行程・コース
天候
晴れ、尾根上では風やや強い
登山口へのアクセス
電車
その他:
【行き】池袋駅(西武池袋線)05:00〜小手指、飯能〜06:48西武秩父駅(徒歩)御花畑駅(秩父鉄道)07:18〜07:39三峰口駅(小鹿野町営バス)07:48〜08:10小森バス停
【帰り】日蔭バス停(小鹿野町営バス)18:56~薬師の湯経由~19:26小鹿野町役場(西武観光バス)19:27~20:08西武秩父駅(西武池袋線)20:25~21:46西武池袋駅
この登山記録の行程
08:18~小森バス停
09:10~四阿屋山頂771m(休憩5分)
09:41~739m地点
10:42~986m地点
10:50~鞍部、猟師さんに会う
11:24~1115m峰(両見山あるいは三合落)を巻いてしまう
11:30~ヤセ尾根にかかる
12:05~急降下のヤセ尾根を終える
12:08~鞍部で食事(休憩45分)
13:07~1194m地点
13:35~ヤセ尾根通過
14:56~1199m地点
15:03~下降開始
16:20ごろ~植林帯に出る
16:32~小屋跡?
17:10~みっつ目の小滝を滑り落ちる
17:40~林道に上がる
18:39~日蔭バス停
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
長い稜線の偵察のつもりが、下降路に手こずって遭難し辛くも自力で脱出した失敗山行。山は難しいし、だから楽しい。
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※四阿屋山から先は一般登山道ではありません。道標がなく尾根違いをおこしやすい地形や、ひどくやせた尾根、ザレザレの急な登り降りのオフトレイルを長時間歩くことになります。
※地図は「地理院地図」にすると標高が確認しやすいです。
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【概況】
四阿屋山頂までは地図に記載のある一般登山道を利用した。地理院地図の1115m峰(昭文社地図では両見山・両現山、または三合落 サンゴウツとも)まで難所はないが尾根を間違いやすい。1115m峰を過ぎると急降下を含む長いヤセた尾根、1194m峰と1199m峰の中間にもヤセ尾根があった。
下山ではザレた急斜面の下降に苦労し、林道まで200mを残して小滝の上部で日が暮れてしまった。結果としてヘリも飛ばなかったしヒジとヒザの擦り傷のほか怪我もなかったが、ロシアンルーレットみたいな運まかせのルート選びをしたり、「南無三!」と滝を飛び降りたりするのは遭難のただ中にいたとしか言いようがない。頭に冷水をかけられたような山行経験だったが、周到に準備をしていつかこの尾根を歩ききってみたい。
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【アプローチ~四阿屋山まで】
三峰口駅からの小鹿野町営マイクロバスは台風の災禍によるのだろう、日向大谷 ヒナタオオガイまで行かずに日蔭までの折り返し運行だという。両神山に登るらしいカップルの問い合わせに運転手さんが丁寧に受け答えし、タクシー会社に連絡を取ったりして発車が5分遅れたが、このユルさが良い。こちらの山行計画にも影響があるかもしれないので、車中で地図やスマホアプリを開いてそれなりに忙しく過ごす。昔の仕事の習慣で頭と手、目、耳、口が別々に働く傾向があるものだから、カップルの会話も自然に耳が拾ってしまう。おそらくはじめてのデートが今日の登山だろう。男子のほうが年下ではないか。和やかな気分でバスを降りた。
四阿屋山までは問題のない登山道だが、様々なルートが合わさるためにテープがかえってわずらわしい。50分で山頂771mへ※写真4。頂上直下でソロ男子とすれ違い、頂上ではご夫婦と一緒になった。
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【両見山1115m(あるいは三合落サンゴウツ)まで】
四阿屋山頂からわずかに戻り、西に張り出した辺見尾根を降りはじめる。ずいぶん歩かれているようでトレイルは固く、場所によっては人の多い登山道のように凹んでいる。向きを変える地点で支尾根が多いからたびたびGPSアプリを開いた。
