寒い冬でも都会の足元で花を咲かせるヒメツルソバ。その逞しい生存戦略

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冬の寒い時期でも、元気に花をつけている植物もある。その1つが「ヒメツルソバ」。ヒマラヤが原産というこの植物の生存戦略を知ると、植物の逞しさを感じるだろう。

 

急に寒くなった12月。この頃でも花を咲かせる植物があります。淡いピンク色のコンペイトウのような形の花を咲かせるヒメツルソバです。ヒマラヤの低い標高地原産の園芸植物で、都会ではコンクリートの割れ目などにも平気で生え、一度生えると、千切ってもまた根から伸びてくる強い植物です。今や日本の各地の都会を中心に雑草化しています。

冬のヒメツルソバの花。都会のコンクリートの割れ目などにも力強く咲いている


ヒメツルソバの花は、小さな花の塊です。直径1cm弱のコンペイトウのような形の花です。花の粒々のひとつひとつをよく見ると、ほとんどがピンク色をした小さな蕾か、花が終わった後の種で、たまに小さな花が咲いています。

花が終わっても、花びらが茶色に枯れないで、ピンク色のまま残っています。このため蕾か花か、はたまた実なのか、わかりにくいのですが、それがヒメツルソバの戦術のひとつなのです。

秋から冬の寒い時期に花を咲かせるヒメツルソバの蜜を吸いにくるのは、小型の昆虫です。それに合わせて、ヒメツルソバは花を小さくしています。ところが花が小さいと、残念ながら昆虫に目立たないのです。そこで、目立たせるために、蕾や実まで総動員して、全体で花のように見せて、遠くからも花が見えるようにしているのです。

 

ヒメツルソバの花の様子(写真左) さらに拡大してみると・・・(写真右) 


こうして、ライバルの少ない秋に花を咲かせ始めるヒメツルソバですが、実は寒さに弱く、霜が降りたり雪が積もったりすると、地上部はすぐに枯れてしまいます。根っこは生き残ることが多いようですが、強さと弱さの両方がある植物なのです。

冬の低山歩きで、里を歩いているときによく見る植物です。植物観察はいつでもできるのです。

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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