丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

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里山の風情を楽しみ、展望の頂が待つ丹沢・シダンゴ山へ。バス停前の食堂でおなかを満たし、心地よい時間を過ごした。

写真・文=西野淑子

冬枯れの森を歩いて丹沢の里山へ

新松田駅から路線バスに乗り、寄(やどりき)バス停に下り立った。

今日のお目当てはシダンゴ山。心地よい里山歩きが楽しめる丹沢の低山だ。なんとも不思議な響きの山名は、飛鳥時代にこの地に住み、仏教を伝えた仙人の呼び名が由来だという。茶畑が点在するのどかな雰囲気の集落を進み、登山口へ。薄暗い針葉樹林を抜け、アセビの木々に囲まれた山頂はちょっとした広場になっている。天気がよく、周囲の丹沢の山々、相模湾や三浦半島もきれいに眺められた。山の陰から小さく富士山が顔をのぞかせているのにも出合えた。

シダンゴ山山頂から相模湾方面
シダンゴ山山頂から相模湾方面を望む

下山は宮地山経由で寄バス停をめざす。広葉樹の森は木々が葉を落とし、やわらかな日差しが降り注ぐ。足元の落ち葉をざくざくと踏み締めながら歩くのも気持ちいい。

山の陰から富士山の頭
山の陰から富士山の頭がちらりと見えた

ちなみに、寄バス停から徒歩10分ほどのところに寄ロウバイ園がある。花の見頃は1月下旬から2月上旬。山の斜面一帯が黄金色に彩られ、梅林の中を歩けば、よい匂いがたちこめる。昨年訪れたときは少し(いやだいぶ)時期が早く、まだ2分咲きぐらいだった。今年は見頃の時期に行けるだろうか。

寄ろうばい園
山の斜面をロウバイの花が彩る寄ろうばい園

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム:2時間50分
行程:寄・・・シダンゴ山・・・宮地山・・・寄
総歩行距離:約6,100m
累積標高差:上り 約654m 下り 約654m
コース定数:14

じんわりと心と身体が温まる、正統派の和定食

景色を楽しみながらゆっくりと周回し、昼過ぎに寄バス停に戻ってきた。

帰りのバスの時間を確認する。ゆっくりは無理だけど、とりあえず食事はできそうな時間。以前から気になっていた食堂に入ってみることにした。

店の名前は「みやま浜膳」。藍色ののれんが昭和の雰囲気だ。「うどん・そば」ののぼりとともに、「まぐろ丼」ののぼりがはためいている。ここは海から遠くはないが、どちらかといえば「山奥」なのだが、まぐろ丼が名物なのか? というか店名に「浜」とあるのはどういうことか、海鮮推しなのか。

「みやま浜膳」のレトロなのれんと派手なのぼり
レトロなのれんと派手なのぼりが目を引く

ちょっとどきどきしながらのれんをくぐる。やわらかく陽が降り注ぎ、店内は明るい。テーブル席が並び、一昔前の「食堂」の雰囲気だ。平日のせいかそれほど混み合っておらず、空いたテーブル席に腰をかける。

「みやま浜膳」の店内
テーブルが並ぶ、広く明るい店内

さて、なにを食べようかと店内を見回す。壁に貼り出された、達筆な筆文字のメニューが美しい。おっとりとした品の良い感じのおかあさんがメニュー帳を持ってきてくれた。ビニールの張ってある帳面風のメニューも昭和テイストだし、中の文字が手書きなのもいいじゃないか。

「みやま浜膳」のメニュー
やさしい筆文字のメニュー、最近あまり見かけなくなった

寒くてちょっとお腹がすいていたので、定食にしようかな。まぐろも惹かれるけど、今日は肉の気分だ。おお、からあげ定食がある。

「からあげ定食ください」
「すみません、次に来るバスに乗って帰りたいのですが……」

一応声をかけるが、年配のご夫婦で切り盛りしているお店のよう。あまり急かしてはいけない。まあ、バスに間に合わなければそれはそれでいい。

料理を待ちながら店内を見回す。昔、おばあちゃんが作っていたような手芸品が店のあちこちを飾っている。うわあ、懐かしいなあ、うちの祖母もこんなのを作っていたような気がする。

昭和を感じさせる手作りの小物類
昭和を感じさせる手作りの小物類
昭和を感じさせる手作りの小物類が店内を飾っていた

そばのテーブル席に座っている老夫婦は、真っ赤なまぐろの刺身を肴に昼ビールをキメている。いいなあ、いいなあ。

「お待たせしました……」

全く待つことなく、おかあさんが料理を運んできてくれた。予想外の早さで驚く。鶏の唐揚げ、付け合わせのサラダ、小鉢、漬物、味噌汁、白飯。正統派の「和定食」だ。

からあげ定食
からあげ定食、付け合わせの野菜もたっぷりでうれしい

まずは唐揚げを一口。食べやすい大きさにカットされている。すごく大きい唐揚げにかぶりつくのも悪くないけど、口をあけてがつっと食べられる、ちょうどいい大きさなのが好ましい。噛んだ瞬間の「ザクッ!」、肉を噛みしめたときに「じゅわーっ」と肉汁が染み出す感じ。いいねえ、いいねえ!ニヤニヤしながら白飯を一口、そして次の唐揚げに箸をのばす。

からあげ定食
からあげ定食、ちょうどよい大きさの鶏の唐揚げが山盛り

今日の小鉢はモヤシとチンゲンサイ、豚肉の炒め物。味が濃過ぎず薄過ぎず、やさしい味わいだ。白飯とともに白菜の漬物を一口。ああ、これもまた昔実家で母親が作っていた漬物と同じような手作りのやさしい味。アツアツの味噌汁を一口。……はあ、生き返るね、温まるね。

夢中で食べ進めた。ごちそうさまでした、お腹いっぱいです。

お会計のとき、おかあさんがやさしくおっとりした声で「帰りのバスは大丈夫ですね?」と声をかけてくれた。気にかけてくださっていたんだな、ありがとうございます。まったく問題なかったです。

バス停にバスが到着する音がする。ちょうどよかった、外で待たずにバスに乗れそうだ。隣の席の老夫婦のテーブルを見ると、皿の上のまぐろは少し減り、飲みものは日本酒に変わっていた。いいねえ、この店でそんなふうに下山後にゆっくりできたら、幸せだよねえ。

みやま浜膳

みやま浜膳

寄バス停の前に立つ食堂。定食やうどん・そばなど和食メニューが豊富で、名物はマグロの刺身がたっぷり乗ったまぐろ丼。

住所 神奈川県足柄上郡松田町寄3415
TEL 0465-89-2919

この記事に登場する山

神奈川県 /

シダンゴ山 標高 758m

シダンゴ山は丹沢山塊の南部に位置する山で、震旦郷山と書かれることもある。珍しい山名は、古く飛鳥時代に「シダゴン」と呼ばれる仙人が仏教をこの地に伝えるために住んでいたとされる。このシダゴンが転じて、「シダンゴ」と呼ばれるようになったという由来がある。 山里・寄には、レクリエーションエリアの寄自然休養村があり、夏には多くの家族連れが訪れ、シダンゴ山にもたくさんの人が登る。山頂からの展望はすばらしく鍋割山から伊勢沢ノ頭の稜線が目の前に広がり、南には湘南から真鶴半島までの海岸線が見える。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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