2023−24年シーズンの雪山遭難、件数は前年並み。BCや初級ルート、雪崩遭難多く

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2023-24年の雪山シーズンはほぼコロナ前の状況に戻ったが、山岳遭難も同様だ。シーズン中の雪山遭難の概況を振り返ってみよう。

文・写真=野村 仁、イメージ写真=蔵王・熊野岳へのルート。視界の悪いなか多くの登山者が往来する

雪山遭難は前年並みだが・・・

今年の雪山シーズンはほぼ終了しました。遭難が多いように感じましたが、遭難発生数などは昨年と同程度でした[表1]。登山界では、コロナ禍の影響は昨シーズンにすでに脱却していて、今シーズンも同じような雪山登山動向だったと考えられます。

そのなかで多数の遭難事故が発生しています。特徴は次のとおりです。

  1. バックカントリー遭難が多い
  2. 初級ルートでの雪山遭難が多い
  3. 中~上級ルートは死亡遭難事故も多い
  4. 雪崩遭難が多発

[表1]

雪山遭難発生数調べ

(1)バックカントリー遭難が多い

「バックカントリー」とは、自然の雪山に登って、下りは主にスキーやスノーボードで滑走することで、雪山登山のジャンルの一つです。バックカントリー遭難は、12月後半のスキーシーズンと同時に始まり、1~2月を通じて多発しました。発生山域は北海道、新潟、長野に集中しています。

マスコミなどで報道されるバックカントリーの遭難事例には、スキー場を滑るスキーヤーが管理区域外の雪山に進入して遭難してしまうケースが多数含まれています。この種の事例では、①道に迷ってスキー場に戻れなくなる、②悪天候や多量の積雪などで動けなくなる、③滑走中に立ち木に衝突し負傷して動けなくなる、という遭難事例が目立ちます。これらは、バックカントリーの正しい装備や知識・技術があれば防げるものが少なくありません。

本来のバックカントリー遭難は、雪崩、道迷い(ルートロスト)、滑落が代表的です。雪崩遭難については後述しますが、今年の1~2月には比較的少なく、3月になって多発しました。滑落による死亡事故は利尻山(2/5)で起こっていますが、バックカントリーでの滑落死亡は珍しいです。道迷い遭難も多いですが、ほとんどが無事救出されています。

バックカントリー遭難の問題点は、Ⓐ装備・技術が不充分な人の遭難と、Ⓑ雪崩遭難の2つだと思います。

(2)初級ルートでの雪山遭難が多い

遭難発生数の全体を見渡すと、バックカントリー遭難と雪山登山遭難がだいたい1対1の割合で発生しています。雪山登山遭難は、リスクの高い中・上級ルートに挑戦しての遭難よりも、初級雪山ルートでの発生が多かったです。いくつか紹介してみましょう。

  • 12月30日 奥多摩・鹿倉山
    女性(56)が行方不明、3日後に滑落した遺体発見
  • 1月14日 赤城・黒檜山
    女性(66)が雪で足を滑らせ転倒、右脚骨折
  • 2月4日 弥彦山
    男性(64)が登山道から約50m下へ滑落して死亡
  • 2月8日 蔵王・熊野岳
    樹氷見学ツアー参加中の女性2人(80・77)が体調不良のため行動不能
  • 2月10日 八ヶ岳・天狗岳
    男性(41)、男性(59)がそれぞれ道迷い遭難。どちらも黒百合平へ下山中
赤城山は首都圏の代表的な初級雪山
赤城山は首都圏の代表的な初級雪山。黒檜山上部は短いが急登になる

(3)中・上級ルートは死亡遭難事故も多い

発生数としては初級レベルの遭難が多い一方で、中・上級ルートになると死亡・行方不明の事例も多くなっています。3月には木曽駒ヶ岳周辺での遭難が多発しましたが、千畳敷から木曽駒ヶ岳登頂の雪山ルートは、中級と考えたほうが適切でしょう[表2]

