行程・コース
天候
晴後曇/晴れ
登山口へのアクセス
その他
その他:
扇沢から黒部慣光ルートで室堂へ上がる
この登山記録の行程
室堂(8:15)浄土山(9:15)龍王岳(9:50)鬼岳(10:20)獅子岳(11:05)ザラ峠(11:45)五色ヶ原(12:20)鷲岳(12:50)鳶山(13:35)鞍部(14:10)幕営2,430m(14:45/4:20)越中沢岳肩(2,540m/4:55)鞍部(2,365m/5:25)P2,482(5:35)木挽山(7:45~8:20)ヌクイ谷(9:30)平ノ小屋(12:45)黒四ダム(15:30)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
バスは予定より早く扇沢に到着してトロリーの切符売場に1時間以上も並ぶが、切符入手済みの人が2階の改札口へ上がって行くので落着かない。
如何にか始発バスに乗って黒部ダムで下車し、提頂をケーブル乗場へ急いで最初の箱に収まる。「料金が高い」と随分の間敬遠していたのでこのルートは初めてだが、大観峰からの眺めは正に名前の通りで、針ノ木岳から黒岳に至る後立山の峰々が輝かしい朝日を浴びてどっしりと黒緑色に連なっている様はなかなか見応えがする。直ぐ裏手には樹に覆われた黒部丸山が在って、「黒四ダム直下から、ガラガラの御前谷を遡れば簡単に頂上に立てそうだ」と、新しい発見もする。
室堂の建物の外に出ると明るい陽が満ちている。これから歩こうとする人や、身近に迫った北アルプス三千m峰の迫力ある岩肌を眺める楽しげな人々が溢れ、長閑だが活気のある雰囲気が広場を席巻している。石畳の道から浄土山へ向かう。
道の両側には花を付けた高山植物も多く、周辺を散策するだけでも楽しい1日を過ごせそうだ。「俗塵の舞う室堂なんて」と半ば馬鹿にしていたのだが、思いの他好い所だ。徐々に傾斜が増し、岩の間を急登すると1時間程で浄土山へ着き、「調子は好いぞ」と満足しながら草の原で一本立てる。
湯川谷源流の崩壊の激しい赤茶けた崖の上に五色ケ原がゆったりと横たわり、その上には槍ケ岳の鋭鋒が黒く遠く静かに座している。右手には黒部五郎岳と目立ちたがり屋の笠ケ岳が鎮座して、写真で見慣れ親しんだ北アの夏の大展望が広がる。今回は好天が見込まれ、学生時代以来の五色ケ原なので、「好い写真を物にしよう」とニコン(1.5kg、35~100mm)を持って来たのだが、電池が消耗していて2枚程撮るとシャッターが下りなくなって慌てる。
小鞍部の先の龍王岳へは踏跡が続いていて一登りでガラガラの山頂に着き、這松とガレ場を南下して登山道に戻る。鞍部へ急降下して途切れ勝ちな薄い踏跡を鬼岳へ向かって登り、ガラ場から這松を乗り越えて頂上に立つ。トウヤクリンドウが多く、黄花シャクナゲも僅かに咲き残っている。
草原から尾根を下ると急な雪渓の上に出て迂回を余儀無くされ、ルンゼに逃げて下り這松を漕いで登山道に出る。ここから一汗掻くと、夏の太陽に焼かれたモワッと暖かい獅子岳の頂上に出る。五色ヶ原と木挽山を眺めながら2本目を立てる。
ザラ峠までは以外と長く、熱い太陽が照り付ける中をしんねりと歩く。峠では、弁当を広げて寛いでいる2組のパーティーと挨拶を交わす。五色ケ原へは緩い登りだが、次第に足が重くなり、太陽との我慢比べみたいな気分に陥る。原の北端に登り着き、見捨てられたヒュッテと下方のテント場を見遣って木道をもう一段登ると高山植物の緑に覆われた柔らかい円丘が視界一杯に広がり、カメラの腕が疼く。山荘の前で大休止して食事を摂る。
缶ビールを買い、這松の間の木道を進んで雪渓の脇でザックを下ろすと、想像していた如く雪渓の下端には雪融け水が流れており、今日の炊事と明日の飲料水の目処が付いて大安心する。鷲岳の斜面にへばり付く様に残っている雪渓を辿って頂上に立ち、下りでは、好い気分になって久し振りのグリセードを遣る。
本来なら3lの水を確保する処だが、「明日は半日行動すれば沢に下り着く事が出来るだろう」と、2lの水筒を満タンにして鳶岳へ向かって登り始める。大きな雪渓が残っており、その下方には五色ヶ原の緩い地形が広がって至る所に水が溜まっている。浅くて池と言える程の物ではない筈だが地塘と見紛うばかりで、光を反射して白く輝く水面は心安らぐ風景である。その廻りを山荘泊りの親子連れが嬉々として歩き回っている。
薬師岳の方から3人、4人、8人と縦走して来る。大部分が男性1~2名の護衛(?)付きの中年女性パーティーでスゴ小屋泊りだそうだが、若い単独の男性は「太郎小屋から来た」と言う。
鳶山を越えると、緑の裾をゆったりと広げた越中沢岳が姿を現わす。背後にはスゴノ頭から薬師岳へ膨大な塊が連なっており、かつて歩いた道を目で辿ると改めてその長さを思い出し、「能く1日で歩いたものだ。やはり若かったのだなあ!」と懐かしさが込み上げて来る。空気が綺麗な上に絶好の天気で越中岳の頂上は直ぐ近くに見えるが、「あの山頂まで一歩一歩稼ぐのか」と思うと長い。
