行程・コース
天候
曇り、午後から霧雨ときどき小雨。風はなし。涼しいというより急に冷え込んだ体感温度。
登山口へのアクセス
バス
この登山記録の行程
08:10〜東日原バス停をスタート
08:53〜天祖山登山道(ハタゴヤ尾根)取り付き
09:19〜古木柱(co950m)から北面探索、往復して戻る〜09:32
09:35〜2本目の道標(co990)〜09:48
10:00〜2本目の道標から旧日原雲取道に入り、崩落地点の通過〜10:19
10:41〜孫惣谷に降り、来た道を引き返す
11:12〜九十九折をたどりハタゴヤ尾根に戻る(雨量計の50m上)〜11:26
12:40〜籠堂(社務所)手前の、欠けた古道標から北面に向かう
/天祖山北尾根の下降/
12:53〜奥多摩工業の「立入禁止」柵に当たる(co1600)〜13:01
13:02~天明神
13:11〜石灰採掘場のてっぺんを通過する
13:15〜石岩神社〜13:21
13:26〜立岩神社〜13:44
15:05〜奥多摩工業の敷地内に降りる
15:38〜奥多摩工業天祖事務所付近〜15:53
17:01〜東日原バス停フィニッシュ
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
2週ぶんのレポートを未だupしていないが、先に本日歩いたハタゴヤ尾根の北面をレポートする。天祖山エリアの記録といえば南面のいくつかの尾根が定番で、裏参道を除く北面の記録を目にした記憶がない。
古くからの山岳信仰の場が、近代に入って石灰の採掘現場として侵食される。信仰の象徴である「岩」をめぐって、様々なせめぎあいがあったに違いない。なにか遺っているはずだと仮説をたててハイキングに臨んだ。
果たして、採掘現場から引っ越しを余儀なくされた神様や鉱山の安全祈願の神様など、たくさんの祠を見かけた。山中でこれほど手をあわせたハイキングも珍しく、祠の密度では奥多摩随一だろう。
概略は本文を、詳細は写真のキャプションを参照。
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〇 天祖山と「立岩」
すでに採掘で跡形なく位置さえ定かではない立岩(写真1)は、かつて「トボウ岩・稲村岩・立岩」の、日原名物のひとつだったらしい。
『日原を繞る山と谷 (山旅叢書)』(真鍋健一著、朋文堂、昭和17年)によれば、立岩はランドマークであり遥拝される岩だったとある。
― この立岩は、立岩山≪振り仮名=タテイワザン≫といはれ、天祖山以前に昔より信仰の対象となってゐたものである。(P113)
同時に、立岩は戦前まで天祖山登山の重要な中継地点だったと推測される。同書の略図(写真2)(P119)にはゴクウショ(御供所)から西の立岩をへて籠堂(現在の名称は社務所跡)に上がるルートを「裏参路」としていて、本文中では次のように紹介している。
― ……イヨ/\裏参道の急登となる。濶葉樹林に蔽はれた鬱蒼たる、実に垂直そのものゝ様な急坂を獣の恰好で四ツ這ひになって、木の根岩角に助けられつゝ、喘登の労苦三十分で立岩の基部に至る。……その頂に天明神社の小祠が奉られてある。(P112)
話はこれで終わりではない。
別に「立岩みち」の項があり(P118から)、略図のとおりハタゴヤから立岩に至る「旧径」として記述されている。
― この小径は、一昔前までは、天祖山関係にかなり利用されたものださうである。実際歩いてみると、表参道の登行より、この道の方が、はるかに楽で、時間的にもセーブされる処が大きい。
そのまま続けて、
― しかし、最近では殆ど利用するものがないので、処々中断してゐて余程センスを働かせて探さなければ、迷ひ込むやうな個処がある、……しかし百年も昔の小径を、今は利用してゐないからといって、無意に葬り去る事の出来ない感激にかり立てられて、こゝに記述しておく次第である。
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これまで立岩の話を見聞きしたことがなかった。奥多摩に通うハイカーでも知らない人は多いのではないか。もう元に戻ることはないが、かつて孫惣谷右岸に存在した道の記録とともに、長々引用した。
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〇 ハタゴヤから立岩への旧径跡
