行程・コース
天候
雪
登山口へのアクセス
マイカー
その他:
カーナビには「阿仁スキー場」をセット。阿仁スキー場の広い駐車場(無料)。600台駐車可能。日の出前の暗いうちに到着したので、駐車スペースが良く分からずゲストハウスの正面に近いところに駐車させて頂いた。外にトイレはないため夜間車中泊は難しい。
この登山記録の行程
阿仁スキー場山麓駅駐車場(07:22)・・・山頂駅(08:54)・・・石森付近をうろうろ・・・阿仁避難小屋(10:49)・・・森吉山(11:52)・・・阿仁避難小屋(12:33)(昼食~12:56)・・・石森・・・山頂駅(13:40)・・・阿仁スキー場山麓駅駐車場(14:43)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
東北冬の遠征1日目の姫神山と鞍掛山の登山を終えて2日目の目的「森吉山」へ向けて一路秋田県へ。
トンネルを抜けた瞬間、「秋田県」と言う標識を見て感動を覚えた。何年ぶりの秋田だろうか。県境をまたいだ途端、路面に雪が見られるようになった。
この先大きなスーパーは期待できなかったので、早めにコンビニで食料調達を行っておくことにした。コンビニの駐車場に車を停めると、真っ白な雪山があちこちに見えて心が躍った。さすがは秋田だ。
秋駒ヶ岳に登った際に立ち寄った懐かしの「道の駅 雫石あねっこ」の横を通り過ぎ、更に車を走らせる。森吉山は同じ秋田と言え、また80キロ近く離れていた。
右手前方に雪山の中でも群を抜いて純白に目立つ頂が見えた。
尖った特徴的な山容は位置的に乳頭山と思われる。別名、鳥帽子岳(岩手県側からの名称)だ。秋田駒ケ岳と同様に紅葉で有名な山でもある。これもいつか登ってみたいものだ。
日が落ち薄暗くなった頃、田沢湖へ到着した。
若かりし頃に、バイクで来たことがあり、懐かしくなって車を停めて暫く湖を眺めながら一休みをした。
田沢湖を過ぎると、山道に入りくねくねしとした道を進んでいく。路面の雪が凍っていてコーナーを曲がる度に緊張が走った。対向車がいないのが救いだったが、暗闇でスマホの電波も入らず、「きっとここで事故を起こしたら誰も助けには来ないだろう」と一瞬たりとも気が抜けなかった。
夕方6時過ぎに今日の宿泊地「道の駅あに」に到着した。
思ったよりも小さな道の駅で、営業を終えた駐車場には同じ車中泊目的の車が1台停まっているだけだった。
雪がシンシンと絶え間なく降り続いている。今日は積もるかも知れないと思った。
早めに就寝した方が良いと、顔を洗い寝袋に潜り込んだところへ、宮崎に住んでいる大学時代の友人から電話がかかって来て驚いた。長らく九州で勤務していたが、ようやく地元山口に戻れると言う。その連絡だった。懐かしく、暫し話し込んでしまったが、まさか友人も日本列島の反対側で、しかも雪の降る車の中で電話を受けているとは想像もしていなかっただろう。笑
昨晩の寒かったことを思い出し、寝袋にインナーを加えて更にテントシューズを履いて眠った。そのお陰で、朝までぐっすりと快眠だった。
朝5時に起床。
完全に雪に埋もれた車。フロントガラスの雪をどかし、顔を洗い身支度を整えて、阿仁スキー場へと出発する。
道の駅からスキー場までは約20km。路面には心配していたほどの雪は無く、6時10分と思っていたよりも割と早く到着することができた。
ゲレンデでは、まだ薄暗い中、雪面を整えるための重機がライトを点けて「ごーっ」と言う音とともに往き来していた。それ以外は照明がなかったため、どこが駐車場か分からず、仕方がないのでビジターセンター正面の近いところに、迷惑にならないよう端の方に車を停めさせてもらった。
天気予報を確認すると「晴れ」だったはずの予報が、いつの間にか「曇り」に変わっていた。風も強そうで、どうも今回の東北遠征は全般ついていない。
7時20分、明るくなるのを待ってからワカンを装着して出発をする。
一般的にはゴンドラを使った登山が多いが、折角なので全部自分の足で登りたいと思った。
西吾妻山等のようにゴンドラを使わないといけない山もあるため、ネットで調べてみたが、徒歩を禁止している訳ではなさそうだったので、ゲレンデの端を使わせてもらい、ゆっくりと登らせてもらった。
どこのスキー場もそうだが、ゲレンデが一番の急登だったりする。
噴き出す汗を拭いながら、8時46分にようやくゴドラの山頂駅に到着した。
8時半ぐらいから営業前の試運転が始まりゴンドラが動き出したので、もう人が上がって来るのかと焦ったが、なんとか営業開始前にゲレンデトップに一番乗りができた。
ガスが立ち込めた真っ白な中、スキーのコース脇に建てられた赤いポールを目印に方角を定めながら登って行く。
ほどなくしてゲレンデと登山エリアの境界となるフェイスにたどり着いた。
フェンスの切れ間が登山エリアの入口になっていて、「これより先は管理外となるため登山届けを提出して進むように」と注意書きが掲げられていた。
フェンスを越えると、世界が一変して本格的なスノーモンスターが現れる。
光の乱反射で全体が「ぼわーっ」と白く輝き、1m先が見えない状態だったが、身の丈の倍以上はあるだろうか、大きな雪の塊が自分を取り囲むように立っているのがかすかに見えた。輪郭がはっきりしなかったが、そこに大きな物体があるという存在感が伝わってきて、なんとも不思議で少し怖い感じがした。
