軽量コンパクトなドームツエルトの最新版! ヘリテイジ「クロスオーバードーム〈2G〉」を、しっとり静かな雁坂峠のテント場でチェック

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今月のPICK UP

ヘリテイジ/クロスオーバードーム〈2G〉

価格:44,000円(税別)
サイズ:210×100×105cm
重量:630g

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新型コロナウイルスの問題で“密”を避けやすいからと、今年の夏山登山はテント泊で行なった人も多かったようだ。しかし登山者自体が減少した山域が目立つため、テント場が込み合ったという話はそれほど聞かなかった……。

しかし、初秋を迎えたシルバーウィーク。北アルプス立山連峰の雷鳥沢キャンプ場は記録的に込み合い、一説には1000張りとも。あのテント場のスペースへ本当に1000張りも張れるか疑問だが、結局、テント泊登山は今年も人気だったようである。

 

“日本三大峠”の雁坂峠。平日の静かな山域へ

そんなシルバーウィークと同じころ、僕はひとり奥秩父に向かった。出発は雁坂峠入り口。平日とあって駐車場は閑散としていた。

ここから林道を進み、峠沢沿いの登山道で稜線を目指す。早朝は重苦しい空模様だったが、いくらか天気は持ち直し、周囲の山々の緑が目に飛び込んでくる。

9月になっても気温は高く、僕はショートパンツである。それでもテント泊装備の重い荷物で汗が流れだす。

しかし、天気予報によれば午後から再び天気が崩れるらしい。

ときおり休憩を入れながら歩いているうちに、稜線に上り詰めた。ここが“日本三大峠”のひとつ、雁坂峠である。

峠まで続くここまでの登山道の大半は、昔は多くの人が行きかっていた生活道でもあり、非常に歩きやすかった。古から整備を行なってきた人々には感謝したい。

稜線は東西に走り、僕が登ってきた南側には青空も見える。しかし反対の北側には真っ白なガスが立ち込めていた。

この日の宿泊予定地である雁坂小屋のテント場は、稜線の北側。つまりガスの中だ。

夜は雨になるかもしれないと思いながら、僕はテント場へ向かっていった……。

 

さて、僕が今回持っていったテントは、ヘリテイジ「クロスオーバードーム〈2G〉」である。フライシートを省いたシングルウォールタイプであり、一般的なテントに比べるとかなり華奢なタイプだ。海外メーカーではよく使われる呼称の“シェルター”という言葉のほうがふさわしい。“ツエルト”にポールを付属させ、自立できるようにしたと考えることもでき、実際メーカーは“ドームツエルト”という言い方をしているようだ。

ちなみに「クロスオーバードーム〈2G〉」の「〈2G〉」とは、“2nd Generation(セカンド・ジェネレーション=第2世代)」の意味。限定販売された最初期のモデルは2015年に登場し、僕は初代モデルもテストしたことがある。

以下の写真が、セット販売されている「本体」と「ポール」である。今回のクロスオーバードーム〈2G〉は1~2人用、本体とポールの合計重量が630g。フロアのサイズは210×100cmで、高さは105cmだ。収納時は本体が21×10cmで、実質的には500mlペットボトルのサイズ。ポールは長さ38cmしかなく、そのコンパクトさは驚くべきものだ。

クロスオーバードーム〈2G〉はシリーズ化され、フロアサイズを200×75cm、高さを95cmに抑えた1人用「クロスオーバードームf〈2G〉」は540g。また、フロアサイズを210×130cm、高さを105cmにして3人まで眠れるようにした「クロスオーバードーム2〈2G〉」もあり、重量は690gだ。「クロスオーバードームf〈2G〉」が1人用、「クロスオーバードーム〈2G〉」が1~2人用で、「クロスオーバードーム2〈2G〉」が2~3人用と、モデル名に入っている数字と使用可能人数の関係性が少々ややこしい。

本体はコンプレッションストラップ付きの収納袋に収められ、素材には特殊な防水透湿PUコーティングを施した10デニールの超薄手のナイロンが使われている。縦糸には強度が高い糸が使われ、薄手なりに引き裂き強度を高めているという。

一般的なテントであれば、地面に触れるボトム部分には上部よりも厚くて強度が高い素材が使われている。だがクロスオーバードーム〈2G〉は本体すべてが同一素材。このあたりもテントというよりも“シェルター”や“ツエルト”に近い作りである。