見つけられなかった。そもそもハタゴヤの位置がはっきりしない。現在ではco950m付近の古い木柱が立つ平場をそう呼ぶらしいが、昭和7年の陸測図によればco900~920のあいだかと思われる(写真2-2)。同図の誤差を考えても標高差がありすぎる。さらに付近の北面は植林されており手がかりがまったくない。
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〇 ハタゴヤ尾根から孫惣谷への径路
上下2本あるのが確認できた。現代の道標のあるco990付近で、尾根の左にまわりこむ表参道とは逆の、右に続くのが水道局の歩道の「下の入り口」となる(写真8)。ただしこちらは10分ちょっとたどると剣呑な桟道崩落地(写真13~15)に出てしまう。情報では「去年までは桟道は渡っていて、問題なく歩けた」そうだが。
雨量計の少し先のカツラの木が目印となるco1120から右に降りる道は整備されている。途中で九十九に降って下の道と合流し、対岸にハシゴのかかる孫惣谷に下りるのはかわりない。歩く必要があるならこちらの「上の道」を選ぶべきだろう。
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〇 天祖山北尾根~籠堂手前の廃道標から鉱山のてっぺんを回り御供所まで
古い道標の、切り落とされた左右(南北)の右へ進むと踏み跡があり、斜面を九十九に降る道の跡が続く。真鍋書によれば籠堂~立岩~ゴクウショと続くのが「裏参路」とのこと。引用したとおりかなり急な道だったようだ。
現在では鉱山のフェンスに行き当たってしまうので踏み跡に従い敷地の西(孫惣谷上流方向)へ回りこむ。道中はかつて立岩の頂上にあったという天明神をはじめとする多くの祠を見る。
だが立岩神社(写真62と63)を最後に道も踏み跡もはっきりしなくなる。傾斜が致命的ではなし、崖にも岩にも出会わないので苦労しながら降ったが、最後が鉱山の敷地内に下りてしまう点も含めておすすめはしない。表参道の籠堂から立岩神社までの往復はまったく問題がないはず。
後日、神様を同定するために鉱山の天祖事務所に電話した。教えていただいたあと、
― プレートには『御供所』『日原』と入ってますが。道がどういうふうについているか、ご存じですか?
と尋ねたが、
― さあ、わかりません。歩いたことがないので。
との返事だった。車で写真53まで上がり、そこから徒歩で参拝するのが鉱山職員さんのルートだと考えれば、道中の道の明瞭さもその先の道の消失も理屈が合う。立岩神社から孫惣谷に下りるならまるきりオフトレイルになる覚悟をすべきだろう。
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● メモ
奥多摩の山に慣れると「道がついているなら楽なもの」になってくる。登山道だと思って歩いているのは水道局の管理歩道なんだと以前にも書いたが、水道局は登り降りの労を少なくするように道をつけるから。しかし水道局が広く奥多摩の山林を水源林として管理するのは戦後から。戦前の、御供所から立岩への道、オロセ尾根から孫惣谷を雪隠≪セッチン≫橋で渡りハタゴヤまでなどはずいぶん急な登り降りだったらしい。
ハタゴヤから立岩までの『旧径』に興味をもち、かなり力んで探しにかかったが痕跡さえ見つけることができなかった。戦後に別の役割を与えられなかった戦前の道というのは、もう探すのが難しいのだろうか。
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(20231015 了)
フォトギャラリー:86枚
1.
在りし日の立岩山と、背後に天祖山。
『日本百景奥多摩渓谷 日原、天祖山ト立岩山』、たましん地域文化財団のデジタルアーカイブから。
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2.
ゴクウショと籠堂(社務所)のあいだに立岩が位置し、「裏参路」と説明の入る1942年の古書。
2-2.
明治四十年測図昭和四年要部修正測図、大日本帝国陸地測量部昭和七年発行の「五万分一地形図 秩父」から、日原川の孫惣谷出合い付近の「部分」。スタンフォード大学のデジタル公開情報から。
https://purl.stanford.edu/kd477pp1888
3.
お「おはようオルソくん。きょうのハイキングだが……。誰だこんなとこに吸殻を押し込む輩は。絶滅危惧種の吸い殻入れが置かれてるんだからちゃんと始末しろよ。おなじ喫煙者として許せん」
オ「………………」
4.
