日本の変な植物ベスト10があれば、きっとベスト5には入ってしまうだろう「ツチトリモチ」には、他人の空似のキノコもある

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この写真を見て、キノコと考えるのは普通の感覚だが、実はキノコではなく「ツチトリモチ」という植物の花だという。鹿児島の山を訪れた髙橋修氏さんが、この不思議な植物の謎の多い生態に迫る。

 

この10月、南九州の鹿児島の山を歩いてきた。温暖で半袖シャツ一枚で歩いた。まだまだ花がたくさん咲いていた。楽しい花歩きだった 。

鹿児島の山では今、ツチトリモチが咲いている。ツチトリモチとはツチトリモチ科ツチトリモチ属の植物。紀伊半島、四国、九州、南西諸島の一部など、温暖な場所を好む植物だ。

木の洞に住む小人ではなくツチトリモチ


最大の特徴は寄生植物であること。木の根に寄生し、栄養も水分も宿主から奪って寄生して生きている。このため、多くの植物にある葉緑素がなく、葉も退化している。花は赤い。長細いキノコのような形である。先月紹介したカエンタケにも似ている。花の表面はツブツブしており、赤いグミのように見える。

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このツブツブが花の一部ではあるが、本当の花はツブツブの間に隠れている。雄株と雌株があるはずの雌雄異株であるが、雄株は発見されていない。しかし、種子はできているので雌株だけで生殖しているらしいという、見た目だけではなく、生き方までベールに包まれた不思議な植物である。

ツチトリモチのアップ。表面はつぶつぶに覆われている


ツチトリモチの葉は退化して、ウロコ状になっている。そして葉の色はやはり赤色。茎も太く、赤色。ツチトリモチを知らなければ、変なキノコと思うだろう。そんな変わった形をしている。

満開のツチトリモチの花、中心の赤いのは葉っぱ


ツチトリモチを漢字で書くと、土鳥黐。鳥黐(とりもち)とは、鳥を捕まえるための粘着剤のことだ。鳥黐は木の枝などにつけて、メジロなどが鳥黐の塗っている部分にとまると、足がくっついて離れることができなくなってしまう。なお、現在はメジロの猟は禁止されているので鳥黐は使われていない。

鳥黐との関係は、ツチトリモチには土の中にイモのような根塊があり、それをたたいていると、ねばねばしてくる。この粘着物を鳥黐として使ったのが名の由来だ。

ツチトリモチの花の手前の褐色のものはツチトリモチの根塊


鹿児島の山では、ツチトリモチは何箇所かでよく見かけた。生えているのは、たいてい暗い林の中。寄生植物のため、光合成をしないので、太陽光は必要ない。ツチトリモチは赤く、とてもきれいというか、なんだかかわいい。私の好きな花のひとつだ。

こんな変な植物が、日本にはたくさんある。見つけたらもっと山歩きが楽しくなる。

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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