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無道二千m峰48と49/126/768

小日影山と除山( 南アルプス)

パーティ: 1人 (1357 さん )

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行程・コース

天候

曇り

登山口へのアクセス

マイカー

この登山記録の行程

ゲート(5:35)小日影沢出合(1,230m/9:20~40)F2下(1,470m/10:35)尾根上(1,580m/11:10)小日影山(14:30~15:00)除山(16:45~17:00)P1,538(17:50)川原(18:20)御所平(18:35)

コース

総距離
約9.3km
累積標高差
上り約1,624m
下り約1,620m

高低図

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登山記録

行動記録・感想・メモ

 松川インターの係員に「昨日の雨は如何でした」と聞くと「夕方から降り出して朝方まで大分降ったよ」との返事で、天竜川に架かる橋の上から見下ろすと、水量がどれだけ増えているのかは見当が付かないが、茶色の泥水が盛んに流れている。小渋川の濁流も川原いっぱいに広がって滔々と流れており、沢登りどころではない。
 天気予報の「雨50%で、雷雨の心配もある」を聞き、「鬼面山に登って御所平に泊り、天気が安定する様であれば、明日小日影沢を遡行しよう」と腹積もりをするものの、昨夜の雨が相当なものだった事を知り、「水量の減り方次第では明日も駄目かも知れない」と小日影山登頂の確率の低下を嘆きつつ、地蔵峠へと車を走らせる。<鬼面山往復 3時間>

 二日目、手早く朝食を済ませ、小日影山登頂を期して小河内沢へ下降する(5:50)。泥水から硬質のネズミ色へと川水の進歩は見られるが、水流が衰えた様には見えない。「岩魚は何とか餌を判別出来るのではないだろうか」と期待して、川虫を捕まえて釣り上がるが全く当たりは無く、小1時間進んだ所で対岸への渡渉に梃子摺り、1人の心細さも加わって、本日の遡行を断念する(7:00)。
 御所平に登り返し、昨日に続いて方向転換をして戸倉山へ登る事にする。<戸倉山往復 3時間>
 戸倉山から帰って来たのが1時半で、「濁りも大分引いただろう。偵察方々岩魚を釣ろう」と、大いに期待して再び沢へ下降する。水量は減った様な気もするが濁りは相変わらずで、能く能く考えて見ると「水勢が衰えないから濁りが取れないんだ」と気付く。
 川虫を餌に2時間ほど熱心に釣り上がる。釜をいっぱいに広げた2mの滝で前進を阻まれ、「明日、水量が減ったら如何にかなるだろうか?」と一抹の不安を覚えながら引き返す。「この濁りでは岩魚も無理か。流されない様に石を咥えて川底でじっとしているのだろう」と諦め気味になり、それでも竿を出し続ける。と、予期しない手応えがあり、8寸物の銀色に輝く1匹を得る。4時の天気予報を犠牲にした甲斐もあったと言う次第だ。
 「川原で焼くには1匹では寂しいし」と思案の末、岩魚の刺身に挑戦する事にする(黒部川のテレビ放映で岩魚の刺身の存在を知り、何時か食べて見たいと思っていた)。石の上で三枚におろして丁寧に持ち帰り、昨日同様に御所平にテントを張って炊事に掛かる。岩魚の刺身は仄かなピンク色をしており、癖の無い上質な味は一人で食べるには勿体無い程だ。ウィスキーのお湯割で、夏山は最高!。