歩き出そうとするが、一歩目からトレースが分からない。
GPSだけを頼りに、スノーモンスターの間を抜けるように歩いていく。
ふかふかの雪を踏み抜き、バランスを崩す度に疲労がたまる。ラッセル自体、苦ではないが、なにせ地面との境界線がない真っ白な世界では、上下の位置関係が分からず身体がフワフワと浮いているようで、何もしなくても酔った状態になる。きっと宇宙酔いもこんな感じだろう。
面白いことに、そんな浮遊感のある真っ白な世界に身を置くと眩惑が発生する。
1m先にある黒っぽい小枝が、距離感を失うと10m先に立っている人影のように見えてくる。自分が一歩動くと、その枝の位置が変わることで、まるでスノーモンスターの間を縫って歩いている人のように眩惑してしまう。雪山をえがいた山岳小説で、よく幻覚を見るシーンがあるが、雪まさにこんな感じだろうか。
何度か雪面を踏み外し、転げ落ちて雪まみれになりながらも、トレースを探し進んでいく。
おそらく石森付近まで来た頃だろうか。天気の回復を願っていたが、吹雪も混じるようになり、視界とともに状況は更に悪化した。
過去の経験から常に3つのGPSを持ち歩き、事前に地形(地図)も頭に入れているので、ナビゲーションだけでも充分歩くことはできるが、なにせ無視界のため肝心の山の状態が分からない。よく知った山であれば、訓練目的で無視界の悪条件でも登ることはできるが、知らない山となると何かあった場合のリカバリーが取れないリスクがある。吹雪いた西吾妻山でもよく遭難者が出るように、一見穏やかなだだっ広い特徴のない山ほど遭難しやすい。森吉山のために遠路はるばる秋田までやってきたことを考えると悔しくて仕方がなかったが、残存リスクがある以上「撤退」が懸命だと判断して折り返すことにした。
自分が歩いて来たトレースを見失わないよう一生懸命目を凝らしながら歩いていると、正面の方からゴンドラで上がって来たと思われる後続の方がやって来た。
スキーを装備した5,6人のパーティーで、明らかにいで立ちが玄人っぽい。あとで聞いたところ、地元の山岳会の方々だった。
その雄姿を見て、諦めていた登頂への想いが再び湧き上がって来た。
丁度、そのパーティーの後にボードの板を背負ったカップル(ご夫婦)がやって来たので、声を掛けてみると、地元の方で森吉山へは何度も来ているという。カップルに割り込むようで申し訳なかったが、「同行させて頂けませんか?」とお願いすると、快く「いいですよ」と返事が返って来た。しかも、とても親切な方で、ボードをするため避難小屋を目指していたが、遠方から来たという自分のために足を延ばして頂まで案内してくれるという。
かくして、とても親切で強力なパーティーに加えて頂き、再び山頂を目指すことになった。
このご夫婦、完全に地形が頭に入っているかなりの「ツワモノ」で、何も見えないハズなのに、スタスタと進んでいく。まさに森吉山全体が自分の庭状態だった。しかも、ついていくのがやっとなくらい、常人離れした健脚だった。
フェンスを越えてからはほぼ水平移動だったが、避難小屋を過ぎると頂へ向かって急登ゾーンに入っていく。
標高にして僅か100m程度とのことだったが、登るにつれて風が強まり、何も見えない状態と相まって、一歩いっぽに体力を要し、珍しく弱音を吐きたくなるような辛さだった。
更に食料を口にしていなかったため、シャリバテが一気に襲ってきた。もう足が上がらず、どこまで頑張ればゴールなのか、心が折れそうだった。
「あともう少し、あともう少し」と励ましの言葉に歯を食いしばり、なんとか歩き続けた末、「山頂ですよ!」と声を掛けられた時には安堵で心の底からホッとした。辛かった分、達成感が半端なく、その時の感動は一生忘れないことだろう。
森吉の頂は、本来であれば、白神山地、岩木山、八幡平、更には南に遠く鳥海山など、360度の眺望が楽しめると聞いていたが、今は完全白の世界。しかも強風が吹き荒れているのでゆっくり休憩もできないため、記念撮影だけして、すぐに小屋まで戻り避難した。
半分以上雪に埋もれた小屋へ、2階の窓から中へ入ると、とても広々とした部屋があった。避難小屋と言うと薄暗いイメージがあるが、とても明るく綺麗な山小屋だった。
空腹が極限状態だったので、座り込んで昼食をとる。
本当はカップラーメンを食べようとお湯を持ってきたが、自分だけ食べるのも気が引けて、非常食用に持ってきたパンとカチカチに凍ったおにぎりを食べた。あまり美味しくは無かったが、お腹が膨らみようやく落ち着いた。
案内して頂いたご夫婦は本当に素敵なお二人だった。気さくにいろんな話で盛り上がり、まるで昔から一緒に山登りをしているパートナーのように接してくれた。
帰路もお二人のお陰で、あれほど苦労した道のりもあっさりとゲートのところまで戻ることが出来た。
ゴンドラで帰るというお二人と、山頂駅で握手を交わして別れたが、このご夫婦に出会わなかったら、今回の登頂と感動は無かった。感謝しても感謝し足りないほどだった。
名前をお聞きしようかとも思ったが、それも無粋な気がして結局そのまま別れてしまったが、いつかまたこの想い出を胸に森吉山を再訪したいと思った。
14時43分、スキーヤーが滑走するゲレンデ脇をテクテクと降り、駐車場へと戻った。
3大樹氷と呼ばれる森吉山の絶景は終始、ガスの中だったが、絶景以上に心が温かくなる山旅となった。
















