シラネアオイの山、北海道・目国内岳。登山道脇の大群落に心奪われる
シラネアオイ――、花名のとおり日光白根山などで見かける美しい花だが、本州では珍しい花だ。しかし北海道では、あちこちの山に咲く普通の山の植物だという。そんなシラネアオイを見に、本州出身の筆者は北海道の目国内岳へと向かった。
本州が梅雨のころ、高山植物の撮影のために、北海道のニセコに行った。本来は北海道にしか咲かないスミレの花を探しに行ったのだが、今年は雪解けが異常に早く、目的の花はすでにほとんど終わっていた。いつもなら、がっかりしてしまうところだったが、今回の目国内岳(めくんないだけ)は違った。なぜならば、目国内山はシラネアオイの山だったからだ。
シラネアオイの花が多いのは、目国内岳よりも、その手前にある前目国内岳だ。目国内岳の登山口は新見峠。この時期には、山登りの人よりも山菜のネマガリタケ採りの人のほうが多い。
歩きはじめは、左右を背の高さよりも高いチシマザサに囲まれる。チシマザサのタケノコがネマガリタケだ。指よりも太いタケノコを見ながら登っていくと、時々、ダケカンバの木が生えている。途中から花がチョコチョコ出てくる。マイヅルソウやノウゴウイチゴ、ゴゼンタチバナなどの花が咲いている。キイチゴの一種ベニバナイチゴは、下を向いて花を咲かせている。
左右の笹が腰の高さまで低くなり、もう少しで前目国内岳というところまで行くと、視界も開けていき、眺めもよくなってくる。そして、登山道の左右はずっとシラネアオイの薄紫色の花が続いていた。
本州ではシラネアオイは、なかなか見ることのできない珍しい花だが、北海道ではあちこちの山に咲く普通の山の植物だ。群落もよくあるが、さすがにこれほどの群落は珍しい。北海道民の登山者は、見慣れているからか、あまりシラネアオイに注意を向けずに登っていく。
しかし、本州からやってきた私だけは興奮のるつぼ状態である。一生懸命に撮影しながら、やっと前目国内岳の山頂にたどり着いた。
前目国内岳からは、よく目国内岳が見える。しかし、歩き始めると急にガスが出てきた。そんな中、ムラサキヤシオ、ウコンウツギ、エゾイチゲ、ヒメイチゲなどの花を見ながら目国内岳山頂をめざす。しかし、山頂は霧に包まれ、強風が吹きすさび、耐えられなくてさっさと下山した。
ニセコでは神仙沼などの湿原も歩いた。観光地のようになっているが、なかなか自然が豊かで、花も多く楽しめた。
数日後、北海道を去る日に、もう一度ニセコにやってきた。この日は帰りの飛行機の時間の制限があり、残念ながら前目国内岳だけで下山した。前回と異なり青空が広がり、積丹半島と日本海が見える。ニセコの山々、駒ヶ岳など道南の山々の展望がすばらしい。
北海道の山々を1週間弱登り、たくさんのシラネアオイを見てきた。それでも、シラネアオイの群落にはやはり目を奪われた。何度見ても、このシラネアオイの花畑には興奮する。やはり私は、あくまで本州の山男であった。
プロフィール
髙橋 修
自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。
髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。