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天空のオベリスクに触れる 鳳凰三山周遊

地蔵ヶ岳、観音ヶ岳、薬師ヶ岳( 南アルプス)

パーティ: 1人 (Yamakaeru さん )

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行程・コース

天候

晴れ

登山口へのアクセス

マイカー
その他: 幾つかある鳳凰三山ルートの中で、今回は青木鉱泉を起点とする。カーナビには「青木鉱泉」をセット。途中の林道は一部を除き舗装道路。ただし、荒れている箇所があるので低速走行が必要。駐車場は2か所あり、相当の台数が停車可能。料金は1日750円(1泊1,500円)。トイレあり。夜間は料金を徴収していないので下山後支払う仕組み。ちなみに青木鉱泉の近くにある御座石鉱泉は燕頭山コースの登山口となっており、こちらの駐車場は無料(トイレあり)。

この登山記録の行程

青木鉱泉(23:24)・・・中道登山道入口(0:05)・・・御座石(2:17)・・・薬師岳(3:13)(仮眠~3:42)・・・観音岳(4:32)(日の出鑑賞~5:35)・・・鳳凰小屋分岐・・・アカヌケ沢の頭(6:21)・・・地蔵ヶ岳(6:30)(オベリスク休憩~6:55)・・・鳳凰小屋(7:23)・・・五色ノ滝(7:58)・・・白糸滝(8:24)・・・鳳凰の滝(9:13)・・・南精進ノ滝(9:39)・・・青木鉱泉(10:42)

コース

総距離
約16.9km
累積標高差
上り約2,359m
下り約2,359m

高低図

GPX ダウンロード KML ダウンロード

登山記録

行動記録・感想・メモ

鋭い矛先のように尖っていて遠くにあってもなお存在感のある巨岩「オベリスク」。大好きな山の一つ甲斐駒ヶ岳から見た鳳凰三山のオベリスクが、あまりにもカッコよくて、以来、強烈に記憶に残っている。
お盆休み最後の山をどこにしようかと地図を見ながら考えていた時に、その映像がフラッシュバックのように蘇ってきた。「よし、鳳凰三山にしよう」。決まってしまえば行動は早い。

鳳凰三山は、地蔵ヶ岳(標高2,764m )、観音岳(標高2,840m )、薬師岳(標高2,780m)の3つからなる山で、オベリスクは地蔵ヶ岳の頂にある巨大な岩の塊をそう呼ぶ。
高速を降りて青木鉱泉を目指す。鳳凰三山にはいろいろなコースがあるが、今回は、夏の涼を楽しむため、青木鉱泉を起点に名瀑が点在することで有名なドンドコ沢コースと中道コースを使っての周遊とする。

深夜に青木鉱泉に到着。お盆休みで登山者もいっぱいかと思ったが、意外に車は少なかった。これも新型コロナウイルスの関係だろうか。
車を停めて外に出る。
満天の星空に思わず感嘆の声がもれる。空を中央で分けるように、白く輝く天の川が流れていた。その周囲に高密度にちりばめられた星々。特徴的な星を線で結ぶと、夏の星座が幾つか確認できた。その中にお気に入りの昴を見つけた。こんなにはっきり見たのはいつ以来だろうか。街灯りから遠く離れた山の中で、月が出ていないこともあって、星を見るにはこれ以上ない好条件だった。

仮眠をとってから明け方に出発する予定でいたが、満天の星空を見て「登ろう」と決意する。折角なので山頂で日の出を拝もう。
当初は、ドンドコ沢から登るつもりでいたが、中道コースに変更する。理由は2つ。1つは夜間登山となったため、ドンドコ沢の滝巡りはやはり下山時の明るい時にとっておきたい。もう1つは、直近までドンドコ沢が土砂崩れで通行止めだったのと情報をインターネットから得ていたから。数日前に仮復旧したとそのページには書かれていたが、正直、どの程度復旧しているのかは定かではない。夜間の通行はさすがに危険と判断した。

