近所の散歩で植物観察 ~都会の野生植物たちの芽吹き、成長、開花、結実、世代交代~

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アメリカオニアザミは触ると痛い鋭い棘を持つ


もうすぐ夏山本番だ。しかし、梅雨でもあり、まだなかなか山に行けない日が続いている。日々の運動や夏山のトレーニングのために、街中を散歩している方も多いだろう。

自然好きならば散歩しているだけでも道端の野生植物に気がつく。日本の都会は砂漠ではないから、植え込みの下をのぞきこむと、たいてい小さな植物がひっそりと、でも勝手に元気いっぱい繁栄している。そして小さな花を咲かしていることに気がつく。さらによく探すと、コンクリートやアスファルトの割れ目など、どこにでも植物は生えているのが見えてくる。

都会の散歩で植物観察をしてみよう。観察場所はどこでもよい。公園、空き地、歩道の植え込みの下、気をつけなければいけないことは、他人の土地に入り込まないことと、人から変に思われないようにすることだ。筆者は、うずくまって小さな花を観察していたところ、「大丈夫ですか?」と声をかけられたことがある。すぐに、「雑草を観察しています」と説明したが、変なヤツと思われたようで、怪訝そうな顔をして去って行った。

さて、近所を散歩して歩くとなると、同じ場所を何度も歩く。そうすると、植物たちがひと月も経つと、大きく変化していることに気がつく。カントウタンポポはもう綿毛を飛ばしてしまい、先月までオレンジ色の花を咲かせていたナガミヒナゲシは、もう枯れてしまって、長細い実をゆらゆらさせている。白い花を咲かせていたドクダミも茶色の果実が多くなってきた。

ナガミヒナゲシは花が終わり、長い実も枯れている

ドクダミの葉は紅葉し始めている


彼ら植物たちの動きはとても速いのだ。今、ナスのような花を咲かせるワルナスビが咲き始めた。空き地などではハキダメギクが白い小さな花を精いっぱい咲かしている。アメリカオニアザミの紫ピンク色の花もあるが、この時期の花は白色の花が多いようだ。梅雨時の花盛りだ。

ハキダメギクは、ゴミ捨て場で最初に見つかった都会派

サツキの植え込みからヤブミョウガが頭を出していた


春の花が終わり、これからは夏の花が咲き、さらには秋の花が咲き始める。咲いた花は、どんどん果実となっていく。植物はちっともじっとしていない。身近な野生植物の、このダイナミックな動きを観察することは、とてもおもしろい。

近所でなければ、同じ植物を何日もかけて観察することはできない。夏山で見かける高山植物を何日も見続けるのは、山小屋のバイトでもしないと難しい。高山植物も、標高の変化や、残雪の状態によってある程度成長の状態は見ることはできるが、一年からすればほんの一瞬にしか過ぎない。同じ山に時期を変えて何度も登ることはほとんどないだろう。

フェンスの向こうからヒヨドリジョウゴがご挨拶

ワルナスビが道路に顔を出す


それに比べて、近所の植物は、長期にわたって、植物を観察でき、芽吹き、成長過程、開花、結実、種子の散布、そして、世代交代。植物が生まれてから死ぬまでの一生すら見ることができる。そこまで見ていると、きっと誰だって小さな発見があり、これが、近所散歩で植物観察の最大の魅力だ。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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