登山の原則「早出早着」の本当の意味

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「早出早着」って言葉を知っていますか?

読んで字のごとく、朝早く出発して午後の早くに到着するということです。呪文のようなこの言葉は登山の基本でもあり少しでも山の危険リスクを減らすためにも重要なことなのです。特に夏山では午前中は晴れていても午後から夕方にかけてにわか雨や雷雨が必ずといっていいほどあります。その前に予定した山小屋やキャンプ地に到着しておくことは少しでも山の危険リスクを減らすことにつながるのです。

それではどんなリスクがあるかいくつか例を挙げて説明したいと思います。

雷に遭遇してしまったら

まずは雷というリスクです。高山で雷に遭った時は逃げ場がないだけではなく、雷は上から下に落ちてくるだけではありません。自分の経験ですが、北アルプスの北鎌尾根を登攀中に雲行きが怪しくなり、ゴロゴロという音がして怖いなと思っていた矢先、目の前を下方から上に向かって光が走りました。生きた心地がしませんでした。その後、登攀具類を全て外し、ザックを外し、地面に突っ伏した覚えがあります。雷は金属に落ちやすいのではなく、周りから少しでも高く飛び出たものに落雷する可能性がより高いと言われています。地面に寝てしまうのも付近に落雷があった場合、地面を伝って人間に通電してしまう危険もあり、しゃがみこんで身を低くします。1967年8月に北アルプスの西穂高岳の独標付近で学校登山中の高校生11名が亡くなるという痛ましい落雷事故がありました。

夏山でも低体温症が起こります

次に低体温症のリスクです。高山での衣服の濡れはたとえ真夏であっても低体温症になる可能性があります。低体温症は外的要因によって体の中心の体温が35度以下になってしまうことですが、大きな要因は「疲労」と「風」と言われています。これに「濡れ」が加わるとあっという間に体温は下がってしまいます。2009年7月に北海道のトムラウシ山で低体温症により9名の登山者が亡くなりました。最初は体がブルブル震え、自分の体温を上げるために熱産生が行われますがその限界を超えてしまうと低体温症はあっという間に進行し、行動不能となり、生命の危険の恐れがあります。山の上は思った以上に寒いのです!100m高度が上がるごとに平均0.6度下がるという指標は知られていますが下界では30度以上の暑さでもあっても、3000メートルの稜線では12度しかないのです。これで雨や風にさらされると・・・もうお分かりですよね。

余裕を持った行動を心がけよう

それともうひとつ、朝早く出発するということは余裕を持った行動が出来、何か不測の事態が起こったときにもその日に対応することがより可能になります。時間の余裕が安心感につながり、余裕を持った行動ができるのです。もちろん、「安全に」という意識を持つことが一番大切ですよ。また、日の出前や午後遅くから日没後まで行動することは足元が見えづらくなり、ちょっとしたつまづきが転落や滑落につながります。日中であれば何でもないようなところで道に迷ったりするリスクも高まります。特に天候が悪い中の日没後の行動はビバーク装備やテント装備を持っていない場合、生命の危険にさられることになります。たとえ、日帰り山行や山小屋泊であってもザックの中にツエルト(簡易テント)を忘れずに! また最近、真夜中に行動する方もいらっしゃいますが、滑落、転落や道迷いなどのリスクも高く、きちんと登山のステップを踏んでいろいろご経験された上での挑戦をおすすめします。

早出して早めに着いた山小屋やキャンプ地で過ごす、ゆったりとした山の時間もいいものですよ。山を飽きるまで眺めるのもいいですし、出会う山仲間との語らいもまたいいものです! 計画は急がず、欲張らず、山を楽しみましょう。

プロフィール

高柳 昌央

登山ガイド資格を持つサラリーマン。北海道への移住をめざして活動中。植村直己帯広野外学校所属で北海道山岳ガイド協会会員。ひたすら長い距離をとにかく歩くのが好き。今年の夏は縦走にチャレンジです! ロングトレイルにも興味を持っています。

山で必ず役立つ! 登山知識の処方箋

山に待ち受ける、大小さまざまなリスクから回避するには? 確かな知識を持った登山のセンパイや、登山ガイドたちが、さまざまな対処法を教えます!

編集部おすすめ記事