カエンタケとナラ枯れの因果――。自然は複雑に絡み合い、不思議な因果で結ばれている

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キノコ採りの季節だが、猛毒のカエンダケが増えているというので注意が必要だ。この原因は「ナラ枯れ」というブナ科の樹木に発生する現象によるもので、その遠因は人々の生活様式の変化によるものだという。自然は複雑に絡み合い不思議な因果で結ばれている。

 

カエンタケは漢字だと火炎茸。怖い名を持った毒キノコだ。赤く火が燃えるような、子供の指のような、あまりキノコっぽくない形をして、ニョッキリ地面から生える。猛毒で、食べたら死に至るケースもあり、キノコから出る汁に触っただけでも皮膚が炎症を起こすこともあるとのこと。食べないことはもちろん、触るのも危険。見慣れぬ太い指のような形の、赤いキノコを見たら絶対に近づかないように。

カエンタケ。こんな形をしているが、これでもキノコです


カエンタケ(ボタンタケ科)はもともと、それほど多いキノコではなかった。私自身、今までカエンタケを見たことはほとんどなかったが、今年は山梨県や神奈川県の山を歩いていて見かけるようになった。東京の町田市や八王子市でも見つかっており、関西を始めカエンタケはどんどん増加の傾向にあるようだ。

カエンタケの増殖には理由がある。カエンタケは枯れたブナ属の木の腐り始めた株や根の周辺から生えることが多い。そして今、日本中でナラ枯れの影響でコナラやクヌギ、マテバシイなどがどんどん枯れているのだ。ナラ枯れした木が腐り始めると、カエンタケの菌床となる。

森の中でピースサインをしているように生えているカエンタケ


ナラ枯れとは、ブナ科の植物、クヌギ、コナラ、ミズナラなどの楢の木や、マテバシイやシラカシなどの樫の木など、主にドングリのなる樹種の病気である。クリやブナも被害を受ける。原因は、小さな甲虫のカシノナガキクイムシが、一本の木に集まって木に穴を開け、ブナ科の木の病原菌である「ナラ菌」を増殖させることによって引き起こされる。生きた木にナラ菌が増えると、木が水を枝先まで吸い上げることができなくなってしまうために、木は死に至り、葉も枯れる。その葉は冬も落葉せず、灰褐色~茶色になって残るのが特徴だ。

ナラ枯れの木、木が倒れるとカエンタケが生える可能性が高い


以前、このYAMAYAのたしなみでも、ナラ枯れの事を説明した。この時は枯れ木の倒木や落下に対する物理的な危険について書いたが、さらに新たな危険が引き起こしていることがわかった。その危険とはカエンタケの増加だ。

★過去記事: 「ナラ枯れ」で泣いているように樹液を流すコナラたち。日本の雑木林で今起きていること。

ナラ枯れによってカエンタケの生育環境が、全日本的に大きく広がっている。つまり、ナラ枯れが、カエンタケを増加させていることになる。ナラ枯れの原因は、日本人が炭焼きをしなくなったことで、カシノナガキクイムシが好む太い木を増やしたことが遠因にある。

炭焼きをやめて化石燃料を使用することと、ナラ枯れの影響が、思ってもいなかった危険を生み出している。自然は複雑に絡み合い、不思議な因果で結ばれている。

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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