地方移住のいちばんのハードル? 地方の住宅事情と住まい探しのポイントを教えます

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文・写真=鈴木俊輔

移住希望者のニーズが高い、中古の戸建て物件の探し方

信州でもようやく桜の花が咲き、庭ではウグイスが「ホーホケキョ」と春を告げています。今冬はそれほど寒くはなかったものの、3月の下旬まで雪が降るなど長い冬でした。その分、まきストーブの出番も多く、「これだけあれば余裕」と高をくくっていたまきのストックも残りわずかに・・・。私はまだ冬眠モードなのですが、来季の冬に向けて、これからコツコツとまき作りに励みます。

さて、今回のテーマは「住まい探し」について。前回の記事で、「住まい探しと仕事探しは、地方移住に当たってのいちばんのハードル」と書きました。この2つは移住相談を受けていても特に聞かれることの多いテーマです。住まい探しといっても、賃貸か売買か、戸建てか集合住宅か、中古か新築かなど、さまざまですね。住まい探しのテーマだけでもコラム連載ができるほど奥が深い分野ですが、今回は、特に移住希望者の関心が高い「中古の戸建て物件」の探し方を中心に書きます。

大天井岳と有明山を背景に咲く桜
大天井岳と有明山を背景に咲く桜

「空き家はあるが住めない問題」。地方の住宅事情

地方の住宅事情を語る上で、触れておかなければならないのが「空き家の問題」です。総務省統計局による「平成30年住宅・土地統計調査」では、1998年から2018年にかけて空き家数は576万戸から849万戸に増加し、20年間で約1.5倍になっています。

全国的に空き家が増える背景には、住んでいた人が高齢になって老人ホームに入ったり、子ども宅などに転居したりといった理由があります。空き家の増加がなぜ問題かというと、所有者による管理が疎かになり、ごみの不法投棄や家屋の倒壊などで、近隣の住民にも影響を及ぼすからです。

ここまでくると、もはや「負動産」。「そうなる前に売ったり貸したりすればよいのでは?」と思いますが、そうできない理由があるようです。国土交通省が行なった「令和元年空き家所有者実態調査」では、空き家にしておく理由を次のように回答しています。

  • 「物置として必要」60.3%
  • 「解体費用をかけたくない」46.9%
  • 「さら地にしても使い道がない」36.7%
  • 「好きなときに利用や処分ができなくなる」33.8%
  • 「住宅の質の低さ(古い、狭いなど)」33.2%
  • 「将来 自分や親族が使うかもしれない」33.1%

これらの理由で「物件が動かない」、なるほど「不動産」です。一方で、地方への移住を考える人において中古物件の需要はとても高く、ここに需要と供給のアンバランスが生じています。それでも、空き家を借りる・購入するにはどうしたらよいのでしょうか。

長野県の空き家率は19.5%(総務省統計局 平成30年住宅・土地統計調査)
長野県の空き家率は19.5%(総務省統計局 平成30年住宅・土地統計調査)

「空き家バンク」をこまめにチェック

「空き家バンク」をご存じですか? これは、空き家物件情報を地方公共団体のホームページ上などで提供する仕組みのこと。運営しているのは、多くの場合が自治体(役場や市役所)の職員で、移住希望者向けの物件情報を集めて公開しています。

実際に物件を探すには、移住を考えている市町村のホームページにアクセスします。そこに、いま登録されている賃貸または売買物件が載っていて、物件の外観や内観の写真、間取り、築年数や価格などの詳細を確認できます。

気になる物件が見つかったら、役場や市役所の移住係に問い合わせてみましょう。電話で詳しく話を聞いたり、実際に現地に行って内見したりできます。登録物件は流動的なので、こまめにチェックするのがおすすめ。「先週見つけた物件が、今日見たらもう無くなっていた・・・」ということもあります。

また、物件は空き家バンクだけでなく、地域の不動産屋のホームページなどにも載っています。ポイントは、アンテナを高く張って、こまめにホームページをチェックして、気になる物件が見つかったらすぐに問い合わせる、ということです。

役場の移住相談窓口。移住に関する資料も置かれている
役場の移住相談窓口。移住に関する資料も置かれている

価格ばかりに気を取られない

長年、物件を探しているけれど見つからないということもあります。例えば、「築20年以内の平屋で、家庭菜園ができる庭付き。街中からはそれほど離れていないが静かな場所がいい。日当たり良好で、欲を言えば、まきストーブ付き・・・」。このように条件を限定するとなかなか見つからないかもしれません。

タイミングよく理想の物件が見つかれば最高ですが、優先順位を付けて探すことも大切。「ここだけは譲れない」「ここは妥協できる」という点を整理しましょう。例えば、街中から離れていても庭が広い家に住みたいとか、築年数は多少古くても日当たりの良い家に住みたい・・・など。注意したいのは、物件の価格ばかりに気を取られないこと。たとえ数百万円で購入できる物件であっても、床が沈んでいる、雨漏りがする、お風呂が壊れていて使えないなどの問題があれば、改修工事にさらに数百万円かかる可能性があります。物件の状態をよく確認して決めたいものです。

また、多くの市町村が移住者向けの住宅補助金などの支援を行なっていて、「わが村は!」「わが町は!」とばかりに自治体間でデッドヒートが繰り広げられています。なかには、数百万円の補助を行なっている自治体も。移住には何かとお金がかかるので、補助金があれば助かりますが、あくまで一時的なもの。本当に住みたい場所を選んで、「補助金がもらえればラッキー」というくらいに考えましょう。

できることはDIYで改修費用を抑えられる
できることはDIYで改修費用を抑えられる

ネット上の情報だけが全てではない

物件は空き家バンクや不動産屋のサイトに載っているものだけが全てではありません。現地の人とのつながりで物件が見つかることもあります。かくいう私もそのパターン。

私は池田町の地域おこし協力隊員として移住したのですが、その際に「室内で犬を飼える家に住みたいです」と役場の職員の方に相談しました。すると、「よし、まかしとき!」と、いろいろな伝で空き家を探していただき、ありがたいことにちょうど良い物件(築年数は私と同齢)を借りることができました。

その後、地域おこし協力隊の任期終了と同時に家を購入。冬の寒さがこたえたので、リフォームして断熱サッシやまきストーブを設置し、細かなところにも手を加えながら住み続けています。都会にいるとイメージしにくいのですが、地方では人とのつながりから物事が展開することがとても多い。移住候補地のカフェやゲストハウスのオーナーなどに話を聞いてみると、何か情報が得られるかもしれません。場合によっては、一度アパートや公営住宅などに引っ越し、現地に住みながら物件を探すのも手です。

自宅のまきストーブ。寒冷地では、暖房設備や家の断熱性も重要なポイント
自宅のまきストーブ。寒冷地では、暖房設備や家の断熱性も重要なポイント

住める空き家は多くはないかもしれませんが、出会うチャンスはあります。視野を広げて、納得のいく物件を見つけられるとよいですね。次回は、「仕事探しのポイント」について紹介します。

プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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