【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

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固く締まった雪の上、雨や沢水が凍結した登山道、夏山の残雪など、チェーンスパイクは足元が滑りやすい状況の必須アイテム。選べるモデルが増えてきましたが、「6本爪の軽アイゼンとなにが違うの?」と迷う方も多いのではないでしょうか。また、手軽で便利な反面、「雪山ではどこまで通用するのか」という安全面のリスクを知っておく必要もあります。本記事では、チェーンスパイクの基礎知識と選び方を解説。さらに雪山登山でのリスクについても確認します。

文=吉澤英晃 写真=福田 諭

目次

チェーンスパイクはスリップを防ぐ滑り止め

カンプ/アイスマスター エボ
チェーンスパイクの定番モデル。カンプ/アイスマスター エボ

チェーンスパイクは、爪が4本もしくは6本ある軽アイゼンと比べられることの多い、足元のスリップを防ぐための道具です。

北アルプスの朝日岳へ向かう登山道の残雪。2025年7月中旬に撮影
北アルプスの朝日岳へ向かう登山道の残雪。2025年7月中旬に撮影

たとえば、雪が残る夏山に登ったり、雪や氷で滑りやすくなっている林道や登山道を歩いたりするときに、なにかしらの滑り止めを持っていないと足元が滑ってしまいケガをする恐れがあります。

そこで役立つのが、チェーンスパイクや軽アイゼンに代表される転倒防止用の山道具たち。ルート上に残雪や凍結の可能性があるときは必ず用意するべきアイテムです。


チェーンスパイクのメリット・デメリット

冒頭で紹介したとおり、チェーンスパイクは軽アイゼンと比較されることの多い道具です。そこで、チェーンスパイクにはどんな強みがあるのか。チェーンスパイク特有のメリットとデメリットを紹介します。

【メリット①】軽量&コンパクト

チェーンスパイクの収納ケース
収納ケースは袋状のものが付属するモデルも多い

チェーンスパイクを選ぶ理由は、軽くて小さく持ち運べること。この2点に尽きると言っても過言ではないでしょう。重さは250g前後が標準的。本体が柔らかいので多くが手のひらサイズにまとめて収納できます。

【メリット②】脱ぎ履きが簡単

チェーンスパイクの装着
簡単に装着できるが、本体をヒール側に回すときにはある程度の力がいる

軽アイゼンがストラップやラチェットで登山靴に取り付けるのに対して、チェーンスパイクはつま先から足を入れて、靴下を履くように登山靴にかぶせるだけで装着完了。簡単かつクイックに脱ぎ履きできる使い勝手のよさがあります。

【メリット③】靴を選ばず歩きやすい

チェーンスパイクをハイキングシューズに装着
ハイキングシューズに装着した様子。スニーカーに取り付けることもできる

軽アイゼンはスパイク部分が板状になっているので、ソールが柔らかい靴に合わせると足裏に違和感を感じてしまいます。それがチェーンスパイクだとソールが柔らかくてもストレスを感じづらく、自然な足取りで歩行可能。軽アイゼンより汎用性が高いといえます。

【デメリット①】軽アイゼンと比較するとグリップ力は△

軽アイゼンとチェーンスパイクの比較
右が6本爪の軽アイゼン(エバニュー/6本爪軽アイゼン)。スパイクの幅にも違いがある

チェーンスパイクも軽アイゼンも、滑落の可能性がある危険な場所を避けて使うのが大前提ですが、チェーンスパイクは軽アイゼンと比べるとスパイクが短いものが多く、グリップ力は劣ります。

チェーンスパイクと軽アイゼンの使用範囲を超える本格的な雪山登山では、10本爪以上のアイゼンを用意しましょう。

【デメリット②】壊れやすいパーツがある

チェーンスパイクの故障例
実際の故障例。スパイクとスパイクをつなぐパーツが外れてしまった。筆者の私物

統計を取って調べたわけではないのですが、チェーンスパイクはチェーンが切れた、本体の樹脂製パーツがちぎれたという事例を何度か見聞きしたことがあり、耐久性はそこまで高くない印象があります。逆に、軽アイゼンが壊れたという話はあまり聞いたことがありません。

【デメリット③】雪団子がつきやすい

チェーンスパイクについた雪団子
雪団子ができるとスリップの危険性が高まってかえって危険

雪団子とは、ソールの裏に付着する団子状の雪のこと。写真のような状態になるとチェーンスパイクはまったく機能しなくなり、逆に足元が滑りやすくなって歩きにくくなってしまいます。

軽アイゼンや10本爪以上のアイゼンのアンチボーリングプレート(黄色い部分)
黄色い部分がアンチボーリングプレート。雪が付着しにくく、雪団子ができてしまった場合も落としやすい

これを防ぐパーツにアンチボーリングプレートと呼ばれるものがあり、チェーンスパイクには付かない代わりに、軽アイゼンや10本爪以上のアイゼンには必ずこのパーツが備わっています。


