初冬の常念岳でスマホ対応グローブを使う ブラックダイヤモンド/トレント[ロストアロー]

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今月のPICK UP ブラックダイヤモンド/トレント [ロストアロー]

ライナーとシェルの二重構造で、4シーズン対応のグローブ

価格:9,000円+税
重量:180g(Mサイズ)
温度域:マイナス7~2℃

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初冬の北アルプス登山の相棒

さすがに、このあたりに雪はほとんどないな……。ここは北アルプス東側の登山口のひとつ、三股。僕は昨年の晩秋もここから蝶ヶ岳に向かい、その後には大滝山、鍋冠山と歩いた。しかし、今回は常念岳を目的地とした。

三股付近から見える稜線には雪がついているが、その量まではわからない。山頂までは一気に1500mも登らねばならないが、順調に到達できるだろうか?

三股の登山口近くの分岐。ここから先は当分のあいだ、急登が続く。このあたりに雪はほとんどないが、標高とともに次第に深まっていく

当日、僕はヘッドライトの明かりが必要ない時間帯になってから、三股を出発した。この日は日曜日で駐車場には数台のクルマが停まっていたが、常念岳へと登っていった人はまだいないようだ。つまり、僕がこの日の先頭というわけである。

森の中の急登を進んでいくと雪の量は増えていく。それほどの深さではないが、前日にもある程度の雪が降ったようだ。そのために雪の下の地面の様子がわからず、ときどき岩や木の根に足を取られ、思いのほか歩きにくい。むしろもっと積もってくれたほうが、ラクに進んでいけるに違いない。

途中で下山してきた人とすれ違った。そこでここから先にはトレースがあって歩きやすくなるかと思ったが、その人のものと思われるテントを張った跡がすぐ近くに現れ、案の定すぐにトレースはなくなってしまった。やはり他の人に期待してはいけない。僕はひとりで雪を踏みしめながら、前常念岳へ向かっていった。

トレッキングポールを握った僕の手には、ブラックダイヤモンドの「トレント」というグローブがはめられている。これは防水性のアウターグローブに温かなライナーグローブを組み合わせた2重構造だ。この日、山頂の予想天気は日中でも気温はマイナス5~6℃、風速は17~18m以上。だが森林限界よりも下はほとんど無風で暖かく、僕は当初、トレントのライナーのみを装着して歩いていた。

標高が低い場所は気温が高く、風もなかったので、ライナーのみで歩いた。柔らかい生地で心地よいが、素材の性質上、傷みやすいだろう

このライナーの指先(親指と人差し指)にはタッチスクリーン操作対応生地が採用され、グローブをしたままでタッチスクリーン式のGPSやスマートフォンを使える。電子機器で情報を入手し、雪山での安全度を高めることはもちろん、たんに写真を撮るのにも便利な現代的機能だ。僕も山中からFacebookなどに山行の様子をアップすることが多く、最近増加してきたこのタイプのグローブには注目している。

上がアウターグローブ、下がライナーグローブを取り出した状態。ライナーのみ、アウターのみ、それらを重ねてと、3通りの使い方ができる

 

スマホ必須装備の時代のグローブに求められる機能

標高2600mを越える前常念岳まで登ると、さすがに気温が下がってきた。山頂近くでは休憩中に僕に追いついた人とスマートフォン内蔵のカメラで記念写真を撮影しあった。ライナーのタッチスクリーン操作対応生地の実力が試される場面だ。

その結果は……。写真を撮ることに関しては、大きな問題ない。ときどきタッチしてもシャッターが下りないこともあるが、もう1度タッチすればいいだけだ。
だが、スクリーンをスワイプして撮った写真を何枚も連続して確認しようとすると、なかなかうまくいかないことがある。フリックも同様で、とても丁寧に操作する必要があるだろう。

だが、親指、人差し指の2本で開いたり閉じたりするピンチアウト、ピンチインの作業に至ってはまったくダメなのである。トレントのタッチスクリーン操作対応生地は指先のごく一部だけなので、操作中の指の角度を考えると、その生地がタッチスクリーンにほとんど接しなくなってしまうからだ。

