百害あって一利なし!「肥満」に潜む登山のリスクとは?

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体と心を元気にしてくれる登山。一日でも長く、元気に山に登りたい——そう考えている中高年登山者は多いことだろう。末永く登山を続けるためには、日ごろの体力づくりが不可欠だが、60代後半以降も登山を続けられる人は実は少ない。ヤマケイ新書『院長が教える 一生登れる体をつくる食事術』から、著者の齋藤繁さん(群馬大学医学部附属病院病院長)のアドバイスを紹介しよう。

文=齋藤 繁、写真=PIXTA

さまざまな肥満のリスク

カロリーの過剰摂取による肥満が生活習慣病の引き金になることは、本書の第1章に記したとおりですが、肥満の弊害はこれだけではありません。脂質が肝臓に蓄積して機能障害(脂肪肝)を引き起こしますし、肺が外側から圧迫されて呼吸器疾患(無気肺など)にも陥ります。新型コロナウイルス感染症の重症者は肥満者が多く、死亡率も高かったことがその好例です。

登山をする際にも、いろいろと不都合なことがあります。

その第一として挙げられるのは、体重に比例して登るために必要なエネルギー量が増えること。テント泊登山などで荷物が重くなると歩行ペースはおのずと落ちるものですが、肥満の人は常に重いザックを背負っているのと同じことになるのです。

ここで問題。20kgの重荷を背負った体重60kgの人と、空身の80kgの人が一緒に登ったとします。同じ身長だとすれば、理論的には消費カロリーは変わりません。さて、どちらのほうが楽に登れるでしょうか。答えは前者。疲労度は空身の80kgの人のほうが高くなります。

背中に重荷を背負った60kgの人は、肩から腰にかけてのみ荷重がかかり、ザックの性能が上がっていることも手伝って効率よく体を動かせますが、80kgの人は空身とはいえ全身に満遍なく重りをつけているようなものですから、どうしても動作がぎこちなくなります。すると余計な筋肉を使うため酸素の消費量が増え、お腹の横隔膜を大きく動かしながら登ることに―。これによって疲労度が増してしまうわけです。

同じ条件で登ったとしても、とかく太っている人のほうが息切れしがちなのは、同様に酸素消費量の増加が原因。高山病になりやすいといわれるのも、肥満になると呼吸器の活動が衰え、過酷な状況によってその影響が顕著に現れるからです。

また、下山時に腰や脚へかかる衝撃が大きくなるので、腰痛や膝痛、足関節の障害が起こりやすくなります。よく膝痛の解消法として歩き方の改善や筋力強化が推奨されていますが、肥満も大きな要因であることを忘れてはなりません。心当たりのある人は、自分の体重を改めて見直し、もし肥満に該当した場合は、まずはこれを解消するのが膝痛回避の近道ともいえるでしょう。

BMIで自分の体形をチェック

皆さんの体が肥満であるか否かを知りたいとき、よい指標となるのがBMI(ボディマス指標body mass index)。これはベルギーの統計学者アドルフ・ケトレーが200年近く前に提唱した伝統ある指標で、身長に応じた適正体重や肥満度が簡単な計算で判定できます。

計算式は下のとおり。この数値が18.5未満なら「低体重」、18.5~25未満なら「普通体重」、25以上なら「肥満」と日本肥満学会は定義していますが、登山のことを考えれば20~22のあいだが理想的。23を超えると、急な登りで体が重く感じるようになるはずです。

BMIの計算法

BMIの計算法
BMIの計算法

BMI値20の体重は「身長(m)×身長(m)×20(BMI値)」で求めることができます。身長170cmの場合、BMI値が20~22に入るのは57.8~63.6kg。実際に計算してみると、これを超えている人が少なくないのではないでしょうか。

私が主宰する「健康登山塾」で参加者81名(身長152~179cm、体重43~95kg)のBMIを分析したところ、その幅は17.6~33.2で、平均値は22.2でした。参加者はトレイルランニングを目指す人から山登りを始めたばかりの人まで多岐にわたりますので、当然BMIの幅も広がるのですが、それにしても肥満に傾き気味なことがわかります。

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プロフィール

齋藤 繁(さいとう・しげる)

1961年、群馬県高崎市生まれ。群馬大学医学部附属病院病院長、群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学分野教授、医学博士。大学生時代にワンダーフォーゲル部に所属し、国内各地で登山に励む。1992年、日本ヒマラヤ協会クラウン峰登山隊に参加し、高所登山に関する医学研究に取り組む。その後、山岳イベントの医療支援活動や一般登山者の健康管理に関する啓蒙活動などを行なっている。所属山岳団体は、群馬県山岳連盟、日本山岳会、日本ヒマラヤ協会、日本登山医学会など。

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