中道コースの登山口を目指して林道を歩く。「どこまで歩かせるんだ!」とぼやきたくなるくらい延々と歩いた。林道の終点で登山口の看板を見つける。ライトで照らすと、「ドンドコ沢通行止めにつき注意」と書かれた張り紙があった。やはり通行止めなのか?
登山口からは尾根伝いに登り、最初の頂となる「薬師岳」を目指す。深い森を抜けるため、ライトの灯りだけが頼り。ためしに消してみると、一瞬で深い闇に包まれて自分が立っている足元さえ視認できない。人の気配を察してか、時折、鳥なのか獣なのかさえよく分からない鳴き声が聞こえてくる。登山をしない人からすれば、たった一人で夜間登山なんて全く理解しがたい行動に違いない。
夜間登山は、先日の伊吹山に続いてとなるが、伊吹山の時は纏わりつくような湿気に悩まされたが、今回は比較的カラッとしているため、身体への負担が少なくて有難い。一方で、森をひたすら進むコースで、一体、今どこにいるのか位置が把握しづらくて困った。登山では、距離感がつかめないと心理的にもかなりシンドイ。また、登山道を見失わないように慎重さを優先すると、どうしてもスピードは乗らず、思ったほど歩いていないことが分かると更に疲れがドッとやってくる。個人的にはこのような登山を苦行と呼んでいる。そもそも鳳凰三山(周遊)は、一泊二日の行程が基本。全体的に大した距離ではないが、標高差があるため日帰りで周遊するにはそれなりの体力を以て挑む必要がある。苦行を好むぐらいじゃないと務まらないのかも知れない。

