これで春山登山も楽しめる!山岳医が教える花粉症対策

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暖かな日が増え、あちこちで花が咲き始める春は絶好のハイキングシーズン。しかし、春のスギやヒノキの花粉が飛ぶ時期でもあり、花粉症持ちの人には憂鬱な季節でもある。2024年は前年よりは飛散量が少なくなる見通しだが、それでも要注意レベルの飛散状況となっている。国際山岳医でアレルギーを専門とする粕谷志郎さんに、おすすめの対策を聞いた。

監修=粕谷志郎、構成=山と溪谷オンライン

内部にたっぷり花粉を溜めているスギの雄花

花粉の飛散が本格化し、アレルギーに悩む人も多い季節。春山に出かけたいけど、花粉症の症状がつらい、という人も多いだろう。登山の際に有効な対策にはどんなものがあるのか。自身も長年花粉症と付き合いながら登山を続けてきた医師の粕谷志郎さんに聞いていこう。

花粉シーズンの登山準備

花粉症の時期といえば春。しかし、症状が出るタイミングは居住地やアレルギーの内容によって異なる。まずは自分のアレルギーをしっかり把握することから準備は始まる。

まずは自分を知り、相手(原因物質)を知るべし

日本人の4割ほどが症状を示すという花粉症。植物の種類でいえば50種以上の花粉症があるが、日本ではスギ花粉が花粉症の70%を占めるといわれる。これは単純にスギが多いから。登山の途中でスギ林を歩くことは多いが、スギ林は実に日本の森林の18%、国土自体の12%にも及ぶというから驚きだ。

スギは夏から秋にかけて花芽が成長し、雄花が完成する。夏に日照が多いと雄花の量が多くなる。この雄花の量で翌年の飛散量が推測できるため、環境省は毎年12月にスギ雄花花芽調査の結果を発表している。スギ花粉の飛散は早い地方では1月に始まり、本格化するのは2月から3月にかけて。暖かい地方から、少しずつ北上していく。4月に入ると落ち着くが、スギ花粉の後にヒノキ花粉が飛び始め、1カ月ほど遅れてピークを迎える。スギ花粉症の人の多くはヒノキ花粉にも反応するので、症状が重い人はヒノキ花粉の飛散が終わる5月ごろまで花粉症に悩まされることになる。

「ヒノキが収まると、次にイネ科の植物の花粉が飛び始め、梅雨が開けるとブタクサなどの花粉の飛散が始まります。まずは自分がどの植物に反応しているのか、病院で血液検査をしてもらうことが大切です」と粕谷さんは話す。

「アレルギーの対応で大事なのは『自分を知り、相手(原因物質)を知ること』。目のかゆみやくしゃみ、鼻水などはハウスダストなどでも起きる症状ですが、血液検査ではハウスダストなどを含む吸入アレルギー全般を調べることができます。希望すれば、食物アレルギーなども一緒に検査できるので、電話で問い合わせてから受診するとよいでしょう」。アレルギー検査はアレルギー科はもちろん、内科などでも受けることができるという。

血液検査では花粉だけでなく、ハウスダストやダニなどのアレルギーも調べられる

登山では注意!?抗ヒスタミン薬

花粉の飛散時期は春の登山シーズンとぴったり重なるため、しっかり対策を講じておきたいところだ。一般的な花粉症にはアレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬、目鼻の症状を緩和する点眼薬や点鼻薬が処方される。また、薬局でも同様の市販薬を購入することもできる。登山の際もそれらの薬を使用することになるが、山ならではの注意点がある。

「抗ヒスタミン薬には、眠気やふらつきなどの副作用を伴うものがあります。登山中にこうした副作用が出ると、集中力が途切れたり、転倒や滑落などにつながるおそれもあるので、要注意です。人によって副作用の出方が違うので、普段から服用時に異常が出ないかチェックしておくとよいでしょう」。

副作用が心配で、症状がさほどひどくなければ、抗ヒスタミン薬を省いて点眼薬・点鼻薬だけで乗り切れる場合もある。「抗ヒスタミン剤が効きにくいとか、症状がかなり強い場合などは短期的にステロイド剤を使用する場合もあります。こちらは眠気などの副作用が出ないので、登山の際に服用していても大丈夫です」

花粉症に処方される抗ヒスタミン剤、点眼薬、点鼻薬

登山計画でも花粉症対策を

環境省の調査では2023年は関東、北陸、近畿、中国地方などでは過去10年の最大値を超えるスギ花粉が飛び、24年はそれよりは少ないものの、相変わらず注意が必要な飛散量となっている。スギ花粉に続いて飛散期に入るヒノキ花粉についても多くなる見込みだ。花粉の飛散時期は地方や標高によって異なる。これをうまく生かして登山計画を立てるのも一案だ。

「地域によりますが、山間部のスギ花粉の飛散は平野部より1カ月くらい遅れることもあります。平野部で花粉が飛び始めたころ、山の方はまだ大丈夫ということも。逆に、平野部では花粉が落ち着いたからと山に出かけると、まだ飛散最盛期でアレルギー反応がひどく出る場合もあります。花粉の飛散の時期をうまく避けて登る山を設定するには、気象情報の花粉予報を利用するとよいでしょう。気象協会のウェブサイトでは、『花粉飛散情報』が発表されています。週間花粉飛散情報もあるので、これを参考にして行き先を決めるのもよいと思います」

低山などではスギやヒノキの人工林を歩くことも多い(奥武蔵)
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プロフィール

粕谷志郎(かすや・しろう)

日本登山医学会所属、国際山岳医。専門は寄生虫・アレルギー学。1973年岐阜大学医学部卒。岐阜大学医学部助教授、岐阜大学地域科学部教授、華陽診療所長を歴任、現在しずさと診療所内科勤務。日本アレルギー学会評議員、日本衛生動物学会大会長を務めた。1991年、気管支ぜんそくの学童を伴いモンブラン登山を行った。鈴鹿、揖斐、美濃、北アルプス、中央アルプスの山々を週1日ペースで登っている。

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