ポールは中空のアルミ製。先端部分だけが樹脂製だ。細身だが、現代の最新鋭テントのポールと比べると、それほど軽量なわけではない。実測では285gで、クロスオーバードーム〈2G〉の半分近い重量を占めている。

今後、このシリーズがより軽量なものになっていくためには、このポールを改良していかねばならないと思われる。

 

テントを設営。ドームツエルトには欠かせないベンチレーターをチェック

雁坂小屋のテント場に到着した僕は、白く漂うガスの湿気を感じながら、クロスオーバードーム〈2G〉を設営した。ペグは付属していないので、自分で用意しなければいけない。最低本数はボトムの四隅分である4本、それぞれの辺から張り綱(ガイライン)を取り、設営強度を高めようとすれば8本必要になる

落ち着いたイエロー系のカラーリングで、非常にシンプルな形状だ。そのなかでL字型の出入り口のデザインが特徴的である。

出入口を開くと、以下のようになる。

一般的なテントは、出入口のパネルはクルクルと丸めてトグルで留めるのが普通だ。しかしクロスオーバードーム〈2G〉は一端を軽く留めることしかできない。

以下は内部から見たL字型の出入口パネルだが、横に細く面ファスナーがつけられているのがわかるだろうか。

この面ファスナーは出入口を開けたままにするときに使うものなのである。

次の写真はL字型パネルの角にある面ファスナーを、ポールを通すスリーブの上につけられたループに通した状態だ。このまま面ファスナーの裏表を合わせれば、パネルをループに固定できるわけである。

僕が一般的なテントに慣れすぎているからかもしれないが、この方式はちょっと使いにくい。パネルをしっかりと巻き上げられないので、出入りするときに邪魔になり、内部からは外を見にくく、開放的でもない。一般的なトグルを使わないのは、少しでも使用パーツを少なくして、軽量にするためなのだろうか。

ポールを本体に通していく設営方法は、スリーブ式テントと同様だ。クロスオーバードーム〈2G〉のスリーブは、一端が袋状になっており、もう一端がバックル付きでテンションを変えられるようになっている。

シンプルなシステムだが、スピーディーに設営ができ、撤収も簡単である。

スリーブの中央付近の赤いループには、張り綱がつけられる。

じつは、軽量化に特化したクロスオーバードーム〈2G〉にとって、重量増の一因になる張り綱はオプション的な装備。標準では省かれ、別売品になっている。

そのダイニーマ素材で自在が付いた「スーパーガイラインセット(テント用)」は、4本セット。

クロスオーバードーム〈2G〉は華奢な造りなので、風雨に対する強度を高めるためには購入して取り付けたほうがいい。事実、今回のテストでも組み合わせて使用している。

内部を見ると、下のほうにベンチレーターが設けられているのがわかる。

本体と同じ素材にメッシュ地を組み合わせ、雨の吹き込みを防止しつつ、通気性の向上を目指しているのだ。

同じベンチレーターを外側から見た状況。ベンチレーターの形状は、丸く配置した張りのあるライン状のパーツできれいに保たれ、雨で濡れてもつぶれることがない。

じつは僕が2015年に最初期のモデルをテストした際には、ベンチレーターが雨水の重さでつぶれ、完全に密閉されてしまった。その結果、息苦しくなってしまい、大きな問題だと感じていた。だが、このクロスオーバードーム〈2G〉はもちろん、現在販売されているクロスオーバードーム(〈2G〉ではない継続販売の定番品)では問題が解消されており、今は安心である。

ベンチレーターはもうひとつ、本体の上部にもつけられている。出入口を含めた数カ所から外気を取り入れ、内部環境を向上させるためだ。

ただし、こちらは下部のベンチレーターとは異なり、メッシュ地が組み合わされていない。開放していると害虫が入り込む恐れがある。

虫が心配な方は、別売りの「ベンチレーター用モスキートネット」を合わせるとよい。伸縮性のあるゴムでベンチレーターの上にかませるだけでよく、使い方は簡単だ。

ただ、この部分のベンチレーターにも元からメッシュ地を合わせておいてよい気がする。これも軽量化のためなのだろうか?

