に狩猟に出かけて、彼らの数々の智恵を目の当たりにすると憧れますよね」

もうひとつ、小谷村に住むことで感じたのが、人間関係の密接な距離感と温かさだという。たとえば、田んぼや畑を始めようと思ったら、農業用水路の掃除や草刈りなどは、近所の人たちと一緒にやらなくてはいけない。生きていくためには、周りの人たちとの共同作業が欠かせないのだ。また、地震や火事などの災害、急病になったときなども近くに病院がないので、まずは地域の人と協力して対処しなくてはいけない。

「都会に住んでいると、隣に住んでいる人の顔も知らないなんて普通のことじゃないですか。でも、小谷村では、そういう距離感ではないんです。基本的にみんなが顔見知りで、なにかあったら助け合う関係です。もちろん距離が近いことで、面倒に思う部分もありますが(笑)、無機質な都会では感じられない温かみがあります」

地域おこし協力隊では、「自然体験交流」がミッションだった大日方さん。赴任当初は、小谷村に古くから残る「塩の道」を活用したロングトレイルツアーの企画・実施などを行なっていた。それと同時に、現在の石坂森林探険村となっているキャンプ場整備にも着手。地元の人たちの協力もあってテントサイトやバンガロー、ハイキングコースなどを作ることができた。
*塩の道=古来、新潟県の糸魚川から松本まで塩や海産物などを運ぶために使われた古道

「白馬村を含むこのエリアは、キャンプや自然体験を教えてくれる場所がほとんどなかったんですよ。トレッキングやシャワークライミングなどのスポーツ系、グランピングなどの快適キャンプ系のイベントは多いんですが……。僕は小谷村の自然をダイレクトに感じられる山菜・キノコ狩り、自然観察ハイキング、イノシシの解体などの体験を楽しんでもらいたいと思って始めました」

1 イワナやヤマメなどが生息する探検池で釣りにチャレンジ
2 周囲の自然に溶け込んでいるハンドメイドの案内看板
3 山菜のミズは、春から秋まで美味しく食べることができる
4 「これはクマが木に登った跡です」と教えてくれる大日方さん

人材不足の解消が今後の大きな課題

おたり自然学校のプログラムは、大日方さん自身がやりたいことの延長線上にあるものなので、とても楽しくてやりがいがあるという。最近はもっとプログラムの幅を広げていきたいと考えているが、インストラクターとして育てられる人材が少ないのが目下の切実な悩みだ。

「たとえば、生き物の観察会をやりたいと思っても、それを仕事として教えることのできるレベルまで掘り下げた知識を持っている人が地域にいないんです。虫屋さんだとか、鳥屋さんだとか、植物屋さんだとかいろいろなジャンルの人たちに来ていただいて、一緒に活動できたらと思っています。せっかくこんなに豊かな自然が目の前にあるのに、その素晴らしさのすべてを伝えることができないのは、歯がゆく感じますね」

石坂森林探険村と並行して、現在、大日方さんは本当の田舎暮し体験をコンセプトにした古民家宿「ひじくらアッチ」のプロデュースも手がけている。こちらは小谷村の集落の中にあった築100年以上の古民家を再生して宿泊施設にしたものだ。

「石坂森林探険村が山深い自然を満喫してもらうのに対して、ひじくらアッチはリアルな田舎の文化や暮らしを体験していただくものです。蕎麦打ちやおやき作り、草木染や機織りなど小谷村に古くから伝わる伝統文化のワークショップにも参加できます。また、地元産の旬の野菜やジビエ、山菜やキノコなどを使った郷土食が自慢なので、興味のある方には、ぜひ一度お越しいただけたらと思います」

しかし、大日方さんはひじくらアッチでもおたり自然学校と同様の悩みを抱えている。それは、スタッフがなかなか集まらないことだ。なにかをやろうと思ったときに人材が不足しているというのは、各地の山村が直面しているリアルな現実かもしれない。

「人が集まりにくいのは、絶対的な人口が少ないからかもしれません。この問題をどのようにクリアしていくかが、今後の大きな課題だと思っています」

1 天然のマイタケを手にして /  2 仕留めたイノシシを山から引き出す
3 雨飾山山頂から見る「女神の横顔」 /  4 山菜狩りツアーに参加したお客さんたちと
(写真提供=大日方冬樹)

“郷に入っては郷に従え”を忘れない

現在、「ひじくらアッチ」で提供する農作物の多くは、大日方さんが自分の田畑で作っている。農業も、狩猟と同様に移住してから取り組み始めた。もちろん、素人がいきなり畑を始めようと思っても、そう簡単にはうまくいかない。

