天上山・裏砂漠展望地からの展望(写真:にゃごにゃごさんの登山記録より)
文/鈴木志野
そもそも島国の日本が多くの山からできているように、島は海底から立ち上がった山と捉えることができる。現在日本には6800以上の島があるというが、果たしてそのうち名前がつけられ、人が登れる山はどれほどの数があるのだろうか。ちなみに、(公財)日本離島センターは2017年に全国の島の山の中から「しま山100選」(http://www.nijinet.or.jp/about/activities/tabid/200/Default.aspx)を選定している。

島の山の特徴は、多くが海からそびえ立つために標高以上の高度感があることだ。また見下ろす景色は大海原で、地球の丸さを実感できる水平線やぽっかり浮かぶ近くの島々の景色もならではの眺望だ。さらに島という隔てられた土地ゆえの地形や地質、珍しい植生や動物など、本土の山とは違った山歩きの楽しみも醍醐味といえる。
そこで、今回は全国各地の島の山から6つを厳選して紹介する。島旅はブームといわれているが、時には山がメインというのもいいだろう。いざ、海を渡り、山へ。島の山の頂が待っている。
稚内からフェリー、または新千歳空港から飛行機でアクセスする、利尻島。島一周は車なら1時間半ほどだ。上空から見るとその形は円く、中心部分に鎮座するかのように日本百名山のひとつ利尻山が望める。アイヌ語で「高い島」という意味の通り、島の大部分が山といっても過言ではない。

標高1719mの利尻山は、「利尻富士」と呼ばれるほど美しい山容をもつ独立峰だ。山道からは隣り合う礼文島の礼文岳を望み、夏には一面に高山植物が咲き誇る山頂は360°の大パノラマでサハリンまで見渡せる。そして、麓には手つかずの原生林や花の名所として知られる南浜湿原や湖沼が点在する。
利尻山登山はコースタイム約7時間40分。標高差は1500m以上あり、経験者向きといえる。山頂付近は7月中旬まで雪渓が残る。また天候の変化が早く、山頂付近は海から吹き上げる強風があるため、装備には注意したい。
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Vol.1で紹介した利尻島の隣に位置する礼文島。礼文とはアイヌ語の「沖の島」からきていて、日本最北端の島として知られる。そして、その真ん中にあるのが礼文岳だ。島も山もその姿は利尻とは対照的で、島は細長く平坦な形をし、山は標高490mと低い。「花の浮島」とも呼ばれ、主に海岸に咲く花々は300種にも及び、礼文島固有種のレブンウスユキソウやレブンキンバイソウ、レブンアツモリソウなど珍しい花も見られる。中でもレブンアツモリソウは特定国内希少野生動植物種に指定され、現在保護活動が行われている。

礼文岳はコンパクトな山で、山頂でゆっくり過ごせるので家族連れにおすすめだ。そして最大の魅力は、真っ青な海にそそり立つ利尻山の絶景を間近に見られるところ。まさに利尻山の展望台といえる。コースは内路~山頂や、桃岩~知床、礼文林道~礼文滝、ストコン岬から西海岸を歩くコースなどいくつもある。
初夏から8月にかけて、礼文島ではいくつもお祭りが開催されるので、礼文岳に登り、祭りや花を楽しむプランもいいだろう。また、遠方からの登山者には、礼文岳と利尻山をまとめて巡る計画も人気だ。
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東京圏から船や飛行機でアクセスでき、手軽に島旅を満喫できると人気の伊豆七島。中でも神津島は、海や山、温泉、観光、グルメをバランスよく楽しめる島として人気が高い。