 

前室を作れる「フロントフライ」もオプションで用意

ここまでガイラインのセット、モスキートネットと別売りのオプションを紹介してきたが、もっとも大きいオプション品として「クロスオーバードーム用フロントフライ」も用意されている。出入口付近に屋根を作り、前室を生み出すパーツである。

素材は本体と同様で、重量は140g。クロスオーバードーム〈2G〉と合わせると、合計830gになる。

クロスオーバードーム〈2G〉本体(写真上)と並べてみると、フロントフライ(写真下)はひとまわり小さい。

そして非常に地味ながら、本体の収納袋に使われているコードはレッドで、フロントフライはイエローなこと。このコードの色の使い分けは収納袋に収められたもの、つまり本体やフロントフライに使われているコードも同様である。これが意外と便利な工夫なのだが、その理由は後述する。

下の写真は本体にフロントフライを合わせた状態だ。フロントフライは本体と同素材・同色なので、一見では本体のみの写真とあまり変わらず、外見上はわかりにくい。

しかし、よく見ればクロスオーバードーム〈2G〉の前方に、ダブルウォールテント的な“前室”がうまれ、一般的なダブルウォールテントのようなルックスに変身している。

フロントフライ装着時を斜め上から見ると、以下のような感じになる。

フロントフライは本体すべてを覆うのではなく、出入り口がある面のみをカバー。使用するパネルの面積を削減し、できるだけ軽量になるように考えられているのだ。

フロントフライには本体と同じ場所にベンチレーターやファスナーがつけられ、連動するようになっている。そのために、組み合わせて使っても換気性は良好だ。

このとき、上の写真の丸いベンチレーター部分を見てほしい。レッドとイエローのコードが見えるだろう。ベンチレーターを閉じたいときは、本体ならばレッド、フロントフライならばイエローを締めればいいことが一目でわかる。正面のファスナーの引き手も同様な色分けがなされており、本体とフロントフライは同素材でわかりにくいだけに、こういう色分けの工夫があれば、迷うことなくベンチレーターや出入口を開閉できて、ありがたい。

しかし今回はテストということもあり、オプションのフロントフライ、モスキートネットは撮影するだけで、就寝中は外すことにした。しかし夜は雨が降りそうなこともあり、別売りの張り綱だけはそのまま取り付けておいた。

 

超薄手の生地、しかもシングルウォールで薄いイエロー系というクロスオーバードーム〈2G〉の内側は非常に明るい。そのせいか、数値以上に広々とした印象である。

幅100cmのクロスオーバードーム〈2G〉は、ひとりで使うには十分すぎる大きさだ。結露の問題を考えて、壁から少し離れた位置に寝袋を広げたとしても、バックパックや荷物を余裕を持って置くことができる。

本体の天井部分は非常にシンプル。一般的なテントの大部分につけられているループすらなく、モノをかけるためにコードを取り付けたりすることはできない。

ランタンなどを上からつるすのは少々不便だ。

パネルの縫い目は防水処理されている。その際に使われているのは、幅がたった15mmのシープテープだ。ほぼ透明なのでわかりにくいが、写真をよく見てほしい。

こんな部分からも軽量化への徹底的な意思が感じられる。

だが、実際にクロスオーバードーム〈2G〉の内部に入ってみても、先述した出入口パネルの留め方が気になってしまう。どうしても体に大きく触れてしまい、邪魔なのである。

邪魔なだけならいいが、これが結露して濡れていたら、体が濡れやすくて不快だ。一般的なテントに慣れた僕としては、どうしてもしっかりと巻いて留めたくなってしまう。

天気予報では夜半に雨が降り始めるらしい。風向きも変わり始め、出入り口と反対側、つまり下にベンチレーターがある側が風上になった。そこで僕は夜を迎える前にベンチレーターを閉じることにした。しかし構造上、普通にコードを引っ張ってもメッシュ地は閉じ切ることはできない。

僕は仕方なく、引き絞って余ったコードをメッシュ部分に巻き付け、強制的に閉じるようにした。上部のベンチレーターは完全に閉じられるため、下方のベンチレーターまでこのようにして換気性を完全に止めてしまうと、全体の通気性は相当に落ちてしまう。だから、このような使い方をメーカーは推奨しないだろう。しかし本格的な悪天候時は、こうでもしないと浸水は免れないと思われるのだ。

