行程・コース
天候
雨後晴れ
登山口へのアクセス
マイカー
この登山記録の行程
笹ヶ峰(1,320m、6:25)高谷池(9:20)火打山(11:05)影火打(12:00)嘉平治山(12:30)高谷池(15:00)弥八山(15:40)黒沢橋()登山口(16:55)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
GWの3日、4日と休養していると、連休後半の5日と6日は全国的に晴れの予報だ。「せめて1日は何処かへ出掛けたい」と焦って幾つかの候補を考えるが、結局、火打山へ日帰りで登る事に決める。高谷池ヒュッテに電話して「昨年よりも雪が少ない。下の方は山スキーは無理だ」との情報を得て、「軽くなって幸い」とスキー持参を潔く諦め、久し振りにピッケルとアイゼンを持って出掛ける。
4時過ぎに笹ヶ峰乙見湖の登山口の車中で目覚めると、雨が屋根を叩いている。再び眠り、6時過ぎに起きても小雨と風の荒天だが、取り敢えずおにぎりを食べて様子を見る。そのうちに厚い雲に切れ目が生じて青空が現れたりするので、「予報通り晴れそうだ」と出発する気になる。
所々に出ている道板と雪上の足跡を頼りにして雑木林の中を進み、小沢を左岸へ渡って適当に北上する。夏道が尾根の裾を右の方へ廻り込むと雪も多くなり、足跡が分散してはっきりしなくなる。スキーを背負った2人を追い抜き、雪の下から水音がする枝沢を右岸へ渡ると、もう一本左の沢の右岸を2人が登って来る。右岸へ渡って北上すると足跡が濃くなり、黒沢橋へ出る。
汗ばんだ体を休め雪融け水で喉を潤すが、沢沿いに流れる風は冷たい。橋を渡り、雪の上の足跡を辿って十二曲りを登り、黒沢山から南へ派生する尾根の上に出ると先行者数人に追付く。部分的に出ている夏道も直ぐに雪に覆われ、シラビソ等の大木の広い樹間をじっくりと登って行く。体は重いものの、雪は固く快適に歩く事が出来る。
傾斜が落ちて周りが開けると富士見平で、前方に黒沢山がこんもりと盛り上がって見える。その西斜面に高谷池ヒュッテへの道が踏まれている。黒沢山へ登って二千m峰を欲張りたい所だが、如何せん体力に自信が持てず、「火打山に登るのが第一だ」と自重せざるを得ない。山靴とスキーの跡が入乱れるトラバース道を、楽になった体にほっとしながら呼吸を整えつつ歩く。
斜面から離れる様に少し下り、樹の疎らな大雪原を緩く登って行くと、半ば雪に埋まり樹陰に隠れる様に建っている高谷池ヒュッテの前に出る。火打山は全く見えず、濃いガスが冷たい風に乗って流れてきて雪原に続く山裾が見え隠れする。
小屋の内外には数グループが居り、雪の段の先には小屋のトイレが在って有難く借用する。雲の動きは速く、半割丸太のベンチに腰を下して食事を取っていると山頂部が時々姿を現し、頂上直下の斜面に黒い人影がケシ粒のように小さく認められる。隣の女性グループの仲間が登頂を果して賑やかに降りて来る。予報通りに好転するのを嬉しく思い、山頂へ向けて腰を上げる。
小段を上がると天狗ノ庭の湖沼群が雪の下になっている。夏道は池を巻いて右の尾根の上に出て這松の間を行くようだが、恐々沼を覆う雪面の上を歩いて横断し、尾根の裾に広がる潅木帯の雪原を目指して近道する。標高2,330mから上は山頂まで続く雪の一枚斜面で、一団の登山者が下りて来る。前線通過後の風が強いものの、気温は高く雪は腐っている。
丸く緩い坊主の頭の様な火打山頂に雪は無く、大きな山名柱が立っている。焼山や雨飾山にはまだ雲が残って、すっきりした写真は撮れそうにない。焼山はすぐ近くに見えるが、ピストンするとしんどそうなので諦める。その代り、影火打の西肩から南に落ちている尾根の先にちょこんと白く座している嘉平冶岳へ足を伸ばす事にする。