親指と人差し指の先端には、金属風の光沢があるタッチスクリーン操作対応生地が使われている。この部分の形状と面積は再考してもらいたい

僕自身はピンチアウト、ピンチインの操作を人差し指と中指で行なうこともある。そういう方も多いだろう。この場合の指の角度ならばトレントのタッチスクリーン対応生地の用い方でもよさそうだが、残念ながら中指の先にはタッチスクリーン操作対応生地が使われていない。だから、人差し指、中指での操作も、やはり不可能なのだ。

タッチスクリーン操作対応生地が指のサイドには使われていないため、ピンチイン、ピンチアウトの操作がしにくい。その他の操作はまあまあ、といったところ

 

グローブとしての使い勝手は文句なし

尾根の上で気温はますます下がり、風も少しずつ出てきた。僕はライナーの上にアウターグローブをつけた。少しすると凍え始めていた指先が暖かくなり、トレッキングポールを持った手がラクに動く。そういえば、トレントの対応温度域はマイナス7~2℃と、ちょうど今回の天気予報の気温と同じくらいだ。今回は持参したものの最後までピッケルの出番はなかったが、あの金属のシャフトを握っていたとしても冷たくはなかっただろう。

前常念岳の近くで、いっしょになった方に記念写真を撮ってもらう。風で体感温度が下がってきたので、インナーにアウターグローブを重ねた

ライナーの肌触りも上々で、汗ばんでも蒸れを感じない。アウターだけでも使ってみたが、風と水分を遮りつつも過度に暖かくはならず、快適な使い心地である。手首部分を締めるバックルとストラップ、コードも簡単な操作で絞ることができ、ストレスは感じない。通常のグローブだと考えれば、ほとんど文句はないのだ。

アウターグローブの手の平側には丈夫なゴートレザーが使用され、ハードなシチュエーションでも安心して使える。甲の側は4ウェイストレッチ素材だ

だからこそ、タッチスクリーン対応の機能がもっとすばらしければ、完成度がさらに極まるのにと、僕は考える。その後、僕は結局、写真を撮影したいときにはライナーをつけたまま、写真を確認したいときにはライナーを外して、スマートフォンを操作していた。グローブの基本性能はよいだけに、なんとなく悔しい。さらにいえば、アウターグローブ自体がタッチスクリーンに対応していると、より低温の山でも使いやすいはずだ。

ちなみに、僕は同ブランドのデジタルライナーという薄手のグローブを愛用しており、じつはそれもタッチスクリーンに対応している。指先の素材はトレントとは異なるもので、その面積も広く、どんな操作でもだいたいスムーズに行なえて重宝している。ただし少々厚手の生地なので、トレントのようにアウターグローブの内部で使う想定をしたライナーグローブには採用しにくいのかもしれない。だが、あの素材を使えたらいいのに……。

アウターグローブ、ライナーの裏側の様子。アウターにはBDRYという防水透湿素材インサートされ、蒸れにくい。ライナーは起毛したフリースだ

前常念岳から先に向かうのは、視界に入る範囲では僕だけになった。雪中のラッセルを逃れるように、できるだけ露出した岩をたどっていく。しかし岩がすべて埋もれていたり、ハイマツしかない場所では、膝から太腿ほどの雪を踏みしめ、かき分け進んでいく。時間と体力を消耗するが、幸いなことにそれほど長い距離ではない。

常念岳山頂付近まで登ると、風は非常に強くなった。天気予報通りの風速17mとまでは行かないとしても、10mどころではない。それまでは歩いている限り、上半身は薄手のミッドレイヤー程度でも寒くなかったが、ここではアウタージャケットを着て防風しなければ、とても体が持たない。だが、手先に関しては、トレントがあれば充分だった。

山頂からは雪をまとった穂高連峰、槍ヶ岳が凛々しく見えた。常念岳から大天井岳、燕岳への稜線もクリアに眺められたが、こちらの稜線はまだまだ雪が少ない。だが、あと1ヶ月もすると完全に冬型の天気になり、積雪量も多くなって、常念岳に登るのはかなり大変になるだろう。今年最後になりそうな北アルプスの姿を、僕はしっかりと目の奥に焼き付けておいた。

前常念岳の近くで、いっしょになった方に記念写真を撮ってもらう。風で体感温度が下がってきたので、インナーにアウターグローブを重ねた

 

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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