2024年、登山の好天を天照大御神にお願いしよう 〜初詣前に知っておきたい山の神仏の話③
2024年の登山はできるだけ好天に恵まれたい! そんなあなたは、天照大御神(アマテラスオオミカミ)にお願いするとよいでしょう。登山と縁の深いアマテラスについて紹介します。
文=太田昭彦、写真=PIXTA
太陽神・アマテラスの機嫌を損ねないために
アマテラスオオミカミ(天照大御神)は伊勢神宮のご祭神であり、日本を代表する神さまです。
ちなみに、伊勢神宮の正式名称は「神宮」です。神宮とは皇室ゆかりのご祭神が祀られたお宮のことです。現在は、鹿島神宮、香取神宮、明治神宮など「神宮」と呼ばれるお宮が多くありますが、当時は神宮といえば伊勢しかなかったので、神宮という名称でなんの問題もなかったわけです。ちなみに神宮の始まりは、約2000年前に五十鈴(いすず)川の畔にアマテラスが鎮座されたときとなっています。その後、いくつかの神宮ができたので、便宜的に「伊勢神宮」と呼ばれていますが、今でも正式名称は「神宮」です。
さて、そこに祀られているアマテラスは太陽神として、私たちの世界に光をもたらしてくれています。登山の際になによりもありがたいのは、やはり天気。そこで日頃から、アマテラスが祀られている神社などでお天気に恵まれるようにお願いをしておくと安心です。なぜなら、アマテラスが機嫌を損ねたら、世の中が暗闇に包まれてしまうことになるから。そのことを示す有名な話が天岩屋戸(あまのいわやと)伝説です。
ある日、弟であるスサノオの数々の悪さに嫌気がさしたアマテラスは岩屋に籠ってしまいました。その瞬間から世界は真っ暗闇となり、困った八百万(やおよろず)の神々が相談したところ、オモイカネノカミ(思金神)がいろいろと知恵を出します。しかしうまくい かず、アマテラスは岩屋から出てきません。最後にアメノウズメノミコト(天宇受売命)が裸で踊り出したところ、周りにいた男神がやんややんやの大喝采。
なにごとか、アマテラスが思わず岩戸を少し開いた瞬間に、力自慢のアメノタヂカラオノミコト(天手力男命)が岩戸を放り投げ、アマテラスを引きずり出したことから、世界は再び明るさを取り戻しました。
そして、アメノタヂカラオが放り投げた岩戸が戸隠(とがくし)山に当たり、戸隠山はあのような峻険な岩山になったと伝えられています。実際に登山に行ってみるとよくわかりますが、とにかく岩場や鎖場の多い山です。特に蟻の戸渡りと呼ばれる場所は、幅50cm程度の細い岩尾根を綱渡りのようにして進んでいかなければならない難所。でも、こんな地形になったのもアメノタヂカラオが岩戸を投げ飛ばしてこの山にぶつかったからだと考えると、緊張しながらもありがたみを感じながら渡ることができるかもしれません。アマテラスやスサノオなど、神話の神々が造りあげた山岳造形が、のちに山岳修験道の一大霊場になってゆくという一連のつながりに、戸隠山の持つ歴史の深さと重みが感じられますね。
そして、そのときに活躍した神々は戸隠各社のご祭神として今も登山や参拝に訪れた人たちを見守ってくれています。たとえば奥社にはアメノタヂカラオ、中社にはオモイカネ、火之御子(ひのみこ)社にアメノウズメが祀られています。
神話の世界で、それぞれの神が活躍した様子を思い浮かべながらお参りすれば、さらに興味深くお参りができ、ご利益も倍増すること間違いなしです。特に奥社は戸隠山の登山口にありますので、一日の好天を願ってから登山をすることをおすすめします。
*本記事は著書『山の神さま・仏さま 面白くてためになる山の神仏の話』(山と溪谷社刊)から一部抜粋・再編集して掲載しています。
プロフィール
太田 昭彦
1961年、東京生まれ。高校ワンゲル部時代に登山の魅力にはまり、高校卒業後は社会人山岳会に入会。岩・沢・雪とオールラウンドに活躍。ヒマラヤやヨーロッパアルプスの山々にも足跡を記す。登山教室・歩きにすと倶楽部主宰。日本山岳ガイド協会認定・山岳ガイドステージⅠ、埼玉山岳ガイド協会会長。