夏山シーズンも終盤となり、もうすぐ9月。平地では残暑がまだまだ厳しいが、山では秋の花が咲き始め、高山や北海道の山からは紅葉の便りも聞こえてくる季節。暑かった8月の半月後にもう紅葉の便り?と思ってしまうが、山の季節は本当に早い。そんな9月には、いったいどんな山が登られているのか、「みんなの登山記録」をひも解いてみよう(2022年9月の記録調べ)。
これまで同様、人気の山の傾向は大きく変わらないが、キーワードとしてはやはり紅葉が外せない。ちなみに昨年の登山記録を見てみると、場所によっては9月中下旬には紅葉が見頃となっていた。年によって状況は異なるので、情報収集の上、計画いただきたい。続いてエリアごとの概況を見ていくが、今回は北海道から上信越エリアまでを紹介しよう。
北海道では旭岳、黒岳などの大雪山系が多く、8月よりも多く登られていて紅葉のレポートが多い。続いて阿寒岳、斜里岳、羅臼岳など。一方で、札幌近郊の低山が増えていた。
東北では、吾妻山系(東吾妻・西吾妻)が一番多く、次に八幡平周辺、栗駒山、八甲田山、月山、岩木山と続く。ほかにも安達太良山、鳥海山、秋田駒ヶ岳、飯豊山なども多く、東北の山々は全体として多かった。
上信越では、妙高山・火打山周辺が一番多く、続いて谷川岳、四阿山、苗場山、平標山と続く。
それでは、いくつかの山々をピックアップして、以下紹介しよう。(関東以西のエリアについては、後編で紹介。)
大雪山は、北海道最高峰である旭岳(2291m)を主峰とする一大山域。大雪山という単体の山があるわけではなく、複数のピークの総称であり、その雄大な山並みをもって「北海道の屋根」とも称される。大雪山の紅葉は日本一早いともいわれており、実際には8月末から色づきが始まり、中旬以降に見頃となる。ここでは、人気の旭岳と黒岳をつなぐ贅沢な縦走コースをご紹介しよう。
旭岳ロープウェイの姿見駅からスタート。この時点で、すでに標高約1600mである。散策コースを進んで、観光客の喧噪をあとに、旭岳を眺められる姿見の池から登山道に入る。火山礫地の尾根を登って約2時間で、旭岳に到着。山頂からは周辺の山々をはじめ、旭川市街地まで眺められる。
旭岳からは不安定な砂地の下りなので、足の運びに気をつけよう。広大な景色の中、間宮岳へ。山頂からは、めざす黒岳が望める。ここからは御鉢平を大きく巻くように北鎮岳分岐へ。北鎮岳へは往復1時間だが、旭岳に次ぐ北海道第2位の高峰なので、ぜひ登っておきたい。
北鎮岳分岐から下った箇所は、遅くまで雪渓が残る場合があるので注意。周囲に展開する絶景を堪能しながら、なだらかに黒岳石室へ。あとは黒岳を経てリフト乗場に着く。
旭岳~黒岳をつなぐ縦走路は、2023年が開削100周年とのことで注目度も高い。縦走以外のプランとしては、旭岳や黒岳だけ往復するのでもよいし、周回コースなどいろいろなコースを選択できる。
高低図
八幡平と岩手山をつなぐ裏岩手縦走路の中央部に位置する三ツ石山。山頂にある3つの露岩が特徴的で、これが山名の由来と考えられている。秋の紅葉がすばらしく、近年登山者を多く集めている。
登山コースは各方面からとれるが、今回は北東の松川温泉からのコースを紹介しよう。松川温泉のバス停から松川を渡って登山口へ。急な階段状の道を登っていく。傾斜が緩やかになり、しばらく歩けば分岐に出る。三ツ石湿原まではなだらかな道だが、雨後などはぬかるみがひどい箇所がある。やがて視界が開け、山頂への分岐を経て三ツ石山荘に到着する。
小屋の前には湿原が広がり、三ツ石山の山頂も眺められるので、よい休憩ポイント。分岐から、もうひとがんばりで山頂へ。山頂からは岩手山をはじめ、三六〇度の大展望だ。紅葉の時期は山肌が赤く染まり、すばらしい景観となる。
帰路は、往路を戻る。今回は松川温泉からの往復を紹介したが、大深岳とセットで周回するプランもよく歩かれている。
高低図
