行程・コース
天候
曇りのち晴れ
登山口へのアクセス
マイカー
その他:
滝沢登山口(たきざわとざんぐち)駐車場は、冬季通行止めにつき注意。前回は役場の駐車場をお借りしたが、今回は、滝沢(たきざわ)グラウンド駐車場を利用させて頂く。
登山口(林道入口)まで近く、トイレもある。20台程度で無料。緯度経度(37.030021 139.394098)。
この登山記録の行程
滝沢グラウンド駐車場(06:42)・・・駒ヶ岳登山入口(06:47)・・・滝沢登山口(07:13)・・・水場・・・駒の小屋(09:23)・・・会津駒ケ岳(09:37)・・・中門岳(10:30)(昼食~10:46)・・・会津駒ケ岳・・・水場・・・滝沢登山口(12:50)・・・駒ヶ岳登山入口・・・滝沢グラウンド駐車場(13:14)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
懐かしの地「桧枝岐村」へ久しぶりにやってきた。
満開だった桜も峠を越えてまた一つ季節が進んだと感じていたが、花冷えのシーズンだけあって、先週末から再び寒波がなだれ込み東北では雪が降ったという。その積雪情報を聞いて、まだチャンスは残っていると会津駒ケ岳へとやってきた。
会津駒ケ岳は自分が好きな山の中でも三本の指に入る山で、花のシーズンも素晴らしいが白銀の世界も一度は経験してみたいと思っていた。
車を出ると、身震いするほど空気が冷え切っていた。それでも、息が白くなる程ではないため、手袋以外はオールシーズンのいつもと変わらぬ軽装で挑む。
生活道路から外れ林道を登っていく。
林道に入った途端、路面には積雪がみられるようになった。林道脇の沢には勢いよく水が流れている。会津の豊かな自然を象徴するかのような豊富な雪解けの水。透き通っていて表面がキラキラしていた。
途中で林道を外れ、ショートカットで直接登山口手前まで斜面を進む。
先行者がアイゼンを装着していたが、自分はもう少し様子見することにしてそのまま登ることにする。
滝沢登山口に到着。名物の見上げるような階段が出迎えてくれる。最初の洗礼。この階段を見ると、会津駒ケ岳に来たと感じる。
会津駒ケ岳は標高2,133m。登山口の標高が1,075mなのでその差約1,000m。標高差としてはさほどでもないが、尾根沿いに休みなく続く急登はそれなりの健脚でないと辛い。一方、山頂周辺の稜線では池塘が点在する広々とした緑が広がっていて、まさに天空の楽園となっている。
寒波でしっかりと雪面が締まり安定していた。その上に昨晩のものと思われる新雪がふんわりと積もっていた。正直、この季節にパウダースノーが楽しめるとは思ってもいなかったので、歩くたびに舞う雪の結晶を見てテンションが上がらない訳がない。
「ぎゅっ、ぎゅっ」と雪を踏みしめながら登っていく。壁のような斜面を越えると次の壁が現れる。結局、アイゼンの装着タイミングを逸してしまったが、降りはさすがにアイゼンがないと危険な斜度だ。
この時点でも1m以上の積雪があると思われ、標識は全て雪の下。正確な位置は不明だが、水場と思われる付近で小休止をとる。水場も当然、今は雪の下になっているが、ここの水は手がしびれる程に冷たくて美味しい。コースから外れて数10m降る必要はあるが、特に夏場は最高の山の恵みなので、ぜひ味わって欲しい。
ちなみに、水場ポイントでようやく山頂までの半分となる。あまりの辛さに「まだ半分もあるのか?!」と思う方もいるかも知れないが、しかし、ここまで来れば急登にも勝ったも同然。ここから先は植生の変化とともに斜度が緩み、徐々に景色が開けてくる。
進んでいくと右手側に会津駒ケ岳の山頂が見えてくる。夏場であれば、緑の中に木道が延びている、まるで絵画のような風景が楽しめるが、一面純白もまた格別だ。
森林限界を超えて、完全に遮るものがなくなった。冷たい強風が濃い霧を運び、先ほどまで見えていた山頂がすっぽりと覆い隠されてしまった。そろそろ駒の小屋も見えるはずだが、どこにあるか見当が付かない。休憩していた女性が「これでは山頂に行けないかも」と心配そうに話していた。雪山の条件としてはこの程度の風は大した部類には入らないが、霧で先が見えないと確かに不安が大きくなるだろう。「大丈夫ですよ、行けますよ!」と声をかけてあげるとにっこりと笑っていた。無責任な励ましではなく、天気図から判断しても回復傾向にあり、徐々に風も霧もおさまるはずだ。