ハタゴヤ尾根=天祖山表参道の登山口に着く。現在も補修工事中。
この4年間の印象だが、尾根の取り付きはいつも「通行止めか工事中」。むかしの人は尾根末端の落ち着かないのを知っていて、上を回るように雲取道を付けたんじゃないだろうか。もちろん始点と終点の高度の問題もあるだろうが。
5.
ハタゴヤ候補地点に着く。古木柱・火事注意の標識・写真の右外に大岩。登山道は尾根の左に回っていくが、
6.
写真2の「旧径」を探しに右=北面へ。
7.
植林の中をただウロウロしただけ。写真左上に自然林と植林の境目があり、セオリーどおり狙ってみたが、150年前の道は見つけられなかった。
8.
尾根の登山道に戻る。現代の道標の1本目はハタゴヤ近くにあり、写真は2本目。
9.
備忘録。北面に平場あり、こちらがハタゴヤでもおかしくはない。
10.
写真8の道標にしたがわずまっすぐ北面の山腹道に入る。
11.
石積み。道のかたちがしっかり残る水道局仕様。
12.
(やっぱりね)
13.
斜面の崩落と古い桟道。チェーンスパイクをつける。
14.
落ちた桟道。
15.
通過した難所を振り返って。地面が黒くなっているのは記録者が踏み固めながら通過した跡。
16.
写真13の桟道にたどり着くまで20分かけている。
17.
道は続く。
18.
振り返って。
19.
20.
ポールサインがあり、
21.
上部へ九十九に道がある。これも水道局の仕様。
22.
直進する。ポールの分岐以降は道が良くなる。石積みも比較的新しいと思う。
23.
階段と規模の大きな石積み。上部にも同様の石積みの堰堤がある。
24.
25.
孫惣谷を見下ろし、対岸の同高度に林道を見る。
26.
孫惣谷に下りる。対岸に林道へ上がるハシゴがかかっている。
27.
2倍ズームで。
水道局の仕事道が現在では「林道からハシゴを降り孫惣谷を渡り、右岸の山腹道をだどってポール地点で九十九に登り、ハタゴヤ尾根に上がる」のだとわかった。
ここで引き返す。
28.
写真20のポール地点まで戻り、写真21の九十九道を上がっている。
29.
小尾根に上がると、上はその続きがない。サインは下流方向の山腹道に導いているので従う。
30.
31.
備忘録。旧径跡?
32.
ハタゴヤ尾根に戻る。
33.
戻った地点で尾根の上方向。右から上がってきた。カツラですよね?目印地点に多い木だな。
34.
尾根下方には雨量計。休憩をとりチェーンスパイクをはずす。
35.
大日天神。いちおう北面(右)を探るも、なにも見つけられず。
36.
備忘録。ぽつんと放置された酒瓶が道の分岐だったことがある。それも、なぜか一升瓶ではなく洋酒の瓶。
37.
P1355地点、林班の標識あり。ここも周辺をウロウロしてみる。
38.
P1355から200mちょっとで破損した道標。銀色のテープがあり踏み跡が続くので北面に入る。
39.
シンプルに林業の仕事道のようだ。
40.
ハタゴヤ尾根に戻る。
41.
戻ったのはP1459手前の岩屑の露岩地点。撮影地点後方に祠あり。
42.
テープの多さに負けてやはり周辺をウロウロ。
43.
籠堂(社務所)手前の、左右が切り落とされた古い道標から北面に降りる。
44.
踏み跡あり。
45.
斜面にも九十九の踏み跡がはっきりついている。古書によればこのルートが「裏参道」。
46.
いったん降ったあとは採掘場のてっぺん方向への山腹道になる。道になっておりビックリ。
47.
窪には祠。
48.
鉄パイプの土留め。なるほど、奥多摩工業の道なんだと理解する。間伐材じゃなくてあまった鉄パイプを利用、か。
49.
サインも多い。
50.
この窪にも祠。ハイカーにとって崩落した窪は厄介の種だが、鉱山もそうなのか。「崩落は窪から」なんだろう。
51.
鉱山のフェンスに行き当たる。
52.
同時に足元には道しるべ。天明神?立岩神社?目がテンになる(古
53.
よろしくないことだが、写真51のフェンスは簡単に巻けるので中の様子を拝見する。ここまで車で上がってこれるわけだ!
54.