岩手・宮城・秋田の三県にまたがる栗駒山は美しい紅葉で知られ、「神の絨毯」とも称されるほどだ。登山ルートは各所から延びているが、今回は宮城側のいわかがみ平から東栗駒コースを登って、中央コースを下るコースを紹介しよう。
いわかがみ平から東栗駒コースに入る。岩が露出しており、ハシゴが出てくる箇所もあるので、焦らず歩を進めよう。新湯沢に出て、100mほど沢の中を登っていく。沢を歩くコースはなかなか珍しい。再び山道に入り、しばらく歩けば視界が開けてくる。山頂部をはじめ、周囲の景色を眺めながら進む。紅葉の時期は、山全体が鮮やかな色に包まれ、すばらしい景観だ。
東栗駒山を過ぎ、東栗駒分岐から一度鞍部を越えて、中央コースと合流。あとひとふんばりで山頂だ。着いた山頂からは、三六〇度の展望が広がり、鳥海山、月山、岩手山などの名だたる山々が遠望できる。下山は、よく整備されて歩きやすい中央コースを下り、いわかがみ平まで戻る。
東栗駒コースは、前述の通り歩きにくい箇所があるので、初心者の場合は中央コースの往復がよいだろう。また2022年の紅葉シーズンには、交通渋滞緩和のため、いわかがみ平への道路でマイカー規制が行なわれた。計画の際は、事前に最新情報を確認のこと。
高低図
山形県と福島県の境に位置する吾妻連峰は、西吾妻山(2035m)を最高峰として東西に連なる一大山域。一切経山(いっさいきょうざん)や浄土平などがある東吾妻は火山性景観が特徴的だが、西吾妻は針葉樹の原生林に覆われた大らかな山容で、東西合わせて多様な魅力を併せ持つエリアである。
西吾妻山は、南北からロープウェイやゴンドラなどを利用できるが、今回は北側の天元台からのコースを紹介しよう。天元台のロープウェイとリフトを乗り継ぎ、標高1820mまで上がる。リフト終点から樹林の道を進み、人形石への分岐をかもしか展望台へ。時間に余裕があれば、人形石経由でもよいだろう。かもしか展望台からは周囲の展望がすばらしい。
大凹を越えて急登を抜け、池塘を過ぎれば岩の積み重なった梵天岩。三六〇度の展望だ。さらに進めば山頂だが、残念ながら木々に囲まれ展望はない。山頂からは西吾妻小屋を経由して、往路を戻る。
今回のコースでは物足りないという場合は、若女平を経由するコースがある。展望がなく静かな山歩きが楽しめるが、急で滑りやすい箇所が多い。またグランデコスキーリゾートから西大顚を経るコースもある。どちらも中上級者向けだ。
高低図
2015年に誕生した妙高戸隠連山国立公園に位置し、どちらも日本百名山に選ばれている。妙高山は特徴的な秀麗な山容で、東側のスキー場からゴンドラを利用して登ることができる。火打山は中腹の高谷池周辺に高層湿原が広がり、多彩な植生を有している。これら二山をつないで登るコースを紹介しよう。
笹ヶ峰の登山口からスタート。しばらくは木道が敷かれたなだらかな道を進む。黒沢橋を渡り、十二曲がりの急登をがんばり、富士見平へ。火打山や焼山を見つつ、黒沢岳の脇をなだらかに進んで、高谷池ヒュッテへ。ヒュッテ付近には湿原が広がり、別天地のような雰囲気だ。
ヒュッテから木道を進み、天狗の庭へ。こちらも湿原が広がり、池塘をへだてて火打山が美しい。ライチョウ平を越えるとハイマツが現われ、周囲の視界も開けてくる。最後に木道の階段を経て火打山山頂へ。着いた山頂からは北アルプスや妙高山、日本海など三六〇度の大展望が広がる。
火打山からは、一度高谷池ヒュッテまで戻り、黒沢池ヒュッテへ。大倉乗越から、めざす妙高山を目の前に眺め、一度カルデラの谷に下る。長助池分岐を経て急坂をがんばって妙高山の山頂に到着。南峰と北峰があり、南峰が最高点である。山頂からは、火打山と焼山、北アルプスをはじめ、条件がよければ富士山まで眺められる。
帰路は、黒沢池ヒュッテから美しい湿原帯を経て富士見平へ。富士見平から、往路を笹ヶ峰まで戻る。本コースは1泊2日のプランだが、笹ヶ峰から日帰りで火打山や妙高山を往復するコースもよく歩かれている。
高低図