山形・摩耶山再訪。山々を眺め、思索に浸る静かな初冬のハイキング
山形県の西方、庄内平野の南に朝日連峰から派生する山並みは、摩耶山を主峰として北に屏風のように連なり、三方倉山、湯ノ沢岳、母狩(ほかり)山、金峯(きんぼう)山を経て、庄内平野に落ち込んでいきます。摩耶山は雪深い地域にあるため、豪雪が東側斜面を削り落とした東西非対称となっているのが特徴的で、また周囲の山々を眺められる絶好の展望地です。前回は晩秋に訪れましたが、空気がさらに澄んでくるこの時期、眺望を狙ってふたたび訪れました。
写真・文=斎藤政広、カバー写真=摩耶山からの月山遠望
山のつながりに思いをはせる
月山山麓にはブナ帯が広がっていて、山形内陸部と庄内を結び、1200年の歴史もあるといわれている六十里越街道が通っています。現代に入り、旧国道112号や高速道路が開通し、初代の六十里越街道は廃道になる寸前でしたが、歴史ある街道の大切さを実感した人々が「アルゴディア研究会」を立ち上げ、整備を行なってきました。またガイドならぬ「山船頭人」が、その歴史を踏まえて六十里越街道の魅力を伝えながらの案内や、六十里越街道の魅力発信のため西川町、鶴岡市あさひ地区と持ち回りで街道会議を開き、有識者を交えて情報交換なども行なっています。
そうした地道な活動もあって、今では多くの人が歩くことの心地よさを求めて六十里街道を訪れるようになっています。ブナ帯の中心部を歩く楽しさを、ぜひ味わっていただきたいものです。(→六十里越街道のガイド記事はこちら)
北に目を向けると、はるかかなたに雪白き鳥海山が美しく見えます。摩耶山山頂から直線距離で70kmほどです。
西に目を向けると、三瀬(さんぜ)の藤倉山、温海(あつみ)の温海岳、新潟との県境にある日本国(にほんこく)というピークがあり、後方は日本海です。この山域にはクマタカが棲息しているのですが、この山々と海上に巨大風車群の計画があるそうです。こよなく愛する海と山と森、そこに暮らす生き物たちに思いをはせながら、初冬の一日、ゆっくりと眺望の時間が過ぎていきます。
ほぼぐるりとひと巡りして南東へと目を向けます。直下に荒沢ダム湖、その後方は朝日連峰です。正面の奥には、大朝日岳を中心にして朝日連峰の主要な峰々が目白押しです。
朝日連峰北端にある以東岳の勇姿が、午後の斜陽の中に浮かび上がっています。朝日連峰の山旅を振り返ると、数々の山小屋での思い出がよみがえってきます。
さて、これまで俯瞰してきた月山、鳥海山、朝日連峰のほか、葉山、神室連峰などそれぞれの山域にはクマタカやイヌワシが棲息しています。彼らの気持ちになって山並みの広がりを見下ろしていると、私たちも想像の翼を広げて飛ぶことができそうです。旅心を持って上昇気流に乗って飛び出し、はるかな雪の鳥海山を見つめたことでしょう。各山域に棲息している鳥たちとの交流もあったかもしれません。このように想像を膨らませながら思索に浸っていると、時間を忘れてしまいます。
山頂での時間に浸りつくした後、下山を開始します。途中、夕日が摩耶山の西斜面に当たり、赤く際立っていました。やや暗くなりつつある山道を丁寧に下り、一日の山に感謝してハイキングを終えました。下山する頃は、気温が下がる時間帯でしたが、山での充足感のためか、心の中はあたたかい気持ちであふれていました。
摩耶山の標高は高くありませんが、12月初めに登る場合には、スノーシューかチェーンスパイクなどの雪対策と、防寒準備が必要です。また日が短いのでヘッドランプも必携です。
MAP&DATA
コースタイム:越沢登山口~初心者コース~追分の分岐~摩耶山~追分の分岐~越沢登山口:約5時間10分
プロフィール
斎藤政広(さいとう・まさひろ)
横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。
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