南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く② 歩き遍路の計画と装備など

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弘法大師空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月に渡って通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

文・写真=岸田 明、カバー写真=室戸岬の直前にある純白の修行大師像。遠くから確認でき、あたかも遍路に対する灯台のようだ

遍路道を歩くにあたって

八十八霊場、全行程1200km以上に及ぶ遍路道。歩ききるのには、およそ40日から60日程度を要する。登山とは違って、遍路道の大半は車道歩きだ。車道歩きというと排気ガスの充満する国道をひたすら歩くようなイメージが思い浮かぶかもしれないが、じつは旧道や景色のよい田舎道を歩くことが多い。とはいえ普段山歩きに親しむ方にとってはアスファルト道は非常につらく、慣れるのに1週間程度はかかるだろう。

ちなみに、遍路道には場所によって新道と旧道など複数本ある場合があるが、新道はトンネル歩きなどを強いられることが多い。可能な限り峠越えの旧遍路道や旧道を歩くことをおすすめする。筆者の場合、山道に入ると足が喜んでスイスイ登れた記憶がある。

〉徳島県・牟岐(むぎ)の先にある「八坂八浜」と呼ばれる難所。旧遍路道にある
徳島県・牟岐(むぎ)の先にある「八坂八浜」と呼ばれる難所。旧遍路道にある

遍路の各所には立て札、看板やシールなどが貼ってあるが、決して充分ではなく、迷うことが多々ある。特に市街地と、霊場を出た後は注意が必要だ。ある遍路小屋のご主人から聞いた話では「昔の遍路道にこだわる必要はなく、あなたの歩いた道が遍路道だ。」ともいわれているそうだ。道に迷うこと自体も、修行の一部なのかもしれない。

ただし、くれぐれもオリエンテーリングのような歩き方はしないで、歩いている遍路道周辺の風物を味わうことに注力したい。畑や果樹園の脇を通る田舎道、草花や木に囲まれながらの峠越え、波を避けながら歩く荒磯など、さまざまな表情を見せる遍路道の風景――。また「お接待」と呼ばれる地元の方々から差し入れをいただき、会話をかわしたりなどの交流も、遍路歩きの醍醐味のひとつである。もし完全に現在位置を失った場合は、電波の入る場所であればスマートフォンの「ヤマタイム」地図画面上で現在位置や遍路道を確認できるので、活用いただきたい。

〉スマートフォンでは「ヤマタイム」地図画面で、現在地を確認できる(※現在位置表示の機能があるのはスマートフォン用画面のみ)
スマートフォンでは「ヤマタイム」地図画面で、現在地を確認できる(※現在位置表示の機能があるのはスマートフォン用画面のみ)

⇒ヤマタイムで第一番霊山寺地図を見る

歩く時期としては、気候のよい春・秋がベストシーズンであることは間違いない。汗をかかずに快適に歩ける冬も決してわるくないが、冬のみぞれの中の歩行はかなり厳しいので、覚悟が必要だ。

〉第三十九番延光寺付近の旧道沿いにある菜の花畑
第三十九番延光寺付近の旧道沿いにある菜の花畑

八十八霊場の参拝順序

遍路で霊場に参拝することを、「打つ」という。かつて遍路たちが自分の名を書いた板を霊場の柱に打ち付けたことに由来するといわれている。そしてその打ち方だが、全八十八霊場を一気に歩ききることを「通し打ち」、何区間かに分けて歩くことを「区切り打ち」という。大半の遍路は一番から時計回りの「順打ち」で歩くが、本来順序に定めはなく、順番を無視して歩く「乱打ち」でもよい。そして逆回りは「逆打ち」といい、ご利益が3倍になるといわれている。ちなみに2024年はうるう年だが、うるう年の逆打ちはご利益がさらに倍になるとか。しかし逆打ちは標識などが少なく非常に難しいため、歩く遍路は多くない。

最後に第八十八番の大窪寺に参拝して、結願(けちがん)となる。一周して第一番の霊山寺に戻ることを満願と呼ぶが、必須ではない。それよりも弘法大師への結願報告で、高野山に参拝することの方が重要だといわれている。

〉結願の霊場、第八十八番大窪寺
結願の霊場、第八十八番大窪寺

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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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