夜がやってきた。就寝時にはいったんガスもなくなり、星が見えるほどになった。

だが夜半には雨が降り始め、強雨とはいえないまでも、それなりの降水量になっていった。しかし雨粒を受けるクロスオーバードーム〈2G〉は大きな音を立てたが、内部は快適なまま。幸いなことに風はやみ、僕は朝まで浸水を心配することもなく、ゆったりと休むことができた。

 

一晩過ごして、雨や結露をチェック。感心したのは素材の機能性

朝になって明るくなり、僕はクロスオーバードーム〈2G〉を改めてチェックしてみた。

クロスオーバードーム〈2G〉の素材は耐水圧1,230mm、透湿性は367g/㎡/hという非常に優れたものだ。事実、雨水は一切浸透していない。薄手でも水には強いのだ。

一方、いくら耐水性が高くても、内部の結露は完全には防ぎようがない。

だが結露の量自体は、一般的なシングルウォールテントに比べると、かなり少ない気がする。本体の壁に生じた結露の一部は流れ出し、フロアに水滴を付けていたが、これくらいならば簡単に拭き取れる量だ。

同じ条件で他のテントと比較したわけではないので厳密な結果ではなく、あくまでも感覚的なインプレッションでしかない。季節や条件でも大きく変わるだろう。だが、素材はやはり優秀なようである。

もともと完全に閉じることができる上部のベンチレーターは、雨水をしっかりとシャットアウトしてくれた。

暴風雨の場合はいくらか浸水するかもしれないが、基本機能は問題ない。

太陽が高くなるにつれて天気は好転していった。

この日は時間に余裕があり、僕はすぐに出発せず、雨水と結露で濡れたテントを少し乾かすことにした。

クロスオーバードーム〈2G〉の生地は速乾性も高く、薄曇りの空の下でも濡れている面積がどんどん小さくなっていく。

濡れは重量増の一因にもなり、連泊の際は再設営をするのも嫌になってしまうが、そういう面でも速乾性には大きなメリットを感じられる。

ところで、じつは今回のテストで僕がいちばん感心したのは、撤収が容易だったことだ。具体的に言えば、本体を収納袋に入れるとき、予想以上にスムーズに入れられたのである。

先に述べたように、僕は最初期のクロスオーバードームをテストしたことがあり、現行のクロスオーバードームも何度か設営したことがある。しかし本体を折り畳んで収納する際、内部の空気が逃げにくい構造のうえに生地がほとんど通気しないため、これまではどうしても本体の膨らみを押さえきれず、収納袋からハミ出してしまうという事態に何度か陥った。とくに雨水に濡れるとお手上げで、収納袋に入れるのをあきらめたこともあるほどだ。この問題はクロスオーバードームに限らず、軽量なシェルターにはよくあることでもある。だが、クロスオーバードーム〈2G〉の生地は空気が抜けやすく、あまりストレスを感じずに収納できる。些細なことだと思うかもしれないが、実際に使ってみれば理解してもらえるひとつの“機能”と考えてよい。

撤収を終えた僕は雁坂小屋を出発した。

空はますます明るくなってきた。昨日よりも期待できそうな天気に、僕の足取りは軽くなった……。

 

まとめ:ドームツエルトであることを理解して使えばテント泊登山の武器になる

“ドームツエルト”であるクロスオーバードーム〈2G〉は、一般的なテント(とくにダブルウォールタイプ)に比べれば居住性は落ちるのは否めない。だが、ポール込みの総重量はたった630g。一段階小さいクロスオーバードームf〈2G〉であれば540gだ。

この超軽量性は非常に魅力的である。ポールをもっと軽量なものに改良できれば、さらに数十gは軽くなるかもしれない。しかも進化した「〈2G〉」の素材は耐水性、透湿性に優れ、ベンチレーターの機能も加わって、通気性も向上している。簡易的なシェルターともいえる“ドームツエルト”とはいえ、シングルウォールタイプとしてはとても優れた機能性だ。

ただし、軽量性、コンパクト性を重視したモデルだけに、生地は薄く、破損しやすい。トラブルなく使いこなすには、ある程度の経験があったほうがよさそうだ。そのあたりを理解したうえで使用すれば、クロスオーバードーム〈2G〉はテント泊登山の大きな武器になる。

 

今回登った山
雁坂峠
奥秩父(埼玉県 山梨県)

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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