下り始めの這松の中には確りした夏道があり、腐れ掛った足跡も雪上に残っている。長らく登山禁止になっているものの焼山へ登る人は結構多いようだ。影火打を越えた次の小ピークから左折して雪の急斜面を慎重に下って尾根に乗り、打って変って楽な体でアイゼンも着けずに快適に下る。尾根の左側には雪庇の基部が引っ掛るように残っており、大きく割れた雪面から地肌が覗かれる。この頃、上空は綺麗に晴れて額に汗が流れ、千切れ雲が流れて作る日陰を有難く感じる。
嘉平冶山頂の雪原で大休止して熱い体を冷す。見上げる焼山は目の前に大きく、登り出もありそうだが、左右対称の三角形の姿が素っ気無い。左方には裏金山と金山が白く輝き、乙見湖(笹ヶ峰貯水池)から赤尾岳と薬師岳を経て天狗原山へと続く雪稜は、山スキーでの登路にも利用出来そうだ。
ブロック雪崩に注意しながら一気に惣兵落谷へ下降し、対岸へ上がってから一息入れ、台地状の雪原を横切って鍋倉谷左俣を目指す。ここは両岸が急で、下降点を探して上流へ向い、滝(雪の下になっている)の上へ向ってトラバースする。
南には高妻山が右肩上がりのすっきりした斜面の上に聳えている。すぐ右には乙妻山の岩塊が続き、その下には「如何いうルートで登ろうか?」と登路を悩ましく思い巡らせている地蔵山が、はっきりした頂上稜線を見せている。3つの山は1つの塊を成して、やや無骨な印象を与える。
大した傾斜ではないのだが、体調不十分で息切れが酷く頻繁に立休を取らざるを得ない。鞍部から支沢を下降して右俣を登り返すのが余計な事に思えて気が変り、ヒュッテを目指して台地の上まで登って大息を吐く。窪んだ雪面が幾つかあり、池畔の盛り上がった尾根状の雪の上を歩いて台地の縁を廻り込む。周りは無人の雪原で、登山者の居る高谷池ヒュッテからは幾らも離れていないのに、どこか別世界に1人で取残されたかの様な変な気分に襲われる。
ヒュッテで一休みして火打山に別れを告げる。トラバース道を引き返し、富士見平から小さい起伏に飛んだ雪稜を忠実に辿って弥八山の分岐点のピーク(2,062m)で一息入れる。シラビソの枝を掻き分けて覗くと、針葉樹に覆われた雪稜が弥八山頂まで続いている。左側は黒沢へ向って急斜面を為しているが、右斜面は緩く問題無く歩けそうだ。そろそろ午後の日が傾いて時間的には厳しいが、「頑張ってもう1つ山頂を稼ごう」と、地図を片手に未知の領域へ踏み込む。
シラビソの樹間は広く、程好く締った雪面を快調に下って15分で山頂に立つと、大きな雪庇が発達した跡の雪塊の上からの眺めは気分が好い。黒沢の唯一の渡渉点である黒沢橋へのルートは南尾根を取らざるを得ず、山頂付近の急傾斜部を突破して1,700m付近の雪が豊富に残っている落葉樹林を強引に下り、黒沢左俣の2つの小沢が合流する地点を目指して下降する。
程好い雪の締り具合に「これなら問題無い」と急斜面を下ると、数箇所で雪が切れて竹薮を漕がされる。地上から5m以上の樹上に赤布が残っており、「冬にこんな急斜面を登ったのだろうか?」と訝り、「やはり、山頂を目指す人が居るもんだなあ」と感心し、その志に同意する。重力に助けられてどんどん下り、適当な所で左の斜面に入って高度を下げると積雪量が減るが、笹薮を踏み抜いたりしながら我慢して下り、無事左俣に着く。
雪の下から幹をもたげ様としている木々の間を適当に歩いて行くと、円形に雪が融けたスペースにミズバショウが咲いている。赤茶けた土と枯草の上をキラメキながら流下する雪融け水と無数の小さく白い花が素朴な自然の伊吹を感じさせる。
再び雪の上を行くと足跡が現れ、これに釣られて下流の方へ進むと黒沢に突き当り、左岸への渡渉に窮する。疲れた体に鞭打って竹薮を漕いで上流へ向い、濃く本物になった足跡を辿ると黒沢橋に辿り着く。
橋を渡り、トレースを忠実に辿ってピッチを上げる。途切れがちの雪面を執拗に山スキーで下っている5人組を横目に追い越して登山口に帰り着く。火打山の日帰りピストン山行は、行動時間と距離ともに長いものとなった。













