行程・コース
天候
天気は良かったが、風が強かった
登山口へのアクセス
マイカー
その他:
山頂に無料の駐車場200台あり。
観光シーズンは超込み合うみたい。
この登山記録の行程
Start(12:53)・・・シオカラ谷吊橋(13:13)・・・大蛇?分岐(13:41)・・・大蛇?(13:49)・・・大蛇?分岐(14:03)・・・牛石ヶ原(14:08)・・・尾鷲辻(14:20)・・・正木ヶ原(14:30)・・・分岐(14:51)・・・日出ヶ岳(14:55)・・・分岐(15:13)・・・Goal(15:40)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
八経ヶ岳を下山しながら、ずっと明日のことを考えていた。
本当は翌日に登るつもりだった大台ケ原。しかし天気予報を見るとどうにも怪しい。
「今日登ってしまえば、明日はのんびり寄り道しながら帰れるな」などと考えているうちに、気持ちはだんだん今日に傾いていった。
他に寄る場所も思いつかなかったので、とりあえず登山口の駐車場まで向かってみることにした。
いくら気軽に楽しめる山域とはいえ、午後からの登山はやはり不安がある。熊の目撃情報もあるという。
それに、大台ケ原ドライブウェイは“ドライブウェイ”という名前から想像する快適な道路とは違い、林道のような雰囲気がある。行者還トンネルへ向かう道と大差ないのでは…と思うほどだ。
しかし標高が上がり山の上へ出ると、急に道は広く快適になった。
遠くの山並みを眺めながら走るのは楽しく、駐車場に集まっているバイクの数を見れば、ツーリングの人気ぶりも納得だ。
山頂駐車場は全体の四割ほどの埋まり具合。
シーズン中は大混雑と聞くが、紅葉もほぼ終わって見どころが減ったのだろう。
それでもここは約200台が停められるうえ、無料で24時間開放されている。私のように遅い時間に着く者にはありがたい場所だ。
到着した瞬間、さっきまでの迷いはどこかへ吹き飛んだ。
「もう行ってしまえ」と準備を整えにかかる。考えるのが面倒になったのかもしれない。
ビジターセンターでルートを確認し、
駐車場 → シオカラ谷 → 大蛇嵓 → 正木が原 → 山頂 → 駐車場
という周回コースに決めた。
■ シオカラ谷へ
笹が茂る林の中をゆるやかに下っていく。
“台”という名の通り、ここはテーブルマウンテンのような地形で、縁に近づくにつれて足元がスパッと切れ落ちている。落ちたら大けがでは済まなそうだ。
シオカラ谷への下りは急勾配で、これをあとで登り返すのかと思うとげんなりする。
吊り橋を渡った先には不自然なロープが張られていた。ここから瀧見尾根に行けるはずだ。
本当は体力があれば瀧見尾根から東の滝まで行きたかったが、今回は“大台ケ原ってどんなところか見に行く”が目的なのでパス。
いつか行ける日が来るのだろうか。
■ 大蛇嵓へ
当然、下った分だけ登ることになる。これがまた急登。
汗がどんどん出て、軽量化のつもりで水を半分置いてきたことが悔やまれる。
シャクナゲの急坂を登りきると台地の上に戻り、大蛇嵓入口まではしばらく平坦が続く。
右手に鋭く突き出した岩峰が見える。
あれが大蛇嵓なのだろうか。あんなところまで行けるのかと不安になるが、大蛇嵓への道に入ると一気に登山者が増えて安心した。人混みは苦手なのに、人がいると安心する。不思議だ。
やがて右手に大岩壁が現れる。荒船山のように切れ落ちた雄々しい崖だ。
さらに奥にも帯状の崖が連なり、その間に滝が落ちている。日本の滝百選のひとつらしい。
シオカラ谷から進めばその滝の前に出るという。見ていると、やはり行けばよかったかと少し後悔した。
大蛇嵓そのものは写真の通り、空に飛び出すような露岩で爽快だった。