構造でひもとくチェーンスパイクの種類

チェーンスパイク

一口にチェーンスパイクと言っても、各メーカーからさまざまなモデルが発売されていて、パーツごとに細かな違いがあります。各パーツの基礎知識といくつかのバリーションを見ていきましょう。

アッパーを覆う樹脂製のパーツは厚さがポイント

チェーンスパイクの樹脂パーツ
グレーの部材が樹脂製のパーツ。強い力で引っ張るとゴムのように伸び縮みする

チェーンスパイクの上半分を構成しているのが、伸縮性のある樹脂製のパーツです。使うときは、この中に足を入れて靴下を履くように登山靴に装着します。

ここで気にしたいポイントが、部材の厚さです。商品のコンセプトごとに、軽さを重視するものは薄く、耐久性を重視するものは厚く作られています。

チェーンスパイクの樹脂パーツ比較
樹脂製パーツの厚さに注目。左のモデルはほかと比べて薄くつくられている(右:モンベル/チェーンスパイク。真ん中:カンプ/アイスマスターエボ、右:カンプ/アイスマスターPRO

樹脂製のパーツはめったにちぎれませんが、薄くなるほど耐久性は必然的に低下してしまいます。では、厚さがあるものほどいいかと聞かれると「はい、そうです」とはいいがたく、伸び縮みしにくくなるので、装着するときにより強い力が必要になります。

スパイクは長くて本数があるほど滑りづらい

チェーンスパイクのスパイク(爪)
スパイクは配置する位置に応じて違う長さで設計されているモデルもある

スパイク(爪)はスリップを防ぐ重要なパーツ。一般的な素材はステンレスで、錆びにくくメンテナンスが容易なものが多いです。

スパイクは長さと本数に違いがあり、筆者が知る限りでは、長さは約5〜15mm、本数は7〜21本と、モデルによってかなり差があります。

チェーンスパイクのスパイク(爪)の長さ比較
スパイクの長さの比較。長くなるほどグリップ力は強くなるが、雪や氷がない場所だと突起がじゃまになって歩きにくくなってしまう

スパイクは、長く本数が多いほどグリップ力が高まるのですが、そのぶん重くなったり、雪や氷が薄く残る道では歩きにくくなったりするので、一概にそれがいいとは言えません。万が一の備えとしてチェーンスパイクを持つのなら、たとえスパイクが短くて本数が少なくても、軽いものを選んだほうが有利といえるでしょう。

「チェーン」スパイクでも、爪をつなぐ素材はさまざま

チェーンスパイクのチェーン
スパイクと同様に、チェーンもステンレスで作られているものが多い

チェーンスパイクと呼ばれているとおり、本体とスパイクはチェーンでつながれています。実はここも商品のコンセプトごとに違いが見られるポイントです。

特に軽さを重視するモデルでは、チェーンの代わりに針金のような部材が使われていたり、チェーンスパイクと呼ばれながらワイヤーで作られていたり、種類はさまざま。

ただ、部材の違いは強度や使い勝手にほとんど影響しないので、知識として知っておくだけでOKです。

後付け可能な紛失防止用バンド

チェーンスパイクに後付け可能な紛失防止用バンド
黒いベルトが紛失防止用のバンド。行動中にチェーンスパイクがずれにくくなる効果もある

チェーンスパイクは樹脂製パーツの弾性を利用して登山靴にかぶさっているだけなので、重たい雪から足を引き抜くときなど、外部から外方向に力が加わると簡単に外れてしまいます。

これを防ぐパーツが、樹脂製の本体を連結する紛失防止用バンドです。絶対に外れなくなるわけではないのですが、紛失のリスクは大幅に軽減されます。パーツ単体でも販売されているので、気になる人はチェックしてみてください。


どっちがいい? チェーンスパイクと軽アイゼンの違い・使い分け

チェーンスパイクと軽アイゼンの違い
チェーンスパイクは便利だが、山で使うだけなら軽アイゼンの安心感も見逃せない

チェーンスパイクと軽アイゼンは、どちらもスリップを防ぐための道具であり、用途に違いはありません。

ただ、チェーンスパイクのほうが軽量でコンパクトに持ち運べるものが多く、ソールが柔らかい靴にも合わせやすいので、路面が凍結したときの日常生活や旅先でも扱いやすい汎用性の高さがあります。

軽アイゼンは使用シーンが山の中に限られるものの、長めのスパイクでグリップ力に優れ、アンチボーリングプレートのおかげで足裏に雪団子が付きづらいので、安心感や使いやすさでチェーンスパイクに勝ります。

軽さや汎用性を重視するならチェーンスパイク、安心感や使いやすさを重視するなら軽アイゼンを選ぶと間違いがないでしょう。

チェーンスパイクと軽アイゼン比較表

項目 チェーンスパイク 軽アイゼン
軽量性
コンパクト性
着脱の手軽さ
グリップ力
歩行時の
外れやすさ
外れやすい 外れにくい
雪団子 つきやすい
(プレートなし)
つきにくい
(プレートあり)

チェーンスパイクの選び方Q&A

チェーンスパイクを選ぶときによくある疑問をまとめました。購入を検討するときの参考にしてください。

Q.スパイク(爪)は長いほどいい? たくさんあったほうがいい?