島に近づくにつれて迫力いっぱいの姿を見せてくれる天上山。山頂は島の最高点で、周囲には遮るものが見当たらない。ぐるりと360°の海上展望では三宅島や式根島、運が良ければ富士山も望むことができる。他にも見所としては、月世界のような表砂漠や裏砂漠、新東京百景展望地、さらにオオシマツツジをはじめとした花々など、さまざまな山の魅力が凝縮され、山好きたちからも一目置かれる存在だ。登山コースは、島の東・多幸湾側にある黒島登山口から入り、西側の前浜側にある白島登山口へ下るのが歩きやすく、歩行時間は4時間ほどだ。
なお、2021年2月28日までの期間で、山と溪谷社が提供する山のスタンプラリーアプリ®「YAMASTA(ヤマスタ)」と東京都、(公財)東京観光財団がコラボし、東京の魅力溢れる島々を巡る「東京11島ホッピングスタンプラリー」(http://yamasta.yamakei.co.jp/events_tokyoshima.html)を開催中。天上山も対象のチェックポイントなので、ぜひ楽しんでみてほしい。
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新潟沖に浮かぶ日本海側最大の島、佐渡島。対馬暖流の影響で、本土より冬は暖かく夏は涼しく、過ごしやすいのが特徴だ。北緯38度線(寒暖両系の植物境界線)が島の中央を通っているため、南北両系の植物が自生する珍しい植生で、さらに鹿などの食害を及ぼす大型動物がいないため、花の数が年々増え続けているという。今回紹介する金北山は島の北部に連なる大佐渡山脈の最高峰で、一帯にはユキワリソウやヒトリシズカ、シラネアオイなど300種以上の花が咲く。国中平野をはさみ、島の南部には大地山を主峰とした小佐渡山脈がある。



山頂を目指す登山道は、ドンデン山荘を起点として尻立山~マトネ(孫次郎山)~金北山の縦走路や、アオネバ登山口~白雲台のコースなどが数カ所ある。ドンデン山荘からのコースは高低差が少なく登りやすく、マトネから金北山への稜線は東西に海を見ながらの山歩きだ。標高1172mの山頂からは新潟はもちろん、山形や富山の主要な山々を見渡せる絶景が広がっている。
登山適期は4月末~11月上旬。とくに早春から6月にかけての花の時期や紅葉の時期がおすすめだ。5月には残雪が、6月でも一部雪渓が残る。
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温暖で雨の少ない瀬戸内海型の小豆島。高松港からフェリーで渡ることができ、瀬戸内海で2番目に大きな島だ。小豆島は瀬戸内海の地殻変動と火山活動によってできた島で、高い山が海岸近くまで迫り、平地が少ないのが特徴だ。

小豆島で山というと、香川で唯一、一等三角点がある最高峰817mの星ヶ城山の名前があがる。そこから西へ峰を進むと、美しの原高原へ至ることができ、このルートの南側にあるのが長年の雨風による侵食が進み生まれた奇岩・奇峰で、日本三大渓谷美とされる寒霞渓の絶景だ。寒霞渓はまた、日本で最初に指定された瀬戸内海国立公園の中心地でもある。
コースの起点は草壁港が一般的だが、寒霞渓のロープウェイ駅もある紅雲亭から登り始めてもいいだろう。おすすめのシーズンは新緑の頃と、奇岩とのコントラストが見事な紅葉の頃。雪の時期も趣があり格別だ。
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九州の山の標高べスト5を知っているだろうか。5位が安房岳1847m、4位が翁岳1860m、3位が栗生岳1867m、2位が永田岳1886m、1位がここで紹介する宮之浦岳1936mだ。そしてこの全てが屋久島にある山というから、「洋上アルプス」という美しい別名でも呼ばれる屋久島の地形が想像できるだろう。屋久島はおよそ1400万年前に花崗岩が海中から隆起したことでできたといわれ、多くの山頂で迫力満点の巨岩が見られる。

以下は、これらの山をかすめながら宮之浦岳を目指し、永田岳をピストンし、さらに屋久島のシンボルの縄文杉やウィルソン株など巨大杉を巡る、1泊2日の最人気コースだ。奥岳(麓からは見えない山。黒岳、宮之浦岳、永田岳の3山)近辺では、ヤクシカやヤクザルとの出会いにも期待したい。
登山シーズンは真冬以外。ゴールデンウィークや、ヤクシマシャクナゲが咲き奥岳周辺が天空の花園になる5月下旬~6月初旬、夏休み期間は山小屋が満員になることもあるのでテントは必携しよう。ただし、小屋周辺以外での幕営は禁止されている。また、永田岳に立ち寄ると初日に10時間近く歩くことになるので、登山計画を立てる際には技術や体力、時間など注意したい。
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