行程・コース
天候
霧、雨のち晴れ
登山口へのアクセス
マイカー
その他:
北陸道立山ICから約20㎞強で馬場島駐車場へ。カーナビには登山の起点となる温泉&山小屋の「馬場島荘」をセットするとよい。馬場島荘の前の駐車場は宿泊客もあって常にいっぱい。300mほど手前にある未舗装の無料駐車場(中山登山口駐車場)に停めるとよい。
この登山記録の行程
中山登山口駐車場(01:25)・・・馬場島・・・石碑「試練と憧れ」(01:36)・・・松尾奥ノ平(04:51)・・・三角点・・・標高2,000m(05:02)・・・早月小屋(05:47)・・・2、800m(08:27)・・・剱岳(09:38)(休憩~10:31)・・・早月小屋(13:30)(休憩~14:15)・・・三角点・・・松尾奥ノ平・・・標高1,400m(15:57)・・・石碑「試練と憧れ」(17:29)・・・馬場島(17:45)・・・中山登山口駐車場(17:49)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
待ちにまった 8月11日 。山の日のこの日、2年ぶりのTJARが開催される。日本海は富山の魚津からスタートして、太平洋側は静岡の大浜海岸までを一気に走り抜ける。その間、北アルプス、中央アルプス、そして南アルプスを縦走する。その距離、約415Km。累積標高差 約27,000mにも及ぶ日本一過酷と呼ばれる山岳レースだ。先輩の某選手は2年前に念願の出場を果たしたものの最後の最後で涙のタイムアウトとなった。その後、密かに再戦を誓いトレーニングに励みながら、難関の本戦に今回もたどり着くことができた。TJARに参加する資格を得るだけでも実は十分凄いことなのに本当にその信念には感服する。
単純に応援に行くだけでは勿体無いので、前回同様、応援登山と称して、炎天下の山を走り抜ける選手の気持ちを少しでも体験すべく、今回も企画「試練と憧れTJAR2018応援ツアー」を立ち上げた。ターゲットはTJARコース上の最初の難関となる劔岳。北アルプス三大急登の早月尾根を日帰りで登り、夕方には会場に入り応援をするスケジュール。
8月10日(金)。仕事を終えて脇目も振らず帰宅する。準備を整えて、一緒に行く仲間を待つ。21時過ぎに出発。相変わらず睡眠なしの弾丸登山。だが、早月尾根の往復ともなると真夜中から登り、太陽が昇る前に高度をあげておく必要がある。早めの出発に越したことはない。
立山ICで高速を降り、登山口の馬場島へと向かう。山に近づくにつれ道は細くなり蛇行する。TJARの開会式は21時。その後、出発の準備をして0時ちょうどにスタートとなる。選手たちは、早月川河口(ミラージュランド脇の海岸)からスタートし、このアスファルトの道を真夜中のマラソン大会よろしく馬場島を目指して走ってくる。よくこんな暗い道を走るもんだと思う。それだけでもこのレースの常識の枠を超えた度合いと過酷さが伺える。
突然、目の前に大きなカモシカが飛び出して来た。危うく轢きそうになる。馬場島荘の駐車場は想像通りいっぱいだったので300mほど手前の無料駐車場に車を停める。時間は1時。
休む時間もなく、早速、ヘッドライトを点けて歩き出す。天気予報では明け方に雨マークがついていた。全体的にあまり良くない。夜と言うのに気温と湿度が異常に高く、湿気がムッと纏わりついてきて、まるで水の中を歩いているような感じだった。
1時36分。ついに有名な石碑の前に立つ。「試練と憧れ」。一体、何人の登山者がこの言葉に憧れてこの地に立ったことか。しかし、憧れの文字の前には試練とある。ここから始まる過酷さに果たして耐えられるのか?!と問われているよう。恐れとそれを上回る好奇心がフツフツと湧き上がってくる。これ以上、心を鷲掴みにするシビれる言葉はないと思う。
登山道はその奥にある。仲間と顔を見合わせて、いざ出発。いきなりの階段から始まる。周囲は深い闇。見えるのは自分の足元だけ。登ってものぼっても平地にならない。慣れた山ならまだしも、足元しか見えない状況で延々と急登を登るのはとても辛い。加えてため息つきたくなるような暑さと嫌らしい湿度。もうこれは苦行以外のなにものでもない。しかし、今から約24時間後、選手たちも同じような条件の中でさらに速いスピードでこの道を駆け上がって行くのだと想像すると、弱音は吐けない。凄いの一言。
