ヤマビルは、何に反応して集まってくるの? 足音、体温、呼吸――、その真偽は?

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いつの間にか忍び寄り、吸血しているヤマビルは、私たちの何を感知して近寄ってくるのでしょうか? 昔から、ヒルは呼気や体温や足音などを察知して忍び寄ってくる、と言われています。その一つ一つの真偽を確かめてみようと思います。

 

呼気、体温、足音…。ヤマビルが反応するものは何?

まずは、呼気から確かめます。私たちは、飼育ビンでヤマビルを飼育しています。時々空気の入れ替えや湿り気を与えるために、ビンの蓋を開けます。すると、底の方に休んでいたヒルは一斉にビンのふちを登ってきます。

私たちが、息を吹きかけると、狂ったように首を振り回します(私たちは「ヒルダンス」と呼んでいます)。これは私たちの呼気を感知しているのです。

水槽のヒルがヒルダンスをしている


そこで、呼気の中でも二酸化炭素に反応していることを確かめるために、水槽に10匹ヒルを入れて、外からビニルホースを使って炭酸水から出る二酸化炭素を、そっと入れてみます。すると、そのホースの口の方にヒルは首をもたげて、二酸化炭素のやってくる方向を探します。

炭酸水からホースを使って水槽にいれる/右上隅のホースに向ってダンスしている


このように、ヒルは呼気の中の二酸化炭素に敏感に反応していることが分かります。

私たちが山でヒルを捕まえるとき、落ち葉や腐葉土に向かって、息を吹きかけます。すると、その間からひょこひょこヒルは出てきます。

参考までに、ヒルが二酸化炭素を感知できる距離は、約1.5mから2mくらいであると、小泉紀彰氏(東京大学大学院生・当時)が、論文発表しています。*

*参考:「CO2・熱源・振動・寄主の臭いに対するニホンヤマビルの反応」(小泉紀彰 2011年)

 

次に、熱への反応を確かめてみます。衣装ケースの中にヒルを20匹くらい放し、35℃の湯を入れたビンを置いてみます。すると、ヒルは近づいて来て、やがてその場から離れなくなりました。きっと暖かかったからでしょう。

湯を入れたビンを置く実験


このことを野外で確かめようと、500mlのペットポトルに40℃の湯を入れて、私たちのヒル捕り場に置きました。そして、私たちの呼気の影響がないように2m以上離れて観察しました。

湯の入ったペットボトルに集まるヒル。暖かさを感知し、熱源に集まってくる


すると、暖かさを感知したヒルは、2分ほどで熱源の方に集まってきました。

私たちは、いつもヒルを捕る時、ヒルの顔の前にそっと指を差し出します。ヒルは、さっと指に乗り移ります。それをフィルムケースにいれて持ち帰っています。

指に乗るヒル


最後に、ヒルは震動に反応するかについて検証しました。もし、私たちの足音に反応するとしたら、ヒル捕り場に着くまでにヒルは首をもたげて待っているはずですが、そんな場面には出会ったことがありません。みんなで足音高く林道を歩いてみましたが、特に変わった様子はみられず、ヒルは現れません。そこで、ラジコンカーをヒル捕り場で走らせてヒルが出てくるかを確かめました。

ラジコンカーを走らせ、足音(振動)に反応するかを確認


何度もやってみましたが、ヒルは無反応でした。このことから、足音などの震動にはヒルは反応しないということが分かります。

結論として、ヒルは二酸化炭素と熱に反応して集まってくることが分かりました。

以上のことは、2017年9月、三重県の四日市市、菰野町、朝日町、川越町の1市3町で組織する三泗教育発表振興会の科学研究発表において、「吸血鬼ヤマビルの正体は」というテーマで発表しました。

 

体に付いたヒルはどうやって吸血するか?

体に付いたヒルは、その後どうするのでしょうか?

皮膚についたからといって、ヒルは、すぐ吸血するわけではありません。吸血できる場所を探し回ります。よく見ていると、太い血管の近くで吸血を開始します。

しかし足の裏とか手のひらは、吸血されません。それは、皮膚が厚く、少々傷つけても血が出てこないからです。

このことから連想すると、シカやイノシシの分厚い皮膚にヒルがついて吸血することは考えられません。

肥満気味の研究員の手首にヒルをつけたところ、吸血できる場所を探して脇まで上って行ったこともありました。

吸血する場を求めて、手首から脇まで移動したヒル


私たちの経験でも、指と指の間の水かき状の所に、ヒルはよく入り込みます。ここは吸いやすく、見つかりにくいことを知っているようです。シカの蹄の間にも同じような場所があって、ヒルが繰り返し吸血することが知られています。

 

 

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少しずつ、ヤマビルの生態がわかってきたのではないでしょうか? 次回は、ヤマビルのお腹の中はどうなっているの? をテーマに、子どもたちが実験した結果をご紹介したいと思います。

プロフィール

子どもヤマビル研究会

「子どもヤマビル研究会」は、三重県の鈴鹿山脈の麓で、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している団体です。自然や生き物が大好きな小・中学生数名が集まり、身近な自然を観察し、そのしくみを解き明かしていく中で科学する心を身に付け、将来の科学者を志す子を育てたい、身近にいるヤマビルを使って、科学の手法を会得し、自然の不思議さ、偉大さやを理解して、自然に対する畏敬の念を育んでもらいたいという、子ども主体のとてもユニークな研究団体です。

活動はブログでも公開しています ⇒子どもヤマビル研究会

活動が書籍になりました ⇒『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』

「子どもヤマビル研究会」によるヒルの生態研究

「子どもヤマビル研究会」は、自然や生き物が大好きな小中学生数名が集まって、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している。 登山者にとっては、苦手、嫌い、気持ち悪い「ヤマビル」でも、その生態を知れば、苦手意識が減り、いざという時にも冷静に対処できるのでは、という思いから、これまで研究してきた成果を伝えていく。

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