南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く③ 歩き遍路の難所について

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月に渡って通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明 カバー写真=横峰寺道

遍路道の難所と「遍路ころがし」

かつての遍路道には、高度差の大きい峠を越える区間や高所にある山寺の登拝道、そして岩礁の海岸線など、いわゆる「難所」があった。なかには、前回のコラムで写真掲載した八坂八浜の岩礁の海岸線など旧遍路道として残っていて歩ける箇所もあるが、現在ではほとんどの場所で国道や県道あるいはトンネルが建設されていて、そちらを選べば通過に困難な箇所はない。一方、峠越えや山寺では、歩き遍路であれば通らなければならない区間が数多く残っている。峠越え・山寺への登拝道のなかには、遍路が転がって落ちるほど厳しい道ということから、「遍路ころがし」と呼ばれている区間がある。以下に、この遍路ころがし、および遍路宿の間隔が離れていて一日で歩くのが大変な区間も含めて、筆者が難所と思っている主な区間を挙げてみる。

 ・徳島県 第十二番焼山寺(しょうざんじ)越え
 ・徳島県 第二十番鶴林寺(かくりんじ)・第二十一番太龍寺(たいりゅうじ)から第二十二番平等寺(びょうどうじ)まで
 ・高知県 土佐清水・竜串(たつくし)から大月町まで海岸沿いの大月遍路道
 ・愛媛県 第四十番観自在寺(かんじざいじ)から灘道を通り宇和島まで
 ・愛媛県 久万(くま)高原から三坂峠を越え麓の第四十六番浄瑠璃寺まで

上記のうち、焼山寺、鶴林寺、太龍寺は「遍路ころがし」と呼ばれる区間。なお鶴林寺と太龍寺は遍路ころがしとして別々に名前が付いているが、現在は1日でつなげて歩くのが一般的になっている。遍路ころがしには上述3カ所以外にも、第六十番横峰(よこみね)寺、第六十六番雲辺(うんぺん)寺、第八十一番白峯(しろみね)寺への道などがある。これらの区間を乗り切るには、前日に起点付近まで着いていなければならず、どれくらい時間がかかるのかを事前に把握し、計画しておくことが必要である。本コラム最後で一覧にまとめているので参考にしてほしい。

ここで、筆者が特に歩ききるのが大変だと思う区間から、2つをピックアップして以下に紹介する。

〉焼山寺道の石畳
焼山寺道の石畳

焼山寺越え

焼山寺道は最も厳しい遍路ころがしといわれていて、第十一番藤井寺から第十二番焼山寺までの区間である。そして焼山寺にお参りした後、さらに鍋岩まで下る。全長約14.7km、登り累積標高約1520m、下り累積標高約1320mある。健脚者で4時間、一般的には6時間程度、ゆっくりペースだと8時間はかかり、6割以上がここで断念するともいわれている有名な遍路ころがしだ。歩き遍路にとって初めての厳しい試練の道といえるだろう。

⇒ヤマタイムで焼山寺道の地図を見る

〉焼山寺道全体図
焼山寺道全体図
〉焼山寺道を高低差をグラフで見ると、アップダウンが激しい
焼山寺道の高低差をグラフで見ると、アップダウンが激しい

焼山寺道は首都圏の登山コースで例えると、高尾山口から入山し、高尾山から陣馬山まで巻道を使わず忠実に尾根を歩き、和田バス停に下るコースに相当する厳しい道だ。実際、筆者が焼山寺道から下った鍋岩の宿で、日もとっぷり暮れ夕食を終えてくつろいでいる時刻に、「ようやく焼山寺に着いたが、なんとか泊めて欲しい」と、山での救助要請のような電話がかかって来て、遍路宿のご主人が車で迎えに出たことがあった。遍路道の山道区間は、道標が少なくルートが不明瞭な箇所もあるので、夕方以降の通過は避けるべきである。

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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。

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