時々、ライトに照らされて巨木が浮かび上がる。立山杉と呼ばれる巨木だ。どれも特徴的な姿をしていて存在感がある。
終わらない坂道を登っているような気がして、気が遠くなって来た頃、ようやく空が明るくなって来た。周辺が見えると元気も出てくる。歩く足にも力が入るが、その気力も突然降り出した雨に一気に削ぎ落とされてしまう。ちょうど6時。最近の天気予報はなんと正確なことか。ドンピシャだ。久しぶりのレインウエアーを着込んでの登山となる。強い雨ではないが、冷たい雨で身体の体温が奪われて行く。指先が辛いほど寒い雨なんて、ちょっと想定していなかった。
ようやく早月小屋に到着。軒先で暫し雨宿りをさせてもらう。止む気配はないが、天気予報の情報では長い雨ではなさそうなので、先へ進むことにする。小屋から先は、徐々に岩場が増えてくる。ザレた場所もあるので落石をさせないよう慎重に登らないといけない。ただ、岩場には高山植物も姿を現し、時折、ホッと目を楽しませてくれる。
小屋から山頂までは標準コースタイムで3時間。距離は長くはないが、その分、速度が出せない。それだけ岩場がキツイと言う証。ここから滑落したら確実に死ぬなというようポイントをいくつか通り過ぎ、ようやく早月尾根名物のカニのハサミにやって来た。大きな岩の横方向に太い鎖が打ち込まれている。なんでも、別山尾根側から 見るとカニのハサミのような形状をした 岩峰地帯と言うのが名の由来らしい。大きな岩に打ち込まれた太い鎖が、命綱の代わり。横一直線上に岩を巻いたり、垂直によじ登ったりが連続する。さすが剱岳。
雨はいつしか止んでいたが、鎖はまだ濡れていて滑りやすい。緊張しながらも、変化のあるアスレチックなコースにワクワクしながら突入する。横に、縦にと激しいコースを登って行く。縦の鎖を掴んで大きな岩壁を登ろうと見上げた時。心なしか空が明るいと思った瞬間、サーっとカーテンを引くようにガスが晴れていった。本当に一瞬の出来事。振り向くと荒々しい山肌を持った峰々が雲海の中に出現している。頂の方も青空に包まれている。半分以上、諦め掛けていただけに、思わぬ神様からの最高の褒美だ。
仲間からも「おおっ」と感動の声が上がる。常に素晴らしい眺望の中、登っていけるに越したことはないが、苦労に苦労をして、ドン底のマイナス状態から一気にプラスに転じた時の感動の振れ幅は言葉に表せない感動がある。これぞ山の醍醐味。だから山はやめられない。
せっかくなので苦労を共にした仲間とタイミングを合わせ、列になって同時に山頂を踏む。
歩いて来た長い尾根が見下ろせる。遠くまで真っ白な雲の海が広がっている。空には夏の青い空。残念ながら多くの山々はまだ雲の中にあって、全ての姿を確認することはできなかったが、それでも時折、立山方面は雲の合間から確認することができた。
刻一刻と変化する眺望にいつまでも眺めていたかったが、今日の最終目的はTJARの応援ということで、長いながい下山の途に就く。
下山後、「試練と憧れ」の石碑の前に立つ。出発時、暗闇の中で照らした文字と同じ文字なのに、違った意味を投げかけている様にも見える。天候が悪かったにも関わらず4L近くの水を消費し、予定以上の時間をかけた登山となったが、疲れよりもやり切った達成感があった。
「満天の湯 魚津店」で汗を流し、TJARの会場となるミラージュランドへ向かう。
既に開会式を前に、各選手やその選手を囲む応援者で賑わっていた。先輩に挨拶をして激励とレース中の安全を願う。レストルームで名物の無料コーヒーを頂き、スタートを待つ。
午前0時、30分前。ミラージュランド脇の海岸に場所を移し、スタートを待つ。各選手、波打ち際に行き、海水に手を浸して各々の心にゼロ点と決意を刻む。これもTJAR恒例の風景だ。恒例と言えば、本にも記載されるほど、スタートの際には、カメラのライトアップで息ができない程、虫が乱舞する光景が有名だが、今日は午前中の雨のせいか、ひんやりしていて虫も少ない。
午前0時。選手や応援者、全員でカウントダウンをする。他のレースと違って長丁場のレースなので、スタートと同時に駆けだす選手はなく、両脇に囲む応援者とハイタッチをしながら選手たちが歩き出す。その中に精悍な顔をした先輩を見つける。ギリギリの睡眠で、自分の限界をかけ過酷な自然と向き合うレース。安全にだけは注意して、ぜひ無事にゴールの後に最高の笑顔を見せて欲しいと願った。





