※追記 本稿執筆後、木曽駒ヶ岳周辺で行方不明になっていた男性2人が発見されました。46歳男性は宝剣岳西方の沢の標高2300m付近で、20歳男性は空木岳池山尾根の標高2000m付近で発見され、いずれも4月13日に遺体が収容されました。遭難状況などは調査中で公表されていません。

木曽駒ヶ岳・中岳から乗越浄土にかけては視界が悪いと迷いやすい
木曽駒ヶ岳・中岳から乗越浄土にかけては視界が悪いと迷いやすい。下山時は特に要注意
  • 1月2日 大峰・釈迦ヶ岳
    男性(56)が長期縦走中に行方不明、のち遺体発見(死因不明)
  • 1月5日 北ア・ロバの耳
    男性(36)が雪上を300m滑落して重傷、滑落死は避けられた
  • 1月15日 八ヶ岳・赤岳
    男性(49)が下山中に行方不明、のち滑落した遺体で発見
  • 1月16日 富士山
    男性(53)が単独で1/13に入山したまま行方不明
  • 1月27日 北ア・西穂高岳
    女性(34)がはぐれて行方不明となり、のち遺体発見
  • 2月7日 岩手山
    男性(64)が滑落して救助を待つ間、低体温症により死亡
  • 2月11日 北ア・涸沢岳
    男女(58・54)が蒲田富士のテントを出発したまま行方不明
  • 2月23日 谷川岳天神尾根
    男性(67)が先行下山中に姿が見えなくなり、のち遺体発見
  • 3月11日 中ア・木曽駒ヶ岳
    男性(59)が入山後行方不明。16日後に滑落した遺体発見
谷川岳で事故のあった天神尾根「天狗の溜まり場」
谷川岳で事故のあった天神尾根「天狗の溜まり場」

(4)雪崩遭難が多発

今年は雪崩遭難が多かった印象がありますが、私の収集したデータを調べてみると昨年とほぼ同数でした(昨年のほうが1件多い)。マスコミ報道の大きさ、多さから受ける印象の差なのでしょう。

特に3月第1週(3月2~3日)には北海道の利尻山と東狩場山、北アルプスの風吹岳と遠見尾根、鳥取県の大山で、同一気象条件による雪崩遭難事故が5件発生しました。計16人が巻き込まれて、死亡4人、重傷または軽傷5人、7人は埋没しながら無傷で救出されました。

今年の3月は特に雪崩遭難が多く、第2週以後にも羊蹄山(男女2人死亡)、イワオヌプリ(男性重傷)、北ア・小日向山(男性重傷)で発生しました[表2]。また、1月には羊蹄山(男性重傷)、北ア・硫黄尾根(男性死亡)、北ア・八方尾根(男性死亡)、2月には東狩場山(男性重傷)、妙高・前山(男性重傷)、妙高・三田原山(男性死亡)で発生しました。

雪崩遭難については、多くの事例について、遭難事故経過やデータが調査されたり、発表されたりしています。それらを学ぶことによって、雪崩事故を避けるための知識や直感力を身につけることができると思います。

大山北面でトレーニングする登山パーティ
大山北面でトレーニングする登山パーティ。雪崩地形が広がっている

[表2]

2024年3月に発生した雪崩遭難/3月に木曽駒ヶ岳で発生した雪山遭難

プロフィール

野村仁(のむら・ひとし)

山岳ライター。1954年秋田県生まれ。雑誌『山と溪谷』で「アクシデント」のページを毎号担当。また、丹沢、奥多摩などの人気登山エリアの遭難発生地点をマップに落とし込んだ企画を手がけるなど、山岳遭難の定点観測を続けている。

山岳遭難ファイル

多発傾向が続く山岳遭難。全国の山で起きる事故をモニターし、さまざまな事例から予防・リスク回避について考えます。

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