雪山登山の必需品! ブラックダイヤモンドから新登場のチェーンアイゼンを、雪の八ヶ岳でフィールドテスト!

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チェーンスパイクは冬の登山道で使う人が急増している人気アイテム

チェーンスパイクは冬の登山道で使う人が急増している人気アイテム。クライミングギアなどで有名な「ブラックダイヤモンド(BlackDiamond)」も、昨年の秋、満を持して新商品を3型リリースした。装着しやすく歩きやすいと評判だが、新作チェーンスパイクの使い心地はいかに。

今回は12月下旬の八ヶ岳で、山岳ガイドの経験を持ち、現在はブラックダイヤモンドの輸入販売を行うロストアローの社員として活躍する保科雅則さんに話を伺った。実体験とともにリアルな使い心地をレポートする。

 

ウェビングループで簡単に装着! 適度な爪の長さで歩きやすい

―― 今日は実際に商品を試しながら話を聞かせていただきます。最初に、チェーンスパイクの基本的な特長から教えてください。

チェーンスパイクは、鎖に繋がれた爪によって、雪道などでスリップを防ぐ道具になります。似たようなものに4~6本爪の軽アイゼンがありますが、チェーンスパイクの方が軽量コンパクトで、簡単に装着できる点が特長と言えるでしょう。さらに、滑りやすい地面でもしっかりグリップしてくれるので、前に進もうとするトラクション(駆動力)を得ることができます。

 

―― 今回歩く南八ヶ岳にある赤岳山荘から赤岳鉱泉をめざすルートでは、チェーンスパイクを使う人が以前と比べて格段に増えました。それでは、ブラックダイヤモンドがリリースした3つのモデルについて、それぞれ簡単に紹介してください。

ブラックダイヤモンドの新作チェーンスパイク

新作のチェーンスパイクは3つ。それぞれ想定する使用シーンが異なる。


いちばん左が「ブリッツスパイク」で、冬のトレイルや雪国の観光地などを想定したモデルになります。そして、中央の「アクセススパイク」は登山やハイキングに適したモデル。右の「ディスタンススパイク」はランニングシーンを強く意識して作られました。Mサイズの片足で、左から57g、125g、115gと軽量なのが特長です。今回はアクセススパイクをメインに話をします。

 

―― ブラックダイヤモンドの商品は、市場にあるチェーンスパイクの中でも後発モデルになると思います。重さ以外で他のモデルとは違う特長を挙げると、どこがポイントになりますか?

いちばん分かりやすい特長は、かかとにあるウェビングループです。これのおかげで雪山用の手袋をしたままでも簡単に着脱できます。

ブラックダイヤモンドのチェーンスパイクの特長

ウェビングループはすべてのモデルに標準装備


ブラックダイヤモンドのチェーンスパイクの特長

立ったまま緩みを調整したり外したりできる


―― このウェビングループの存在は大きいですね。登山靴に装着するがラクになるのはもちろん、脱ぐときもスルッと外すことができました。

他にも、アクセススパイクには爪が14本あり、そのうちの1本がつま先のセンターに配置されています。足運びの最後、足を蹴り出すときにこの爪が効果的に働いて、つま先が滑りづらいです。

ブラックダイヤモンド「アクセススパイク」の特長

センターの爪が隠れた特長。赤岳鉱泉へ向かう途中、何度も効果を実感できた


ちなみに爪の長さは8mmで統一されています。4~6本爪の軽アイゼンや爪が長めのチェーンスパイクと比較すると、スリップを防ぎつつ着地したときの足裏感覚が残っているので、違和感なく歩ける点も特長と言えるでしょう。

ブラックダイヤモンド「アクセススパイク」の特長

地面との距離が短いので、自然な足運びで歩行できる


―― 確かに、軽アイゼンを装着すると地面と足裏に距離ができてしまうので、なんだかゲタを履いて歩いているような感覚がありした。でも、アクセススパイクにはそのような違和感がまったくなく、意識しなければ装着していることすら忘れてしまいそうです。

 

基本的には、アプローチ区間が適切な使用範囲

―― アクセススパイクはスリップを防いでくれる道具ですが、具体的にはどんな状況やフィールドで活躍しますか?

