7月8日公開！『神々の山嶺』のパトリック・インバート監督が語る、アニメーション制作の舞台裏

夢枕獏の山岳小説、そして谷口ジローの漫画で知られる『神々の山嶺』。フランス・ルクセンブルクで制作されたアニメ映画『神々の山嶺』が7月8日、いよいよ日本で公開される。これに先立ち、ヤマケイオンラインでは監督のパトリック・インバート氏にインタビューし、制作の舞台裏について聞いた。

―― フランスでは谷口ジローの作品が高く評価されていると聞きますが、原作をはじめて読んだのは？
それまでにも谷口ジローさんの『遙かな町へ』などはいくつか読んでいましたが、この作品はこのプロジェクトが持ち上がってから読みました。読んでみたらとてもおもしろく、映画化にも熱が入りました。2017年に亡くなった谷口さんに会う機会はなかったのですが、谷口さんにこの作品を見てもらい、感想を聞きたかったです。

―― 映像の美しさが印象的でしたが、どのようにあの描写を？
当初は、谷口さんの原作に忠実にやろうとしたのですが、同じ絵ではうまくいかなかったんです。そこで違う作品をめざそうということになり、写実的な印象、雄大な自然の風景の中に観客も吸い込まれるような感じで、光や音を駆使して、内的な冒険に参加してもらえるように作りました。

―― クライミングのシーンや日本の街並みなどが非常にリアルでしたが、どのようにリアリティを追求したのですか？
私は登山家でも日本人でもありませんが、少しは日本についての知識がありました。映画の制作に当たってはインターネットでさまざまな資料や映像を調べました。登山シーンはアドバイザーとなる登山家を迎えて、装備の使い方や登攀中の動作などを確認しながら映像を作っていきました。日本の山岳雑誌も参考にさせてもらいましたよ。日本文化についてはフランス在住の日本人コンサルタントにもコンタクトをとり、たくさんの知識を得ました。スタッフのなかには日本に住んだ経験のある者がいたので、現代の日本の知識は彼らから、そして60年代から70年代にかけての日本については古い資料や映画などを調べながら描写を進めていきました。

―― ヒマラヤ登山の高度障害のシーンなど、感覚的な部分の描写はどのように？
この部分は原作の漫画にも描かれた、登山を描く上で避けて通れないシーンです。原作では幽霊にさいなまれるシーンが長く続くのですが、このシーンを多用するのは効果的ではないと思ったので、ショッキングなシーンも原作の漫画とは違った、映画ならではのアプローチで人物を包むような描写を心がけました。

―― 再現が難しかったところは？
すべて難しかったのですが、あまりにも現実からかけ離れることのないように、なるべく見る人を裏切らないように描いたつもりです。山登りはなんとかなるのですが、日本人の動きや振る舞いは描くのが難しい。そこは無理をしないで追求しないようにしました。西洋的な動きがそのままかもしれませんが、日本のアニメの描写にも、ヨーロッパ人がヨーロッパ的でないこともあったので、それでよいのでは、と考えました。

―― この作品を作ったあとで、今後山に登ってみようというお気持ちは？
山登りはしませんが、ハイキングはあちこち歩いていました。この映画を作ったあとでも、山の危険、こわさがよくわかり、寒いのも苦手なので、今後も登山をすることはないでしょう。先週、シャモニーで山岳映画フェスティバルに参加しましたが、山に登らなくても、そこを散策しただけでもすばらしい気分になりましたよ。

（聞き手＝西村 健／ヤマケイオンライン編集部）

アニメーション映画『神々の山嶺』概要

監督：パトリック・インバート
原作：『神々の山嶺』作・夢枕 獏、画・谷口ジロー（集英社刊）
日本語吹き替えキャスト：堀内賢雄、大塚明夫、逢坂良太、今井麻美
2021年／94分／フランス、ルクセンブルク／仏語／1.85ビスタ／5.1ch／原題：LE SOMMET DES DIEUX／吹替翻訳：光瀬憲子
配給：ロングライド、東京テアトル
公式サイト：https://longride.jp/kamigami/

■予告映像