スーッと冷気を含んだ風が頬を撫でる。顔をあげるといつの間にか満天の星空が頭上に戻ってきていた。「おしっ、森林限界!」。
待ちにまった森林限界点突破。ここまでくればもう薬師岳山頂の直下。周囲は、一変して巨大な岩が立ち並ぶアートな世界に突入していった。
振り返ると登山開始時にはなかった三日月が空にのぼっている。韮崎市街だろうか、地上では星とはまた違う美しさで街灯りが揺らめいていた。遠くに目をやると、闇の中に大きな山影が見える。成端な三角形。云わずと知れた富士山だ。
岩の上に立つと、「ビュービュー」と冷たい風が吹いていた。大汗をかきながら登ってきたので、熱を奪われて身体が震える。寒い。
日の出を目指して登ってきたが、どうやら勢い余って早く着き過ぎてしまったようだ。
ゆらめく夜景でも眺めながら待とうかとも思ったが、あまりにも寒かったので岩から降りて、寝て待つことにする。寝ると言っても、風よけになる良い場所が見つからなかったので、カラマツに身を寄せ登山道の脇にザックを背負ったままゴロンと無造作に横になる。
地面のヒンヤリとした温度と土の匂いが伝わってくる。まるで過酷なレースの中、倒れこむように眠っているTJARの選手のよう。疲れたらその場で眠る。昔、ロングトレイルを歩いた時はこんな感じだったと思い出す。長時間やるものではないが、直接、自然に触れる感じが心地よい。ただ、もしもこの時間に誰かが登ってきたら、明らかに異常な構図に「暗闇の中にいき倒れ」と確実に腰を抜かすだろう。お互いのためそれだけは避けなければならない。笑
高速道路での長時間移動と寝ずの夜間登山で疲れていたのか、短いながらも爆睡してしまった。体温を下げないようにザックを背負ったまま眠っていたが、さすがに外気に熱を奪われたようで、寒さで目が覚めた。(長時間は低体温症に要注意。シバリングが一つのサイン。自分も非常時のツエルトは常備しているが、きちんと野宿する際は、装備を正しく使って、防寒以上に外気や地面に対しての放熱対策が特大切)
30分ほど休めただろうか。体力回復には十分な時間だ。それでも日の出にはまだ時間が有り余っているので、そのまま観音岳まで移動することにした。どうせなら鳳凰三山最高峰の観音岳で日の出を迎えよう。睡眠をとって元気百倍。
薬師岳から観音岳へは砂礫の稜線が延びている。視界を遮るものはなく、歩いている間も街の灯りが綺麗に見えていた。頭上には満天の星空。この上ない贅沢な縦走だ。やはりこの時間帯に登ってきて正解だった。
空か徐々にしらじんできた。同時に、奥秩父連峰のシルエットが赤く縁どられていく。この時間帯は一分一分がドラマティックで美しい。
観音岳へ到着。
日の出までにはまだ30分以上あるので、岩の上に腰を下ろしてのんびりと空の変化を楽しむ。10分程で周囲が視認できるほど明るくなってきた。
座った岩の横にはピンク色の花が沢山咲いていた。「タカネビランジ」。タカネビランジは、南アルプス周辺だけに分布する高山植物で、花の最盛期にはまるでブーケのように密集して咲き誇る。花の種類は異なるが、同じく岩稜地帯に咲くコマクサのように強さと美しさをあわせ持つ花だ。今も朝日を受けて、淡いピンクが一層可憐さを増している。
岩の上に立ってみると、薬師岳から観音岳へと歩いてきた縦走路が真っすぐに見えた。その先には、雲海の中に聳える日本のシンボル「富士山」。日の出前の静寂な風景に心が奪われる。
5時5分。奥秩父連峰の空を真っ赤に染めながら太陽がジリジリと顔を出してきた。強い陽射しが周囲にエネルギーを降り注いでいく。数分前までは肌寒かったのに、太陽の力は偉大だと思う。
振り返ると、北岳、間ノ岳の頂きがモルゲンロートで赤く染まっていた。今年の夏は山仲間と共に、テン泊をしながら北岳、間ノ岳、農鳥岳を巡るはずだった。悪天候で延期になってしまったが、せめて目の前のこの素敵な風景を仲間にも見せてあげたいものだと思った。
太陽が完全に昇りきったのを見届けて立ち上がり、360度をぐるりと見渡してから深呼吸をする。さあ、歩き出そう。今日も暑くなりそうだ。
鳳凰三山、残る山は地蔵ヶ岳。まずはアカヌケ沢の頭へ向かって、花岡岩の岩塔やカラマツの稜線を進んでいく。右手前方には鋭く尖ったオベリスク。さらに奥には甲斐駒ヶ岳が控えている。観音岳から見た薬師岳までの縦走路と富士山も絶景だったが、こちらにも甲乙つけがたい絶景が広がっている。
白い砂と岩の間に点在するように先ほどのタカネビランジが咲いている。全盛期に間に合ってよかった。
アカヌケ沢の頭から斜面を駆け下りて地蔵ヶ岳へ到着。ついにオベリスクの真下にやってきた。興奮してオベリスクばかりを取り上げているが、実は地蔵ヶ岳にはもう一つの名所がある。名前の由来にもなっているお地蔵さん。山頂付近には「賽の河原」と呼ばれる広陵とした砂の斜面があり、そこに何体ものお地蔵さんが並んで置かれている。山岳信仰で頂に仏像やお地蔵さんが置かれている山は多いが、これほどのお地蔵さんが置かれている所はそうないと思う。なんでも地蔵ヶ岳のお地蔵さんは、200年以上も前から「子授け信仰」の対象として置かれるようになったのだとか。「一体を持ち帰れば子が授かり、お礼に二体をお返しすれば子は健やかに育つ」との伝説が残っている。
さて、いよいよ念願のオベリスクにタッチの儀式。適当に登れそうな手掛かりを探して、岩山を登っていく。見上げるに大きいオベリスクだが、手掛かりはあちこちにあるので、意外に難なく登っていくことができる。
ある程度の高さで安定した岩場を見つけてゴール地点とする。もう、オベリスクのテッペンに手が届きそうだ。風が強かったが、汗をかいた身体にはちょうど良かった。甲斐駒ヶ岳がとにかく近い。日本三代急登の黒戸尾根。その険しさが尾根の輪郭からも見て取れる。山頂の手前には摩利支天。「また来いよ」と言ってくれているみたいだ。
鳳凰三山を巡り終え、下山モードに入る。中道の登山口にあった「ドンドコ沢通行止め」の張り紙が頭をよぎったが、予定通りドンドコ沢ルートを降ってみる。鳳凰小屋まで行けば何らかの情報が得られるだろう。
オベリスクの直下は、砂場の急斜面が続く。一歩踏み出すごとに足がめり込み、靴に砂が入ってくる。歩きにくいことこの上ない。まるで富士山の砂走りのようだ。
沢の音を聞きながら森を抜けていくと、小さいながら素敵な山小屋に到着した。鳳凰小屋だ。小屋の前には木製のテープがあって、山小屋のスタッフがちょうど遅めの朝食を取っていた。
「こんにちは」と挨拶をすると、気持ちの良い挨拶が返ってくる。「ドンドコ沢の通行止めは解除になったのですか?」と聞くと、「通行できるようになったというだけで、開通した訳じゃありませんよ」とのこと。「降りるのであれば十分注意して下さいね」と言われた。お礼を言うと、「折角だから水を飲んでいって下さい。美味しいですよ」と勧められた。縦走用にいつも以上に水は持ってきていたが、勧められるままに炊事場に行ってみた。沢の水を直接引いているようで、水道からは勢いよく水が流れ出していた。手を浸してみると、痺れるほどに冷たい。試しに両手で救って飲んでみると、なるほど美味い。かすかに甘味も感じる。二杯目、三杯目が止まらない。この瞬間、これ以上に美味しい飲み物はないと思った。
小屋のスタッフにお礼を言って先を進む。
降りの勾配が一気に増す。沢の音を聞きながら降っていく。ここから先は名瀑を巡りながら降っていく。ちなみに、ドンドコ沢というユニークな名前は、昔、修験者が山に入ると滝の音が「ドンドコ」と聞こえたところから来ているらしい。微笑ましい逸話だが、確かに降っていくと、ドンドコとも聞こえる力強い滝の音が時折聞こえた。
最初の滝は、一番楽しみにしていた「五色ノ滝」。登山道から少し離れて、50m程降ると大きな滝が見えてくる。一条に水が流れ落ちていて高低差もあり実に見応えがある。
滝の真下まで降りていくと、水しぶきが高く舞い上がっていて、そこに小さな虹がかかっていた。マイナス・イオンのミストがまた心地よい。
その後は、「白糸滝」、「鳳凰の滝」、「南精進ノ滝」の順番でそれぞれ趣の異なった滝を巡りながら降っていく。それぞれがちょうどよい距離感で分散しているため、楽しく登山ができる。ドンドコ沢もお気に入りのコースに登録しておこう。 :)