 今日の予報も「所により雷雨の怖れあり」と相変わらずで、一抹の不安はあるが、「今日登らなければ、明日はもっと歩が悪いだろう。小日影山に登らなければ今年の夏休みはパーだ」と、登頂の固い決意を持って出掛ける。
 昨日決断を迫られた2mの滝は、落口付近の水深が身丈以上はありそうで、泳いで突破せざるを得ない(昨夜寝ながら考えた)。真夏とは言え早朝で気温も水温も低く、「Tシャツ1枚では心臓麻痺を起こしかねない」と恐れ、雨具を着て泳ぐ事にする。袖口をきっちりと閉めて40mのザイルを腰に結わえ、一端を砂洲に置いたザックに結び付けて勢い能く水の上に体を投げ出す。直ぐに手掛かり豊富な岩に手が届き、駆け上がる様に水から抜け出して滝上に立つと、体の中までは濡れていない。
 途中に5mの垂直な滝を見るものの、大きな転石の間を大して苦労する事も無く進む。時間を気にしながらも釣りは諦め切れず、「これは!」と思う場所には糸を垂れるが当たりは無い。恐らく滝の上流には棲息していないのだろう。小鹿の死骸に驚きながら遡行を続け、ゴルジュ状の沢が右から流入している小日影沢出合に着く。竿を畳んで釣り道具を仕舞い込み、逸る気持ちを抑えて食事を摂る。
 「急勾配の沢で滝が多いだろう。1人だから慎重を期さないと」と、ヘルメットを着用する。木立で見えなかった奥は平凡な沢で、水量は少なく石が角張っている。「思ったよりおとなしい沢みたいだ」と思って進むと、最初の滝が現われる。水が空中を飛んでおり、垂直で30m程だ。地形図を見ると小日影山の南北両面は急な斜面で、「沢にはかなりの数と規模の滝が懸かっているだろう」と予想していたので、「やはりな」と然して驚かない。飛沫を浴びながら滝壷の際を通って右手のルンゼ状のガレに取り付き、潅木の疎生した岩場をトラバースして川原へ10m程下降する。
 足元の石ばかりを見詰めていた視線を上げると一段と高い垂直の滝が目に入り、思わず「オーッ」と嘆声が口を吐く。沢を断ち切った35mの断崖に華厳ノ滝さながらに滝が懸かっており、一見して直登は無理だ。両岸は急な岩場になっているので高巻くのも不可能に見える。
 黒檜山(2,540m)の2回目のアタックの時(98.7.12)、黒檜沢から尾根へ追い込まれて急な草付で怖い思いをした事を思い出すが、「小日影山に登るためには登路を尾根に採るしか方法は無さそうだ。ルンゼの途中の垂直部をクリアすれば、草付帯を経て尾根の上に出られそうだ」と、右岸に在る泥の詰まったルンゼを首が痛くなる程見上げながら、覚悟を決める。2mの垂直部を強引に登り(落石を誘発するが、一人なので構う事は無い)、アイスバイルを効果的に使って草付をパスし、尾根の安定した岩の上に出て心臓の動悸が治まるのを待つ。
 針葉樹に覆われた斜面には下生えが無く、小立木や木の根を頼りにひたすら上へ登る。頂上までの標高差は1,000mもあり、残された未知の長い前途に心が休まらないが、藪漕ぎが無く獣道が続いているのが大変心強い。
 標高2,300m付近からはシラビソの幼木が山肌を覆い、込み入った五月蝿い枝を掻き分け無秩序に散乱している倒木にアルバイトを強いられて汗みどろになって進むが、頂上到達の目処が立たないで気力が挫けそうになる。
 大きな倒木に乗って幼木の上に上半身を出すと除山と小日影山を結ぶ尾根がガスの間から見え、「もう少しだ」と気を取り直して登行を続ける。 傾斜が落ち、茨に用心しながら倒木と雑草の中を行き、待ちに待った小日影山頂の小空間に出る。
 三角点の脇の木には赤布がぶら下がっており、吃驚する。「尾根の途中には全く人臭が無かったのに、一体どこから登ったのだろう」と訝るが、何はともあれザックを置いて喉を潤し、お腹を満たして小日影山登頂の喜びを噛み締める。
 除山までは尾根通しに2kmで、2時間掛かるとすると川原まで標高差1,000mを下るための手持ち時間は2時間ある事になり、「何とかなりそうだ」とやや安堵する。南ア主稜の大日影山の方を見遣ると、落ち着いた山容の小河内岳が懐かしく目を惹く。
 頂上を後にして除山への縦走に移る。心配していた頂上の北側の岩記号は該当無く、尾根の背の樹林には獣道にしては立派過ぎる踏跡が付いており、「赤布も林班杭も無い様だけど、何だろう?」と納得が行かないが、足が捗って大歓迎である。「急斜面に移る2,290m地点からは、尾根の右を回り込む様にして下らなければならない」と注意しながら進むと、将にその右折点に赤布が下がっており、「地元の人が登っている踏跡かも知れない」と期待が膨らむ。
 目指す尾根に上手く進めるか隣の尾根に迷い込むかは出出しのちょっとした方角のずれに端を発する訳で、下降時には大変神経を使うが、樹間越しの視界にも助けられて無事に2,150m地点の明瞭な尾根まで下り、一息吐く。
 この先は岩混じりの細い尾根となって迷う心配が無くなる。途中の岩には赤ペンキで印が付けてあり、下枝が茂ってはっきりしない部分が在るものの、林班の作業道よりは程度の良い登山道様の踏跡が途切れ勝ちに続いている。「除山手前のP2,128mから南南西に長い尾根が小渋温泉の方へ下っているから、そこに道が付いているのかも知れない」などと想像しながら先を急ぎ、2,000mの鞍部から登り返して待望の除山に着く。
 一等三角点の山頂には真新しい測量杭が残っており、この1~2年の間に人が登った事は間違い無く、再び登路を詮索する気になるが、残り時間は少なく、当初の予定通り除山の北西尾根を下って小河内沢と寺沢の合流点付近への下降を狙う事にし、靴紐を締め直して休む間も無く下降に移る。
 1,740mの平坦部を過ぎた地点からは北西の尾根に入るのだが、広葉樹の下は暗く夕暮れも迫って進むべき方向を見定めるのが次第に困難になる。最早日没との時間勝負で、豊富な茸に後ろ髪を引かれつつ先を急いでどんどん下る。1,200m付近に現われた仕事道を左に入るとどこまでも緩く行くので、諦めて小沢沿いに転じて下降すると、目指す出合の直ぐ上流の川原に飛び出す。
 川原で全身の汗を拭いて一息入れ、右岸に渡渉して13時間振りに車へ戻る。夏休みはまだ残っているけれど、明日、板屋沢から高山へ登る元気はもう残っておらず、予定を放棄して帰る事にする。
 万年通行止めの分杭峠が通れると言うので、市野瀬から高遠に出て、桜の湯で体を休める事にする。

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装備・携行品

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登った山

小日影山

小日影山

2,506m

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