そこから数100m程進むと、雪駒の小屋に到着。
冬季休業中で、主のいない小屋は建物の半分以上を雪の中にひそめ埋まっていた。会津駒ケ岳のポスター写真にもよく選ばれる小屋前の大きな池塘も雪の下だ。
小屋を目印に右へと折れて山頂を目指す。
広い雪原の先にこんもりと大きなピークが見えた。頂というよりは丘のように見える。
斜面をゆっくりと登る。見上げればいつの間にか、頂の上には青空が広がっていた。
「やっと来たか」と口元に微笑みが浮かぶ。青空到来。
山頂に到着。
山頂には柱のような大きな標識が立っていたが、頭がかろうじて雪の上に出ている。会津駒ケ岳の「会」という文字だけが確認できた。そこから山頂付近の積雪は、2m程と推察できる。
登ってきた方を振り返ると、正面と右側にはいまだ雲が残っていたが、左側は完全に視界がクリアーになっていた。左を向くと、波打つ龍の背のように那須連山のシルエットが見えた。先日、男鹿岳から見た那須連山とはまた趣が異なるが、この角度もカッコいい。そこから右へと視線を移していくと、男体山(お父さん)と女峰山(お母さん)を中心に日光一家が見えた。そして、さらに右へといくと拳を突き上げたような日光白根山も見えた。ごつごつした荒々しい山容が魅力的だ。空気が澄んでいるせいか、細部までよく見渡せる。
真新しい雪に太陽の光が反射して眩しい。今日は日焼けで真っ黒になりそうだ。
すーっと、滞留していた雲が風に流されて大きく動く。と、そこに鋭く尖った二つの頂が頭を出した。真っ白な頂。それも成端な双耳峰。見間違うはずはない。尾瀬名峰の一つ、燧ヶ岳だ。雲海に突き出る姿があまりも神々しくて言葉を失う。一瞬、見とれてしまい、慌ててシャッターを切る。
波間を進む船のように、スーッと雲の海に沈んだかと思えば、再び姿を現す。繰り返しているうちに、ベールがはがれるように徐々に全容が現れていく。なんてドラマティックな演出だろうか。
その燧ヶ岳の向こうには尾瀬がある。会津駒ケ岳がそうであるように、きっと今頃は、雪原のみが広がる静かな佇まいに違いないが、雪の下では既に春の準備が始まっている。厳しい冬を経て、あと2ヶ月もすれば水芭蕉のシーズンを迎え、それを合図に色とりどりの美しい花が咲き誇る。想像するだけで胸が躍る「遥かなる尾瀬」。厳しさと美しさが凝縮された自然の宝箱だ。
雲が大きく動きついに燧ヶ岳が姿を現した。
会津駒ケ岳から燧ヶ岳まで延びる縦走路。以前、その縦走路を歩き、燧ヶ岳を越えて尾瀬に入ったことがある。とにかく歩いた日だったが、忘れがたい特別な一日の想い出になっている。
休憩をとり、視線は中門岳へ。
たおやかな峰が続いている。こんなに素敵な雪原が広がっているのに、ほとんどの登山者は駒ケ岳で折り返してしまい、中門岳まで足を運ぶ人はあまりいない。今も一本のスキーのトレースがあるだけで登山者は誰も踏み入っていないようだった。勿体ない。もちろん行かない手はない。
深いところで膝下30cm程の積雪があったが、パウダー状なので全く苦にならない。むしろ雪をかき分けて進むのが楽しくて仕方がない。このシーズンにこんなにラッセルが楽しめるなんてハッピーだ。
途中でバックカントリーのスキーヤーに追いつく。その先は誰のトレースもない完全なる白銀の世界。小さくアップダウンを繰り返しながら雪原を進んでく。振り返ると大きな雲が空を覆うように湧き上がっていた。白い雪と雲に、対照的な空の青さが際立つ。自分の歩いてきた足跡が、ピークの向こうまで続いている。雄大な風景に溶け込み、自然の一部として佇む。まさに至福の時だ。
一番遠くに見えていたピークに立つ。GPSを確認するとちょうど中門岳の山頂だった。
見晴らしの良い場所に腰を下ろして昼食をとる。興奮していてすっかり忘れていたが、気が付けば音が出そうなくらいお腹が空いていた。持ってきたおにぎりと菓子パンをぺろりとたいらげる。荷物を減らすためにストーブとコッフェルを置いてきてしまったが、こんな絶景が待っているなら、コーヒーを淹れてまったりしたかったと後悔した。
急登の試練を越えて、汗をかいた者だけが許される天空の楽園。ますます会津駒ケ岳に魅了された一日だった。