A.パーツ紹介の項目で説明したとおり、長くて本数が多くなるほどグリップ力は高まりますが、重量が重くなり、場合によっては歩きにくくなってしまいます。シンプルにグリップ力をだけ重視するなら、軽アイゼンを選んだほうがいいかもしれません。

Q.軽ければ軽いほどいい?

A.重量が軽いモデルは樹脂製パーツの厚さが薄くなり、スパイクの長さが短くなって、本数は少なくなりがち。この点をどう解釈するかが判断の分かれるポイントです。ちなみに、6本爪の軽アイゼンは500g前後の重さが一般的。迷ったら極端に軽いものではなく、軽アイゼンほど重たくもない、標準的な250g前後のモデルを選ぶといいでしょう。

Q.ピッタリなサイズって?

A.チェーンスパイクにはサイズがあり、適応する足の大きさが公表されています。ただし、雪山用登山靴など一般的な靴よりも大きいシューズに合わせるときは、対応するサイズ内でも装着できない場合があります。サイズは店頭で確かめると間違いがありません。

Q.あまり使わなさそうなので、安いものでも大丈夫?

A.インターネットで検索すると、チェーンスパイクの値段はピンキリです。安いもの=質が悪いものとはいえないので、問題なく使える場合もあるでしょう。ただし、すぐに壊れてしまったなどのトラブルが起きたとき、メーカーや販売元がはっきりしていたほうが後々のやり取りで苦労することは少ないはずです。


チェーンスパイクでどこまで行ける? 雪山登山は可能?

チェーンスパイクにまつわる話でしばしば耳にするのが「大丈夫だろうと思ってチェーンスパイクだけで雪山に登ったら、進退窮まって危ない目に遭った」というエピソード。危ない目に遭っただけならまだいいほうで、最悪の事態につながる可能性がある非常に危険な行為といえます。

凍結した林道
凍結した林道。チェーンスパイクが役立つシチュエーション

そのため「チェーンスパイクは雪山登山用の道具ではない」という話もよく耳にするのですが、そこには例外があるのも事実。たとえ雪が積もっていても、チェーンスパイクで安全に登れる山はあります。

トレースが付いている雪山のルート
トレースがばっちり付いている雪山のルート。転んで滑っても命の危険はなさそう

そこで明確にしておきたいのが、安全と危険の境目です。それを考える上で重要になるのが、滑落するリスクがあるかどうか。これがとても重要な判断基準になります。

たとえば、どんなに標高が高い雪山でも、山頂に至るまでのルートが非常になだらかな斜面で、転倒してもすぐに体が止まるような状況であれば、チェーンスパイクで登ってもまったく問題ないでしょう。逆に、どんなに標高が低い雪山でも、地形が非常に険しく、転倒後に何メートルも猛スピードで滑落する可能性のある区間が1ヶ所でもあれば、10本爪以上のアイゼンを用意するべきです。

滑落のリスクがあるかないかを判断する要素は傾斜だけはありません。そこが平坦な登山道であっても、すぐ脇が崖になっている場合、滑落のリスクは高いといえます。

雪山斜面のトラバース道
斜面のトラバース道。ルート自体は平坦だが、万が一足を滑らせて谷側に転んだらかなり危険

もし、チェーンスパイクで雪山に登ろうと考えているのであれば、絶対に滑落する危険がないルートに留めておくべき。そういう雪山がどこにあるかわからなければ、チェーンスパイクは雪山登山で使わないと割り切り、10本爪以上のアイゼンを準備するのが無難です。

なかにはインターネット上の山行記録からチェーンスパイクで登れる山を探す人もいるでしょう。ただし、個人の主観を鵜呑みにするのは危険なのでおすすめしません。唯一の客観的な情報に写真がありますが、それだけで判断することも危ういといえます。その点について、下の2枚の写真を例にして考えてみましょう。

雪が柔らかそうな雪山
雪が固くしまった雪山

1枚目の写真は足元の雪が柔らかそうでステップもたくさんあり、一見するとチェーンスパイクだけでも登ることができそうに思えます。一方、2枚目の写真は雪が固くしまっていて、転倒したら滑落のリスクが高い様子を容易にイメージできるでしょう。

実はこの2枚の写真は、同日に同じ山で撮影したもの。斜面のコンディションは、1枚目の写真を撮った13分後に2枚目のように変わりました。もし、インターネット上に1枚目の写真だけが載っていて、安易にチェーンスパイクで登れるだろうと判断していたらどうなるか。結末は想像に難くないと思います。

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プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出合い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンとして約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

はじめての登山装備。基礎知識と選び方

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