「若い人間が悪戦苦闘していると、地域の人たちが教えてくれるんですよ。わざわざ覗きに来てくれて、“こうやったらうまくいくよ”とかアドバイスしてくれるんです。そういう意味で、周りは先生だらけです(笑)。“今年は春先に気温が低い日が続いて地面の温度が上がってないから、今植えたら枯れるぞ!”とか。いわゆる教科書に載ってないような知恵を教えてくれるので、本当に助かっています」

アドバイスをもらう際に大切なのは、自分から素直に頭を下げて「教えてください」とお願いすることだと大日方さんは言う。もし、自分が経験者であっても、まずは相手の教えてくれることに真摯に耳を傾ける。「そんなこと、わかっています!」という返答は、NGだ。

「やはり“郷に入れば郷に従え”っていうのは、大切だと思うんですよ。少しくらい非合理的だと思っても、『そうなんですか』としっかり聞く。たとえば、なにか村の行事に誘われたときにどうしようかなと思ったら、『ちょっと予定を見てみますね』と返事をしておく。断るにしても、それは後からのほうがいいんです。あくまでも個人的な感想ですが、最初から『興味ないんで無理です』と言っちゃう人は、田舎暮らしに向いてないかもしれません(笑)」

都会から村の社会に飛び込んでくれば慣れないことや悩みごとはたくさんあるだろう。とにかく、ひとまずは、我慢。それから徐々に自分の思う方向にゆっくりとシフトしていく。一足飛びに理想を実現させようと思わないことが肝心と大日方さんは語る。

「地方に移住を希望する人は、古民家に住んだり、農業をやったりといった田舎でしか実現できない夢や目標をお持ちの方が多いと思います。でも、それを実現するには、土地のコミュニティに加わり、少しずつ人とのつながりを増やしていくのが近道ではないでしょうか」

今は、大日方さんも山菜・キノコ狩り体験ツアーで山に自由に入ることができる。しかし最初は、そう簡単に入山させてもらえない。山の所有者にお願いに行ったところ、「小谷村に住み続ける覚悟があるなら、自分の食べる分だけ取っていいぞ」と言われた。しかし、その後、地域の活動で一緒に汗をかくことで徐々に信用を築き、今では自由に歩かせてもらうまでになった。

1 地元の方々に指導をいただいてわさび田を復旧する /  2 古民家宿「ひじくらアッチ」の食堂と囲炉裏
3 ある日のひじくらアッチの夕食。メインはイノシシのすき焼き /  4 狩猟中に曽田集落を眺める
(写真提供=大日方冬樹)

多角的な視点で問題解決のヒントを見つける

「移住がうまくいかないのって、移住者と受け入れる側のどちらにも問題があることが多いのではと思います。移住先にもさまざまな方がいますので、なかなか外部の人間を受け入れてくれない人もいます。しかし、辛抱強く付き合いを続けていると、移住者に親身になってくれる人をきっと見つけられるはずです。移住者のなかには、“理想と違った”と言ってすぐに帰ってしまう方もいるのですが、もう少し時間をかけて人とのつながりを作っていったらいいのにと思うことがありますね」

先ほどから大日方さんの話をうかがっていると、物事を多角的に捉えられる人という印象を受ける。田舎暮らしのメリットとデメリットについてもきちんと分けて考え、そのなかから粘り強く問題解決のヒントを見つけていく。そんなスタンスが、棚田の跡地や古民家を体験施設として甦らせる事業の成功につながっていったのだろう。

最後に、今後の小谷村での暮らしの展望についてうかがってみた。34歳の働き盛りの大日方さんの夢は、どんなことだろうか?

「自然学校のプログラムをもっと増やしていきたいですね。たとえば、教科担任の先生がいるみたいに、魚釣りが得意な先生に教わると魚釣りの技術が身につくし、狩猟が得意な先生からは、狩猟を教わるような。同じ里山でもいろいろな先生に教わることで、違った魅力をどんどん発見できる。そんな自然のテーマパークみたいな施設にすることができたらと思っています」

環境保護や地域の自然・文化など固有の資源を前面に打ち出したいわゆるエコツーリズムは、近年注目を集めている。そして、ありのままの自然が豊かに残っている小谷村は、日本のどのエリアとくらべてもアドバンテージが高い。人材集めという難題は残っているが、大日方さんならきっと突破口を見つけて、想いを実現させるに違いない。