林業の作業道としても使われている様子だ。途中からピンクテープがあらわれるので杣道をたどったが※写真6、尾根上にこだわることなくトラバースしたり巻いたりして効率よく進んでゆく。
10:50、986m地点から鞍部に降ったところで人に会う。はじめ樹間をとおして、オレンジの蛍光ジャケットにキャップの男性が倒木に腰かけてヒザの上になにか置いたのを見たが、近づくと鉄砲だった。「どこから上がって来たの?麓で熊が出るので仲間と手分けして追っているのである。ガサガサいうから来たか!と思った」と、声を落とした地元言葉で話しかけられた。
この話を渓流釣りをながくやっている人にすると、「11月15日が狩猟の解禁日なんだよ。それまでに渓流釣りは禁止になってるんだけど、シーズンを重ねない意味のひとつは事故防止にあるわけ。狩猟ははじまるし熊は冬眠前だし、ヤブ山を歩くのは気をつけたほうが良いよ、この時期は」とのことだった。
浦島の集落から林道を経て沢沿いに鞍部まで上がってくる道があるそうだ。次回の偵察参考に使わせてもらえそうなので、記憶しておく。傍らの祠を写真におさめるのに※写真5猟師さんに背を向けることになるのだが、山中で鉄砲をもった人と二人きり、なにか背中がうすら寒く、ゴルゴ13の気持ちが少しだけわかった気がした。
杣道に導かれるまま歩き、両見山(あるいは三合落サンゴウツ)1115mは南側を巻いて通過してしまう。巻き終わったあたりか・巻く途中だったか、ピンクテープは南の尾根にそれてゆき、まったくのオフトレイルになった。
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【1199m地点(峰)まで】
両見山を過ぎてまもなく見事なヤセ尾根がはじまる※写真12~14。高度感がたっぷりあり、潅木や岩と岩のあいだの土を取り除けばジャンダルムそっくりだ。よくこんなルートを見つけたなあと感心する方向転換や急降下を、わずかな踏み跡をたよりに手を使いながら慎重に降る。通過に30分ほど費やしたようだ。
12:08、ここにも祠がある鞍部に着き、ザックを降ろして休憩する。稜線上は北風が強く、南の斜面のわずかな陽だまりにころあいの石を見つけ、ヤッケを着込み腰掛けておにぎりを食べる。ここで悪い癖が出た。陽を浴びて温まりながらぐずぐずと、なんとなく景色を眺めたり一服したりで45分も過ごしてしまう。歩いたことがなくてもトレイル上ならコースタイムの「計算」ができるが、オフトレイルの稜線を残しているうえに当てずっぽうな尾根を降ろうとしているのだから、計算は成り立たない。長々休みながら頭の片隅で「さっさと動けよ」の声はしているが、もう片方の自分は「まあ急かすなよ。まだ13時前だし」と応えている。結果としてギリギリの状況はこの休憩によって生じていて、リスクは予測可能であり対処もできたはずだ。もしかして無意識に自分を追い込んでいるのかなあ、と下山後の電車のなかで回想し心中を覗き込んでみたが、自分のことながらわからない。
やっと行動を再開し、体をほぐしながら登って1194m峰を通過する。150m南の南峰とあわせて双耳峰の煤ノ山とする記事がある。降って登り返し、地理院地図に崖地の記号が入っているあたりが2回目のヤセ尾根。ここも高度感があったが、距離は短い。
14時ちかくなった。日没の早さを考えればこのへんで切り上げて降りにかかるべきで、ぴったり事前計画のとおりだ。眼の前の1199m峰に登って地形を確認してから降りルートを決めることにし、最後の登りにかかる。
ここまでもヤセ尾根のほかにザレていて手を使う場面はあったが、ここは特に悪かった。頭を出した岩角や立ち木を求めながらザレザレの急斜面を登る途中で左脚がつり、つぎに右脚がつる。立ち木の根元にあがって片足づつ伸ばしてさすり、再び登りはじめるが、まっすぐ登るルートの岩がつかむたびに剥がれ、潅木はウロになっていて簡単に折れる。ルートを見つけようと四苦八苦している最中にまた右脚がつった。これが全然治らない。仕方がないので左脚で登り右脚はついてくるだけ、なんてことをやって150m進むのに50分もかかる。1199m峰に達したときにはすでに15時だった。
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【小滝の上部まで】