急こう配だった斜面が緩くなってきた。尾根を概ね降り切ったようだった。ここから先は谷沿いに水平移動で進んでいく。しかし、これがとにかく長い。
途中、護岸工事のため、一旦、川の反対側に渡り工事部分を迂回してまた戻る。工事車両を見て、もうゴールも近いのかと思ったが、完全に甘かった。更に川沿いを延々と歩き、青木鉱泉の看板が見えたときには正直ホッとした。
駐車場に戻りお昼ご飯を食べてから、着替えを持って青木温泉へと向かう。受付で駐車料金750円と入浴料金1,000円を支払い、楽しみにしていた温泉に飛び込む。下山後そのままお風呂に入れるなんて最高の幸せだ。しかも、時間が早かったためか、自分以外は誰もいない。贅沢にも温泉の独り占め。湯船に首まで浸かって、夜通し歩いた疲れをしっかり癒す。極楽ごくらく。

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みんなのコメント

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  • 暗闇からの夜明け 一瞬にして生まれ変わる瞬間ですね

  • ザイデングラードから朝日は見れましたか?
    みんなと行けなくて残念でした。

登った山

鳳凰山 地蔵岳

鳳凰山 地蔵岳

2,764m

鳳凰山 観音岳

鳳凰山 観音岳

2,841m

鳳凰山 薬師岳

鳳凰山 薬師岳

2,780m

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