写真52の道しるべにしたがい進むと新しい祠。はじめは「天明神」かと思った。
※20231013追記①~奥多摩工業の天祖事務所に電話で問い合わせた。「白い石でできたのは天明神社」とのこと。かつて立岩のてっぺんに祭られていた神様だと、『日原を繞る山と谷 』にはある。
55.
その先で鉱山のフェンスに当たる。越えるために天祖山方向へ登り返すが、九十九の踏み跡がある。
56.
フェンスに当たるたびに折り返し、折り返してまた近づく、を繰り返す。
57.
鉱山のてっぺんを回りこむ。
58.
と、立派な祠がみっつ。立岩神社に着いたと思ったが、このあとの展開からするとひとつづつズレていると思われる。
※追記②~「みっつ並んでいるのは石岩神社」。
59.
場所が良い。
60.
お「オルソくん、いかにも立派な祠にいらっしゃる神様にお礼をしとこうな。立岩神社なんて検索をかけてもヒットしない。いま歩いているルートはレアなポケモンカードみたいなものだぞ」
オ「………………」
※追記③~繰り返すが立岩神社ではなく『石岩神社』。
61.
タワ尾根の展望を楽しんでから、なおも続く踏み跡をたどると、
62.
お「出た~また神様だ」
オ「………」
63.
大岩の横に鎮座するのだから、こちらが立岩神社ではないだろうか。すると手前のみっつが天明神か。
追記④~「おっきな岩かげにあるのは立岩神社」だそうだ。
64.
道はここでプッツリ途絶えてしまう。前方は岩で進めず降りの踏み跡はどうもはっきりしない。しかし写真52の道しるべに「御供所」とあるんだから道もあるはずだ。
追記⑤~事務所によれば「歩いたことがないのでもうわからない」そうだ。
65.
立岩神社周辺の道探しのあと、しかたなく頼りない斜面を降ることにする。ふたたびチェーンスパイクをつける。
66.
お「立岩様、ご加護をお願いします。オルソくん、マリア様はなにをしてるんだ?」
オ「………………」
67.
崖や岩場はないにしても。四苦八苦しながらの下降。
68.
やっと踏み跡に出る。後方=東は鉱山だと頭にあり、逆の西に進むがいつまでたっても折り返さない。そのままでは梯子坂のクビレあたりまで連れていかれてしまうので引き返す。
69.
強引に窪を降る。
70.
踏み跡に出る。こんどは御供所方向=東を向いて歩く。鉱山のフェンスに当たれば脇に踏み跡があるのではないかと気分を切り替える。
71.
窪に出るたびに道を探すも、いまたどっている頼りない踏み跡しかないようだ。
72.
73.
鉱山敷地手前の小尾根に回りこんだところで黒いコードが渡っている。はじめロープかと思ったが、触ってみるとコード。土留めの鉄パイプに黒いお助けコードって。いかにも鉱山会社のエリアらしい。
74.
コードは延々と下へ渡っている。危険な傾斜ではないのであくまでガイド。
75.
谷が見えてくる。
76.
遺物。
77.
ここに降りた。
78.
もう少し離れて着地点。申し訳ないことに鉱山の敷地内、北のはしっこ。
79.
すみませんすみません。
80.
どのへんに立っていたのかなあ、などと。
81.
御供所を過ぎ、大手を振って歩ける。
82.
備忘録。
83.
おなじく。
84.
おなじく。
85.
お「オルソくん、反省会だ。鉱山のてっぺんから天祖山に上がるのを逃したのは残念だった。天祖山に横から上がるって格好良くない?それとだ。マリア様の影が薄いいちにちだったなあ。息災でいらっしゃるんだろうか」
オ「………」
装備・携行品
| 【その他】 ラ・スポルティーバのウルトララプターⅡ(以下ほとんどモンベル)。タイツ・半ズボン・チェーンスパイク。メリノウール薄手にカンガルーヤッケ・ペツルのヘルメット・ブラックダイヤモンドのフルフィンガーグローブ。ザックはモンベルのアルパインライト30Lにヘッドランプ・スマホ(カメラ+GPS)・バッテリー充電器と予備電池・ココヘリ発信機・雨具上のみ・傘・フリース・ジャージ・ロールペーパー。ハイドレーションに水1.8L・コッペパンみっつ・カルパス・ナッツとドライフルーツ+塩。着替え一式とサンダルは奥多摩駅のコインロッカー。 |