1199m峰より数十メートル進んだ地点から東北東に伸びる尾根伝いに下降を開始する。地形図の等高線で見るかぎり300m進んだ次のピークから東北に下ったほうが斜度は緩そうなのだが、時間が押しているし・林道にむかって最短距離なようなので選んでしまった。長々休んだツケがこうしてまわってくる。
最高に悪かった。ザレた急斜面、地面から抜ける岩、ウロの連続に加えて、地形図には載らない数メートルから10メートルの崖にちかい急斜面がある。両手で生きた立ち木につかまり、片脚で次のスタンスを探すあいだに軸足の岩が抜けて急斜面を跳ね飛んでゆく。木にぶらさがりながらの「ローーーック!!」と落石をおこしたコールは、きっと鹿が聞いただろう。
足元が崩れて木にぶらさがったのが2回、生きてはいるが太さが頼りない潅木が折れて片手ホールドになり振られること1回、山側に手をつき地面に靴を蹴り込んでステップをつくりながらトラバース中に3mほどスリップしてなぜか止まったことが1回。ほかにもあったのかもしれない。とにかく、1回目のアクシデントのあとは大声で歌いながら降る。何を歌ったかを記す必要はないと思う。300m進むのに、GPSのログによれば1時間以上かけている。
16時20分、周囲はすでにうす暗い。ここで植林帯に入った※写真19。
まずは助かった、と胸をなでおろす。植林があるなら人が入った証拠だし、杣道が見つかるかもしれない。ただ最近枝打ちされた形跡がないので、ずいぶん昔のことなのかもしれない。広がる暗闇に押されるようにして、周囲の地形に目を配りながら木から木へつたって下降を続ける。地ごしらえされた地面はもはやザレ具合も穏やかになり、等間隔に植えられた木が良いホールドになってくれる。ウロも少ない。
やがて3種類のテープを頻繁に見かけるようになる。白テープはウロに巻いてある。赤は最後まで意味がわからなかった。青は、踏み跡はあったりなかったりだが作業道をあらわしている。イナズマ形に降るUターン場所には木が道を塞ぐように置いてあり、青テープが巻いてある。方向転換すると踏み跡に沿って木が置かれていて、それにも青。ウロを倒して目印にした場合は青と白、両方。よし!このルールを見つけてからは行ったり来たりしながらもどんどん降ってゆくことができた。やがて作業小屋でもあったのだろうか、トタンが散乱した場所にでる※写真20。
「トタン」からも引き続き、ルールに従ってテープがあった。導かれて50m降ると、そこは滝の上部ぢゃないか。滝といっても高さは丹沢の源次郎沢あたりでよく見るようなカワイイやつで、ただしホールドがない。ここを植林作業の男たちが毎日昇り降りしていたとは思えない。ルートをミスしたんだろうと左右に目を配りながらトタンまで戻る。おなじように降るが、また滝の上部にたどりついてしまう。繰り返すうちにわずかな明かりを残していた対岸の尾根にも闇が忍び寄ってくる。最後の2分でヘッドランプをヘルメットにくくりつけ、予備の電池をポケットに入れ、一服する。そして日が暮れた。
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【脱出】
滝の上部、暗闇でヘッドランプの明かりを頼りに滝の様子を確認しながらあれこれ考える。トタンまで戻ってオカンするか。日蔭のバス停の終バスは18時56分だったはずだ。まだ2時間ある。もし地形図のとおりなら林道まであと200m、この滝さえ降りることができればバスに間に合うのではないか。
滝の高さは2mほど。垂直ではなくはじめ急斜面のナメ、垂直部分は1mくらいか。5m先におなじような形状のふたつめの滝も見える。その先の流れが見えるので、こちらも高さはそれほどないはずだ。やってみるか、と考える。
考えてからは自分のアタマを再点検した。いろんな遭難記を読むと、遭難者が「普通ならありえない」行動に出る代表的事例が「沢に迷い込み、戻る体力や気力を失って滝に飛び込む」だ。
その状況にあんたはぴったりハマってるんだよ。
酷似しているが、この滝は2mだぜ?5mあったらあきらめるよ。
急斜面でぶらさがったり滑ったりした頭が正常だと思うのか。
興奮状態なのは認めるが、まだそれなりにロジカルだろう、もう歌も歌ってないし。
結論としてやることにした。
