山形・摩耶山再訪。山々を眺め、思索に浸る静かな初冬のハイキング
山形県の西方、庄内平野の南に朝日連峰から派生する山並みは、摩耶山を主峰として北に屏風のように連なり、三方倉山、湯ノ沢岳、母狩(ほかり)山、金峯(きんぼう)山を経て、庄内平野に落ち込んでいきます。摩耶山は雪深い地域にあるため、豪雪が東側斜面を削り落とした東西非対称となっているのが特徴的で、また周囲の山々を眺められる絶好の展望地です。前回は晩秋に訪れましたが、空気がさらに澄んでくるこの時期、眺望を狙ってふたたび訪れました。
写真・文=斎藤政広、カバー写真=摩耶山からの月山遠望
展望を求めて山頂へ
12月に入って晴天を待ちつつ、天気図を見つめる日々が過ぎていきましたが、待ちに待った晴天の予報が出ました。当日、まだ暗い早朝に出発します。鶴岡方面から国道345号に入り、越沢を過ぎて摩耶山林道を川沿いに進むと、駐車スペースがある登山口です。
まだ夜が明けてまもなくのため薄暗い中、冬山装備を携えて歩き始め、沢の水音を聞きながら進んでいきます。小国川の上流部である摩耶山沢に出て、冬支度で外された木橋を横目に見ながら石伝いに渡ります。今回はこの美しい渓谷は素通りして、初心者コースの尾根に取り付きます。
しばらくして朝の光が射してきました。落葉の上にうっすらと雪が積もり、白くなった登山道は、ふかふかして心地よい感触です。
尾根上の追分に出て、関川からの道と合流します。ここでひと休みしてブナ林の道を進み、摩耶山避難小屋へ。やがて雪をつけた摩耶山西面が見えてきます。
標高を上げていくと、周囲には霧氷が現われてきます。足元に目をやると、雪面にノウサギの新しい足跡がありました。
さらに上がっていくと、北方に白き鳥海山が姿を現わします。ほんの山頂部分ですが、なじみの山との出会いはうれしいもの。おはようとあいさつをして進んでいきます。
やがて、昔話に登場するような、雪蓑を着けた六体地蔵尊が迎えてくれました。ここまで来ると山頂はもう間近です。
間もなく倉沢からのルートに合流して、展望のよい山頂部に飛び出します。鉾ヶ峰と鑓ヶ峰も冬の装いで、険しくそそり立つ急斜面に雪がへばりついています。
この日は、山頂での長めの滞在を楽しみにしてきたので、しっかりと防寒対策をして、どっかりと腰を下ろします。山々を眺めつつ、思索に浸る贅沢な時間の始まりです。なによりうれしいのは、雪に覆われた月山との再会でした。まずはこの、大きくどっしりとした月山について思いを巡らせてみます。
プロフィール
斎藤政広(さいとう・まさひろ)
横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。
今がいい山、棚からひとつかみ
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