まず、地面が凍っていたり、うっすら雪がのっていたりする道で役立ちます。凍っているけど岩がゴツゴツしているような道も、12本爪アイゼンで歩くとバランスを崩しやすくなり、さらに爪が削れてしまうので、アクセススパイクの出番ですね。

ブラックダイヤモンド「アクセススパイク」の特長

アクセススパイクを使えば、ちょっとした岩場も安定して通過できる


―― アクセススパイクを装着して山を登っても平気でしょうか。

本格的な山登りがはじまるまで、今回であれば、赤岳鉱泉までのアプローチで使うアイテムになります。たとえば、南アルプスなら戸台から北沢峠までの区間や、北アルプスなら釜トンネルを通って上高地へ向かう途中など。中禅寺湖の周辺をハイキングするときなどにも使えるでしょう。

一方で、12本爪アイゼンとピッケルが必要になるフィールドで、アクセススパイクのようなチェーンスパイクを使うのはミスチョイスです。

雪が積もった登山道を歩く

赤岳鉱泉まで12本爪アイゼンが必要なポイントはない


―― 樹林帯を大きく越えないような、中~低山で使う場合はどうでしょう?

一概に大丈夫とも言えず、そういったフィールドでも急斜面が出てくれば、アクセススパイクのようなチェーンスパイクではなく、12本爪アイゼンの出番です。一度12本爪アイゼンを使う雪山登山を経験すると、12本爪アイゼンとチェーンスパイクを使い分ける境界線が分かると思います。そういった経験を積まずにチェーンスパイクだけ持って雪山に向かわないように注意しましょう。

 

雪道の危険を学び、チェーンスパイク装着時でも正しい足運びを意識する

―― アクセススパイクを装着して歩くと滑らない安心感があるせいか、ついつい足の置き方を意識しなくなってしまいます。歩き方で気を付けるポイントはありますか?

チェーンスパイクを装着した登山靴

チェーンスパイクでも、雪山歩行の基本、フラットフッティングで歩く


基本はアイゼン歩行と同じで、大股歩きにならないように意識して、足裏全体の爪を効かせるように、足を地面に対してフラットに置きます。特に上り坂ではつま先立ち、下り坂ではかかと着地、トラバースでは足が斜めにならないように注意しましょう。

チェーンスパイクを装着した登山靴

つま先を蹴り込むように歩こうとしても、ほとんどの爪が地面に接地しない


チェーンスパイクを装着した登山靴

かかと着地でも地面に接地する爪はゼロ。これではスリップしてしまう


チェーンスパイクを装着した登山靴

ソールのサイドエッジを使った歩き方もNG。非常に滑りやすい


―― 爪を効かせるために力強く足を踏み出す必要はありますか?

無理に爪を食い込ませようとしなくても大丈夫。自然に足を置くだけでしっかりグリップします。

チェーンスパイクを装着した登山靴

足裏に均一に体重をのせれば蹴り込む必要はない


―― おっしゃる通り、ツルツルに凍った氷の上でも足をのせるだけで爪が食い込んでスリップしません。チェーンスパイクを持っていなければこのような道は歩けないですね。

チェーンスパイクは便利な道具ですが、山行中に壊れる可能性もゼロではありません。登山の装備全般に言えることですが、万が一、チェーンスパイクが壊れて使えなくなってしまった場合などに備えて、どんな状態の地面に足をどう置くと滑る危険があるのか、というようなことも、常に意識して日々の山行から学習するように努めましょう。

雪が積もり凍結した木道

道具がない場合、どこに足を置いたら滑るだろう…


もちろん、チェーンスパイクのような道具がなければこのような凍結した道の上を歩くのは非常に危険です。遠回りでも迂回して通過するか、それができなければ引き返す判断もあり得ます。

 

―― 道具に頼りすぎず、経験を積みながら体の使い方や足の置き方など、山登りの基本となる所作を身につけていきたいですね。その他に気をつけるべき点はありますか?