両手両脚で左右に突っ張りながら行けるところまで行き、小さく跳ねて両脚をそろえてしゃがみこんだらウォータースライダーのようにナメ部分を滑り、端っこで飛んで着地する。イメージとシミュレーションを繰り返して実行に移し、ひとつめの滝を飛び降りることができた。ふたつめもうまくいった。河原を数十メートル歩いてあらわれたみっつめはより小ぶりになっていたから※写真21、もはや問題なく降りた。
17時10分、GPSでは林道まで100m。ルートを探すが、テープのかわりに目印になっていたのは空き缶だった※写真22と23。最後は踏み跡をさえぎる枝に石を乗せ、動かないようにした目印※写真24から左に折れて急斜面を登ってゆく。大きな岩の下部に突き当たった。
ここは登れない。右か、左か。踏み跡が太いように見える左へ岩の下部を巻いてゆく。タイルの切れ端や金属板が散乱している。間違いない。この大岩の上が林道だ。車でやってきて不法投棄した輩がいるんだから。なおも巻き続け白いガードレールを上方に見る※写真25。もうほとんど狂喜したが、3~4mの土の崖を登らなければならない。つかめるものをつかみ、靴を土中に蹴りこんで林道に上がった。17時37分。
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【エピローグ】
もうこっちのもんである。今晩、味噌ポテトをつまみにハイボールをやれるなんて思わなかった。山中とは全然ちがう理由によって歌でも歌いたい気分で、真っ暗な林道を歩く。二頭の鹿に二度、逃げながらときどき立ち止まってこちらを振り返る。距離があるのにタペタムがヘッドランプの弱い明かりを反射して車のヘッドライトみたいに明るい。50分歩いて県道279号へ。バスの時間に自信がもてなかったので小走りになる。ハイボール、味噌ポテト。カーブを曲がってマイクロバスの灯り※写真26が見えてからは久しぶりにダッシュした。18時39分、ゴール。
行きとおなじ運転手さんが、いったいどこを歩いてきたんです、と怪訝そうな顔をする。出発まで一緒に一服しながら、興奮状態を鎮静するためにべらべらとしゃべり、いろいろたずねる。乗り換えて20時08分には西武秩父駅でハイボールと味噌ポテトだそうである。カップルは1本前、17時台のバスで降りていった。ほかに乗客はおらずバスが動き出してからも運転席の隣に座っておしゃべりをした。若いころ渓流釣りをずいぶんやったそうで、仲間たちとの今に続く交流を楽しそうに話してくれた。19時26分、小鹿野町役場前。マイクロバスは方向転換してから柔らかくクラクションを鳴らして去ってゆき、女子の運転する西武観光バスの少し大きなのがやってくる。こんども客は一人。このころはだいぶ落ち着いていたつもりだったが、運転手さんの「右に曲がりまーす」のアナウンスにいちいち「は~い」と返事していたのだから、全然怪しい。「両神山ですか?」と聞かれたのをきっかけにおしゃべりがはじまり、グループ登山でミズガキやキンプに登った話などを聞いた。
西武秩父駅で特急の切符を手に入れ、全部着替え、目的のブツを購入して列車に乗る。食べて飲み、疲れて眠り、所沢のあたりで目が覚めてから、やっと恐怖をおぼえて体が震え、安堵と後悔と闘志がまざった感情がわいてきた。
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【反省と計画】
この山域のオフトレイルをやるには下調べが稚拙すぎた。十分に情報を集めて偵察山行を繰り返す必要があるが、気になるのが山行記録で目にするロープの使用だ。辺見岳周辺で「○回、懸垂下降した」などとある。
ロープ?
ハイカーはそのようなものは使わない。ロープを使用せずに・安全に通過できるルートを探すまで、きっと時間がかかるだろう。
フォトギャラリー:26枚
装備・携行品
【その他】 サロモンのX Ultra 3。テスラのタイツ、ユニクロのショートパンツ。全行程マウンテンハードウェアの長袖、ブラックダイヤモンドのハーフフィンガーグローブ、モンベルのヘルメット。ザックはロウアルパインの22リッターに、雨具・ヤッケ・ロールペーパー・ヘッドランプ・スマホ・バッテリー充電器と予備電池・ココヘリ発信機・地図、カロリーメイト2パック・コンビニおにぎり3個、下山後の着替え一式。キャメルバックのハイドレーションに水2リッター(残量1.0L)。スタート時重量7kg。 |
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