登山口でおにぎりをパクリ!は危険かも? 登山当日の朝食を考える

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登山の成否を決めると言っても過言ではないエネルギー補給。ヤマケイ新書『院長が教える 一生登れる体をつくる食事術』から、著者の齋藤繁さん(群馬大学医学部附属病院病院長)のアドバイスを紹介しよう。

文=齋藤 繁、写真=PIXTA

登山当日の朝食

登山に出かけるときは、早起きが鉄則。まだ暗いうちに布団を抜け出て、腹ごしらえもままならぬまま家を飛び出す人が多いのではないでしょうか。

できるだけ早く登山口に着いたほうがいいので、それはそれで構わないことなのですが、どのタイミングで朝ごはんを食べるのか――これは誰もが意識すべき重要なポイントです。

たまに登山口でおにぎりを頰張っている人を見かけることがありますが、この人は登山中に腹痛を起こしたりしないかと、余計な心配をしてしまいます。

といいますのも、運動直前に固形物を胃のなかに入れると、その塊が胃のなかでブラブラしてしまい、それによって腸管膜が引っ張られるため、お腹が痛くなることがよくあるからです。

そればかりでなく、登り始めると血液は筋肉のほうへ優先的に流れ、胃腸へ行く量はおのずと減少します。すると消化吸収の速度が遅くなり、いつまでも分解されないまま胃のなかにとどまっていることになります。これでは、せっかく食べたものがエネルギー源になりません。

ならば消化しやすいものを選べばいいのでは、と考えたくなりますが、そう単純なものではないのが人間の体の不思議なところ。登山直前に吸収の早いものを食べると、血糖値が急速に上がり、その上がった血糖値を下げるためにインスリンが分泌されます。これによって低血糖になり、筋肉のパフォーマンスが妨げられてしまうのです。

結論をいえば、朝ごはんは登山開始の1~2時間前に食べるのがベスト。東京や大阪などの都市部にお住まいの人でしたら、自宅から登山口まで電車やバスを乗り継いでちょうどそれくらいの時間がかかることが多いと思います。その移動時間を朝食の時間に充てるわけです。こうすれば、食べたものが登山口に着くまでに分解され、エネルギーが体に蓄積されます。

前夜に朝食を用意できなかった場合は、駅前のコンビニエンスストアでおにぎりなどを購入して、電車に乗ったらすぐに食べるといいのでは。ただ、昨今はロングシートの車輛が増え、ちょっと人目がはばかられるかもしれません。それを避けたいのであれば、より早起きをして出発前に食べるしかないでしょう。

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プロフィール

齋藤 繁(さいとう・しげる)

1961年、群馬県高崎市生まれ。群馬大学医学部附属病院病院長、群馬大学大学院医学系研究科麻酔神経科学分野教授、医学博士。大学生時代にワンダーフォーゲル部に所属し、国内各地で登山に励む。1992年、日本ヒマラヤ協会クラウン峰登山隊に参加し、高所登山に関する医学研究に取り組む。その後、山岳イベントの医療支援活動や一般登山者の健康管理に関する啓蒙活動などを行なっている。所属山岳団体は、群馬県山岳連盟、日本山岳会、日本ヒマラヤ協会、日本登山医学会など。

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