乗越まで下る頃には疲労が大きくなる。夜行バスで2人分の席を占めて横になったとは言え、眠ったのはほんの数時間だろうからやむを得ない処だ。鞍部の直ぐ下には雪渓が残っており、「水は手に入るし、ここいらで泊りたいなあ」と心を動かされるが、如何せん、幕営用の平地が無い。木陰で休んで気力を盛り返し、越中沢岳へ登り出す。
歪性の針葉樹が途切れて這松帯へ変わる境目には青々とした草原が広がっている。越中沢岳の頂上直下には小さい雪渓が残っており、「頂上も踏みたいし、雪渓で幕営すると水の心配も無いなあ」と思いながら鳶山から下って来たのだが、「木挽山へは肩まで下って尾根に入り込むのだから、無理して頂上まで登る事も無いなあ」と妥協する。
少し気が退けるが、這松の間の気持ちの好い草原の一角を幕営地と決め、這松の枯枝を支柱にしてツェルトを張る。靴を脱いで素足になると、柔らかい草の葉のひんやりとした感触が心地好い。まだ陽は高く、暑い陽射しを避けてツェルトの蔭で炊事を始める。黒部川の向こうには、針ノ木岳等々の後立山の峰が午後の光を受けて再び存在感を強めている。
食事後、一寸した失敗を遣らかす。風が出て来たのでコンロをツェルトの中に移して外を片付け、炊事の下敷きに使った新聞紙を中に放り込む。一呼吸おいてツェルトの中が一瞬明るくなった様な気がするが、暫くして「そろそろ中に入るか」と顔を突っ込むとツェルトの底に穴が開いている。「さては、新聞紙が燃えた光だったか」と気付く始末だ。20年来使っていたツェルトを更新し、今回が新品の始めての出番と言うのに、「俺もドジだ」
夕方、人の声が聞こえるので顔を出すと草原の下の方にテントが見える。また、自分が目星を付けていた山頂直下の雪渓にも2つ目のテントを見出す。
出発体勢を整えるが這松漕ぎをするにはまだ暗く、足元が明るくなるのを暫く待ってから歩き始める。30分程で木挽岳への分岐点の肩に着き、一息入れる。草原には、朝の水平な光を受けて出発の準備をしているテントが明るく輝いて見える。2lの水で夕朝の炊事と今日1日を持たせるべく節約した所為か、妙に喉が渇く気がする。
越中沢岳の肩から未知の尾根に踏み込む。這松と岩の尾根は下りと雖も侮り難く、潅木と草付の境目を拾って進む。途中で赤布を発見し、「ここにも同好の士が居たか」と心を強くする。鞍部の小雪渓を越え、這松の尾根を登り返す。這松の生え様は様々で、踵位の浅い所もあれば体が埋没する程に茂った所もあってなかなか手強い。
必死の思いで這松の樹海の下のP2,482mに達し、大息を吐いて休む。木挽山は左手下だが、前方の尾根の先には前木挽山(一部の地図に記載されている)が在り、出来ればピストンしたいと思っていたのだが、木挽山頂へも予想より時間を喰うだろうし、沢筋への下降も楽観出来ない。黒四ダムの最終バスに乗るのを大前提に黒部湖で岩魚釣りをする事を考えると、今の時間ではギリギリと言う処で、体の疲れを考えると欲張る自信は無く、山頂で大休止して体力の回復を期す。
覚悟して再び這松の海へ踏み込む。暫く行くと海は浅くなり、草原が現われて思わず顔が綻ぶ。足取り軽く下ると広葉樹と笹の尾根へ変わり、切開きの痕跡が残っている。小さい乳白色の虫が無数に止まっている木を騒がすと一斉に飛び立って空中を満たし、呼吸すると鼻の穴から吸い込みそうだ。
鞍部からほんの少し登って木挽山の西端に達し、二重山稜状を東へ行くと小さな池畔に出る。対岸が山頂だが、途中には針葉樹林が密生して立ち塞がっており気が重い。「ここまで遣って来たのだから」と気力を振り絞って樹林の中に入り、樹を押し開いて進み、砂岩と三角点の山頂を踏む。
地図を睨みながら、ヌクイ谷の二俣へ落ち込む尾根を狙って下降を始める。好天で迷う心配は少ないが、道の無い原生林の中では気が抜けず、二俣から僅か上流の左俣へ下りて「やれやれ」と安堵する。
岩床の沢で、下降すると直ぐに滝に出合い、5m程の段差に梃子摺って「無事に湖畔まで下降出来るのだろうか」と前途の不安を大きくするが、右岸の崖を慎重に降りて二俣に出る。川原にごろごろしている大岩を巻いたりして時間が掛かるが、案に相違して順調に下降する。
流れは清く如何にも岩魚が居そうで、先の見通しが付いた処で竿を取り出す。しかし、澄んだ水が嘲うかの如く全く当たりは無く、暫く下降すると釣人にも出会う。
ヌクイ谷の黒部湖への流入点で期待のルアー(スプーン)を投げても空振りで、砂州の釣人2人は黙して語らない。釣果が無いまま釣りを切り上げて平ノ小屋へ向かい、渡し場の石段に再会する。
ここから黒四ダムまでは3時間の湖岸歩きで、最終バスの時間に追われてせっせと歩く。