流れている沢や水分を多く含んだ地面を通過したあとに雪の上を歩くと、足裏に雪団子ができてしまいます。これだとスリップする危険がかえって高くなってしまうので、水気がある道は避けて歩くことを意識しましょう。もし雪団子ができてしまったら足裏から雪を落としてください。

登山靴の足裏に雪団子が付いた状態

足裏に雪団子が付いた状態。これだとチェーンスパイクの意味がない

 

チェーンスパイクの出番はここまで。水気を取って保管しよう

―― 話を聞いていたら、まもなく赤岳鉱泉に到着しそうです。そろそろアクセススパイクの出番も終わりですね。

山小屋に着いたら入口付近を避けて、人が通る道をふさがない場所でチェーンスパイクを外しましょう。装着したまま山小屋の中に入ったりトイレに入ったりするのはマナー違反です。

チェーンスパイクを登山靴から外す

かかとのウェビングループを引けば簡単に取り外せる


―― アクセススパイクを外すついでに、保管方法についても教えてください。

使用後は水分を拭き取り、充分に乾かしてから付属の収納袋に入れて保管しましょう。紫外線が道具の劣化につながるので、乾かすときは直射日光を避けてください。

エラストマー製のハーネス部分が劣化すると、固くなったりひび割れたり、購入時から色が変わったりするので、長期間保管した後に使うときは異変がないかチェックしましょう。

チェーンスパイクの収納ケース

収納ケースは小さな手の平サイズ。コンパクトに持ち運べる


―― 今回実際にアクセススパイクを使ってみて、スリップする危険が格段に減りつつ、足運びがとても軽やかになりました。

スリップの危険があるからといって、アプローチから12本爪アイゼンで歩くとかえって疲れてしまいます。アクセススパイクを使えば疲労を軽減できるし、歩行スピードもアップするはずです。

赤岳鉱泉から厳冬の山々を望む

赤岳鉱泉から先は12本爪アイゼンとピッケルの出番だ


アクセススパイクはベテランから雪山初心者まで、すべての登山者におすすめできるアイテムです。多くの人に使っていただき、冬の登山をより快適で安全なものにしてもらいたいですね。

 

―― 私もまったく同意見です。アクセススパイクを持って損をすることはないでしょう。より多くの方に使っていただきたいですね。今回は詳しく話を聞かせていただきありがとうございました!

 


※動画がうまく再生されない方はこちらのリンクからYoutubeでご覧ください

 

構成・文=吉澤英晃、写真=花岡 凌、協力=株式会社ロストアロー

 

今回紹介したアイテム

ブラックダイヤモンド アクセススパイク

爪の本数は14本。足裏全体に配置されたスパイクが凍った地面を的確にとらえる。登山靴やハイキングシューズに装着でき、登山のアプローチや雪道のハイキングといったシーンで活躍する。

価格
7,300円(税別)
サイズ
S、M、L、XL
重量
125g(片足、Mサイズ)

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ブラックダイヤモンド ディスタンススパイク

靴のアッパーを覆うソフトシェルが特長で、トレイルランニングシューズに装着することで一体感を得ることができる。撥水性能に優れる素材で、雪や氷の侵入を防ぎ、冷たい風も遮断する。爪の本数はアクセススパイクと同じ14本だが、こちらの方が軽い。

価格
9,900円(税別)
サイズ
S、M、L、XL
重量
115g(片足、Mサイズ)

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ブラックダイヤモンド ブリッツスパイク

爪の本数は6本で、前足部のみに配置されるデザイン。つま先にトーループを引っ掛けて、ゴムバンドをかかとに被せて固定する。雪が降る地域の日常使いはもちろん、観光地へ旅行する際にも携行しやすい最軽量モデル。

価格
4,000円(税別)
サイズ
S、M、L、XL
重量
57g(片足、Mサイズ)

詳細を見る

 

※上記チェーンスパイクのサイズは、合わせる靴の形状・ボリュームによっても変わってきます。また正しくフィットしていない状況では、歩行中に破損する可能性があります。正しいフィッティング方法については、リンク先のブラックダイヤモンドのウェブサイトでご確認ください。

 

プロフィール

保科雅則

1960年生まれ。山学同志会に入会してから山の技術を研鑽し、国内外で数々の登攀記録を残してきた。日本山岳ガイド協会認定上級登攀ガイドとして活躍していた経験があり、現在は「ブラックダイヤモンド」など海外のアウトドアメーカーの商品を輸入販売する株式会社ロストアローの社員として登山業界に貢献している。

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