“このまま跳べそうだ…”と錯覚するほどの眺望。今度は息子を連れて来たい。
■ 牛石ヶ原~正木が原へ
引き返して牛石ヶ原に入ると、広い笹原が風にそよぎ、空が広くて気持ちがいい。
だが大台ケ原は本来、深い森に覆われた山域だったという。
伊勢湾台風で森林が大きな被害を受け、そこに笹が勢力を広げ、さらに鹿が若木を食べ…その結果今の風景になったらしい。
三本杭のときも思ったが、登山者としては「笹原気持ちいい!」で終わってしまいがちだ。
けれど山に関わる人たちは、山が荒れていくことに強い危機感を抱いている。
私ももっと、山の変化に気付ける人でありたいと思う。
正木が原を過ぎると、遠くの山並みの向こうに海が見えてきた。
八経ヶ岳よりもずっと近い。地図を見返せば、大台ケ原が海に寄った位置にあることが分かる。
深い山と海が同時に見える景色は珍しく、つい見入ってしまう。
■ 山頂へ
笹原に続く木道の登り階段。遠くから見てもキツそうで、気持ちが萎えそうになる。
「ここを登れば山頂だ!」とリズムよく歩くが、午前中から酷使している足が悲鳴を上げ始めた。
この丘も立ち枯れの木々に囲まれていて風が強い。日も傾き、寒さが身にしみる。
木道が終われば終盤――そう思って一気に登る。
山頂直前の直線は枯れ木が柱のように並び、緑の絨毯が広がっている。まるで宮殿。
ラスボス戦という表現がぴったりだ。
しかし登りきった先に“本物の山頂”がもう一つあると分かった瞬間、思わず心が折れかけた。
普段なら「おー、あれが山頂か」となるところだが、今は疲労のピーク。絶望しかない。
偽ピークには海を眺めるベンチがあり、時間があればコーヒーでも飲んでいたい場所だ。
空が少し赤みを帯び、海と山が柔らかく染まっている。
だが、のんびりもしていられない。
さっき木道で汗をかきすぎ、汗冷えがひどい。
八経ヶ岳でベテランさんに言われた「上は風が強いから汗冷えに気をつけて」が脳内でリフレインする。ここでのことだったのか。
シロヤシロの群生する鞍部へ下り、風をしのいで最後の登りへ。
「心を無にすればいつか着く」と自分に言い聞かせ、一気に山頂へ。
山頂は風がますます強く、急いで記念写真を撮って展望台に上がる。
そこは360度の大パノラマ。
山々が四方へ果てしなく伸び、その先には海。
条件が良ければ富士山やアルプスまで見えるという。距離感がバグる世界だ。
夕日に染まる海は温かい色をしていたが、風が強すぎてとにかく寒い。
■ 下山
駐車場までは近いが、人の気配が少なく、熊も出るというので急に怖くなる。
今日はクマスプレーを忘れた。風が強すぎて、もし使っても自分にかかりそうだ。
展望台下で風を避けながらおにぎりを食べ、防寒対策をして下山開始。
大台ケ原から大杉谷へ下るルートも、いつか歩いてみたいと思いながら景色を目に焼き付けた。
山頂には私しかおらず、妙に心細い。普段は単独行が多くても、大台ケ原でだけは“人がいない”ことが不安になるのはなぜだろう。
下山路に入ると何人かとすれ違った。
山らしくない繁華街スタイルのカップルや海外の方もいたが、みんな無事に戻れますように。
平坦なトラバース道を歩きながら、「明日はどこに行こうかな」「どこでお風呂に入ろうかな」と考える余裕が戻り、無事駐車場へ。
到着した駐車場はすっかり静かになっていた。
汗冷えがひどいのですぐに着替える。ほっとした途端、猛烈に眠気が襲ってきた。
昨日から一睡もしていないのだから仕方ない。少し仮眠すると、外はもう暗くなっていた。
日没こそ逃したが、西の空はオレンジに染まり、その向こうに紺色の山のギザギザが浮かんでいた。
何度も車を止めて、暮れていく景色に見入った。
好きに時間を使える――それが旅のいちばんいいところだ。

















